大江戸余話可笑白草紙

お江戸で繰り広げられる人間模様。不定期更新のフィクション小説集です。

百花繚乱 仇桜 ~時の流れの中で~ 七

2011年12月13日 | 百花繚乱 仇桜 ~時の流れの中で~
 「美緒が自害したと」。
 「はい」。
 「何があった」。
 千代の目が勇と登をちらりと見る。
 「分かった。どっちみち、千代の宿を探さなくちゃならねえんだ。送りがてら聞こう」。
 「宿って兄様。千代は、ここには泊まれぬのですか」。
 「あたりめえだ。ここは男所帯だぞ」。
 着いて来いと、歳三は立ち上がる。その素っ気なさに幾分気落ちする千代であったが、それでも、勇と登に礼を言うと、静かに従うのだった。
 「さあ、聞かせて貰おう。美緒は如何して自害したのだ」。
 歳三が向かった先は、壬生村の八木源之丞の屋敷。つい二年前まで屯所として借り受けていた名主の元であった。
 女御ひとりで宿を取るのは、心許ないので是非とも面倒を見て欲しいと、歳三が頼み込んだのである。
 「姉様は、将軍様の御側室にございました」。
 「側室だと。家茂公か」。
 美緒は奥奉公に入り、直ぐに家茂の目に止まり側室となったが、折しも和宮との公武合体が決まると、宮家の心情を害す事を恐れた幕閣によって、扇ガ谷の尼寺へ入れられた事。
 そこで男児を産み落としたが、不幸にも子は数日で夭逝した事。その後、気鬱に陥った美緒は自刃して果てたと、千代は一気に話す。
 「くそっ、家茂。一発ぶん殴ってやるんだった」。
 何も知らずに、美緒を死に追いやった相手の警護をしていたのかと、唇を噛む歳三の頭を拳で殴った千代であった。
 「痛えっ。何しやがる」。
 「家茂様を殴るなど、恐れ多い。それに、殴られなければならないのは、兄様にございます」。
 「馬鹿言うな、どうして俺が殴られなくちゃならねえんだ」。
 歳三は心外だと、千代を睨む。こちらも負けじと睨み返した千代。ひと度大きく息を吸うと、一気に捲し立てるのだった。
 「兄様は、三味線屋の琴様と、祝言のお約束をなされました。その事で姉様は、大奥へと上がったのでございます」。



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