八郎との縁が流れ、四カ月。時は紅葉の季節に入っていた。時の流れが、これ程遅いと感じた事のない千代。来る日も、来る日も、ぼんやりとやり過ごしていたのである。
そんなある日、佐藤家の女子衆の手が入り用だと、手伝いに向かった千代。
「のぶ様、大層な御馳走ですね」。
「そうよ。今日は大切なお客様ですからね」。
日野で陣屋を営む、佐藤家には参勤交代のあった時代には、大名家が宿泊をしていた名家である。そこで大切な客と告げられ、身が引き締まる思いの千代であった。
空が茜に染まる頃であった。
「兄様、源三郎様も」。
「千代、息災だったか」。
「兄様も」。
歳三の笑顔の後ろには、信じられない顔が。
「伊庭様。如何して」。
「千代さん、お久しゅうございます」。
新入隊士募集の為、江戸へ戻った歳三。上洛の命令が下った遊撃隊の伊庭八郎と、江戸で顔を合わせていたのである。
「千代さん。上洛の命が下りましたので、お別れに参りました」。
今更顔を出せる筋合いもないが、別れは告げたかったと八郎。
「上洛とは、戦になるのですか」。
「そうかも知れません」。
八郎は、これ程早く、時が動くのであれば、千代と夫婦にならずに良かったと言う。
「あなたを悲しませるところでした」。
「そのような事を知らされ、私が悲しまぬとお思いですか」。
縁はなかったが、思いは別である。千代は、漸く遠くなりつつあった八郎の面影が、しっかりと目の前にある事で、その思いに確信を抱く。もはや、家や身分などに逃げる事なく、己の思いのたけを訴えるのだった。
「伊庭様。お命を、お命を大切にしてくださいませ」。
「それでは、武士として働けませぬ」。
「武士でなくとも構いませぬ。私は…、私の為に生きてお戻りくださいませ」。
「千代さん」。
「お待ちしても、よろしいでしょうか」。
「だがな、こんなじゃじゃ馬を嫁にしたいとは、伊庭殿も粋狂なお人だ」。
「じゃじゃ馬なればこそです土方様」。
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そんなある日、佐藤家の女子衆の手が入り用だと、手伝いに向かった千代。
「のぶ様、大層な御馳走ですね」。
「そうよ。今日は大切なお客様ですからね」。
日野で陣屋を営む、佐藤家には参勤交代のあった時代には、大名家が宿泊をしていた名家である。そこで大切な客と告げられ、身が引き締まる思いの千代であった。
空が茜に染まる頃であった。
「兄様、源三郎様も」。
「千代、息災だったか」。
「兄様も」。
歳三の笑顔の後ろには、信じられない顔が。
「伊庭様。如何して」。
「千代さん、お久しゅうございます」。
新入隊士募集の為、江戸へ戻った歳三。上洛の命令が下った遊撃隊の伊庭八郎と、江戸で顔を合わせていたのである。
「千代さん。上洛の命が下りましたので、お別れに参りました」。
今更顔を出せる筋合いもないが、別れは告げたかったと八郎。
「上洛とは、戦になるのですか」。
「そうかも知れません」。
八郎は、これ程早く、時が動くのであれば、千代と夫婦にならずに良かったと言う。
「あなたを悲しませるところでした」。
「そのような事を知らされ、私が悲しまぬとお思いですか」。
縁はなかったが、思いは別である。千代は、漸く遠くなりつつあった八郎の面影が、しっかりと目の前にある事で、その思いに確信を抱く。もはや、家や身分などに逃げる事なく、己の思いのたけを訴えるのだった。
「伊庭様。お命を、お命を大切にしてくださいませ」。
「それでは、武士として働けませぬ」。
「武士でなくとも構いませぬ。私は…、私の為に生きてお戻りくださいませ」。
「千代さん」。
「お待ちしても、よろしいでしょうか」。
「だがな、こんなじゃじゃ馬を嫁にしたいとは、伊庭殿も粋狂なお人だ」。
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