「何を笑っておいでなのです」。
「はい。甘い物を所望なされたのは伊庭様にございますが、少しも進んでおられませんので」。
すると、女御は甘い物が好きと決まっているので、思わず口から出てしまったが、実は餡が苦手であると八郎は少しばかり顔を赤らめる。
「伊庭様、姉様はお幸せだったのでございましょうか」。
すると、八郎の顔がきりりと勇ましく変わり、それはそれで実に盛観であった。
「もちろんです。家茂様はそれはそれは慈しんでおられました」。
ただ、時が悪かったのだと。公武合体に際し、朝廷や公家衆の反感を買わぬ為には、致し方なかったと八郎は告げる。
「世間では、許嫁との仲を裂かれ、嫁下した宮様をお可哀想と言う声が聞こえますが、家茂公とて同じにございます」。
てふを出家させた後、家茂は涙していたと八郎は告げる。
「左様にございますか。でしたら姉様も…」。
言い掛けて千代は口を閉ざす。幾ら将軍でも、元々好いていた相手ではない。美緒の思いなど微塵も受け入れられずに、側室にされたのだ。やはり美緒は無念だった筈である。そんな思いが、頭の中に渦を巻く。
「殿方は良うございます。されど女御は、殿方を選べません」。
「それは千代さんも、そうですか」。
美緒の話が急に己に向けられ、目を見開いた千代。
「無論です。親が決めた相手に嫁ぐのが、女御の定めにございます」。
「では、好いたお方がいたら、どうします」。
「好いたお方ですか」。
頭に描いた歳三の顔を、打ち消すように頭を横に振った千代。
「好いているお方など、おりませぬ」。
すると、八郎の目が悪戯っぽく光るのだった。
「そうですか。千代さんは、お好きなお方がおられるのですか」。
「おらぬと申したではありませぬか」。
更に八郎は、意地悪っぽい笑顔で、こう言うのだった。
「好いたお方と申しましたが、千代さんは、好いているお方とお答えになられた」。
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「はい。甘い物を所望なされたのは伊庭様にございますが、少しも進んでおられませんので」。
すると、女御は甘い物が好きと決まっているので、思わず口から出てしまったが、実は餡が苦手であると八郎は少しばかり顔を赤らめる。
「伊庭様、姉様はお幸せだったのでございましょうか」。
すると、八郎の顔がきりりと勇ましく変わり、それはそれで実に盛観であった。
「もちろんです。家茂様はそれはそれは慈しんでおられました」。
ただ、時が悪かったのだと。公武合体に際し、朝廷や公家衆の反感を買わぬ為には、致し方なかったと八郎は告げる。
「世間では、許嫁との仲を裂かれ、嫁下した宮様をお可哀想と言う声が聞こえますが、家茂公とて同じにございます」。
てふを出家させた後、家茂は涙していたと八郎は告げる。
「左様にございますか。でしたら姉様も…」。
言い掛けて千代は口を閉ざす。幾ら将軍でも、元々好いていた相手ではない。美緒の思いなど微塵も受け入れられずに、側室にされたのだ。やはり美緒は無念だった筈である。そんな思いが、頭の中に渦を巻く。
「殿方は良うございます。されど女御は、殿方を選べません」。
「それは千代さんも、そうですか」。
美緒の話が急に己に向けられ、目を見開いた千代。
「無論です。親が決めた相手に嫁ぐのが、女御の定めにございます」。
「では、好いたお方がいたら、どうします」。
「好いたお方ですか」。
頭に描いた歳三の顔を、打ち消すように頭を横に振った千代。
「好いているお方など、おりませぬ」。
すると、八郎の目が悪戯っぽく光るのだった。
「そうですか。千代さんは、お好きなお方がおられるのですか」。
「おらぬと申したではありませぬか」。
更に八郎は、意地悪っぽい笑顔で、こう言うのだった。
「好いたお方と申しましたが、千代さんは、好いているお方とお答えになられた」。
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