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BL小説・風のゆくえには~2つの円の位置関係19

2018年11月16日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 2つの円の位置関係

【享吾視点】


 合唱大会の翌日、村上哲成は遅刻ギリギリに飛び込んできた。いつもはわりと余裕をもってくるのに珍しい。顔色も悪いし元気もないし、具合が悪いんだろうか……

 ちょっと心配になったものの、休み時間は移動教室が多くて接することもできず、帰りはホームルーム終了後、村上はすごい勢いで出て行ってしまったため、何も話せなかった。でも、学級委員の仕事を終わらせて、人気のなくなった昇降口にようやく到着したところ、

「……何やってんだ?」
 傘立ての上に、村上がボーっと座っているので、驚いて声をかけた。

「帰ったんじゃなかったのか?」
「あー……うん」
「三者面談、今日に変更になって、お父さんくるの待ってるとか?」
「あ……いや。違う」

 とん、と立ち上がった村上。

「キョーゴのこと、待ってた」
「オレ?」

 なんだ?

「何か用か?」
「用っていうか……」

 んー、と村上は言いにくそうに唸ってから、

「5時過ぎまで家帰れないから、それまで付き合ってほしいなーって思って」
「家に帰れない?」

 どういうことだ? 首をかしげたオレに構わず、村上は急いたように「それから」と言葉を継いだ。

「それからうちにきて、ピアノ弾いてほしいなーって思って」
「……………」

 ピアノはもう一切弾かない、と昨日言ったばかりなのに………

「ダメか?」
「………………」

 そんな捨てられた子犬みたいな目で見上げられたら、NOと言えるわけがない。

「……………分かった」
 うなずくと、村上はフニャッと顔を崩して「サンキュー」と言った。

(………………。違う)

 いつもの「サンキュー」じゃない。オレの欲しい「サンキュー」は、いつもの能天気なニカッとした笑顔で………

「村上」
 ポン、と頭に手を置いてやる。

「何か、あったのか?」
「………………」
「………………」
「………………」

 村上はしばしの沈黙の後、

「何も……ない」
 そう言って首を振った。そうされたらもう、聞くことはできない。

(たぶん……松浦暁生と何かあったんだろうな……)

 前に様子がおかしくなった時も、松浦が関係しているようだった。あの時とおなじ顔をしている。

 でも、結局、オレにしてやれることは、あの時と同じ。ピアノを弾くことだけだ。




【哲成視点】

 合唱大会の翌朝、暁生はいつもの待ち合わせ場所にこなかった。ギリギリまで待ったけど、こなかった。でも、帰りは、いつものように暁生の教室の前で待っていたら、「テツ!」と、笑って手を振りながら教室から出てきてくれたので、

(昨日の帰りに怒った風になったの、もう大丈夫なんだな? 朝も何か用事があったってことかな?)

 なんて、ホッとした。のも束の間……。オレの目の前までくると、スッと暁生の笑みが消えた。そして、

「今日、5時まで帰って来るなよ?」
「!」

 低く、脅すような言い方。ゾッと背筋が凍った。今までこんな言い方されたことない……

 でも、暁生は、一歩後ろに下がると、また、ニコッとして、

「悪い、オレ急ぐから。じゃあな」
「………っ」

 周りからは、いつもの暁生とオレのやり取りに見えたかもしれないけど……

(全然、違う)

 あれは、誰だ? あんなの、暁生じゃない。

(怖い………)

 ありとあらゆるマイナスの感情が押し寄せてくる。耐えられなくて、胸を手で押す。

 怖い………怖い。怖い…………

 助けて。

 助けて。

 助けて。

「……………享吾」

 ふっと言葉が口に上がって、自分でも驚いて、息をのむ。

(キョーゴ?)

 って、何言ってるんだ、オレ?

(助けてイコール享吾? ………えーと? あ、そうか。分かった)

 そういえば、この数ヶ月、何度も助けてもらったんだった。だから、思わず名前が出たんだろう。

(ピアノ………聴きたいしな)

 村上享吾の下駄箱を見てみたら、靴が入っていた。まだ校内にいるようだ。

「待つか……」

 それで、ピアノ聴かせてって言おう。きっと村上享吾は弾いてくれる。あいつはそういう奴だ。


***


 4時半まで、村上享吾と一緒に図書室で自習をして、それから、二人で遠回りをしながらのんびり下校したので、うちの前に着いた時には、5時を5分過ぎていた。電気は消えているので、暁生はもう帰ったらしい。ホッとした。

(暁生……約束守ってくれたかな……)

 オレは今朝うちを出る時に、一つ細工をしてきた。「使うのはリビングだけ」という約束を、暁生が本当に守ってくれたかどうか、確認したかったのだ。

(これで、約束破ってたら………)

 もう、家は貸さない。

 …………って言うつもりだったけれど、今の怖い暁生に、言えるだろうか。今日の暁生は本当に怖かった。昨日よりもさらに怖かった。まるで別人だった。あの冷たい目……あんな暁生は暁生じゃない。オレの知っている暁生は、優しくて、おおらかで、いつでも守ってくれるヒーローで……

(…………。大丈夫だよな? 約束破ってないよな……)

 杞憂に終わってくれ、と、心の底から願う。自分一人で確認する勇気がなくて、理由も言わず、村上享吾に付き合わせて、自分の部屋に入ったのだけれども………

「村上!?大丈夫か!?」
 倒れそうになったところを、あわてて支えられてしまった。

(……………暁生)

 身体中の力が抜けていく。

 綺麗にベッドメイクされている……と見えるけれど、オレの付けた小さな印はズレている。と、いうことは、このベッドは使われた、ということだ。 





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お読みくださりありがとうございました!

テツはリビングは使っていいって言ってるんだから、リビングでヤれば良かったのにって思うところですが。リビングには、テツのお母さんの仏壇と写真があるので、さすがの暁生さんも、そこで変なことはできなかったんです。

続きは火曜日に。お時間ありましたらお付き合いいただけると嬉しいです。
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