限りなき知の探訪

45年間、『知の探訪』を続けてきた。いま座っている『人類四千年の特等席』からの見晴らしをつづる。

想溢筆翔:(第445回目)『YouTube大学に見る中田敦彦の独学術(前編)』

2024-02-04 10:01:50 | 日記
中田敦彦氏のYouTube大学は登録者数が500万人を越える巨大なサイトだ。私が中田敦彦氏のことを知ったのは、数年前に人から彼のYouTube大学のことを教えられてからだ。早速チェックしてみると流石に元芸人だけあって、アップされていた教育動画はお笑いの要素が満載であった。ただ、昨年あたりから、スタイルや話題をかなり変えて、バージョンアップした、いわゆる「2.0化」ともいうべき進化を遂げている。

もっとも、世の中には、彼のしゃべる内容が「薄っぺらい」「誤解を与える発言がある」と批判する人も多い。確かに、その指摘も納得できる。たとえば、彼自身も韓国・朝鮮事情に関して以下に示すように動画を何本かアップしているが、続編のビデオでは、視聴者から発言内容の間違いをいくつも指摘されたと率直に述べている。
 日韓関係①】日本と韓国の歴史【한일 관계 ①】일본과 한국의 역사
 【韓国&北朝鮮①】朝鮮半島の歴史と反日感情の理由



中田氏の知識に間違いがあると指摘する人に言いたいが、世の中の所謂、識者や大学者と呼ばれている人でさえ、臆面もなく間違った意見を堂々と述べていることだってあるということだ。一番有名なのが、日本の文化人にとって最高の栄誉である文化勲章を授与された江上波夫の「騎馬民族征服説」であろう。この説に対しては、彼の存命中でさえ多くの疑念が出されていたが、彼は自説を信じ切っていたため、まったく撤回することなく死去した。それから数十年経った今では、彼の論説はほぼ完全に否定されている。

私は以前に「騎馬民族征服説」そのものも読み、また反対意見も読んで、反対意見の方に納得を覚えたので、江上波夫の見識に対して長らく否定的に考えてきた。ところが、最近彼の『学問の探検』(佼成出版社)という回想記を入手して読んだところ、彼の学問探求の情熱や方法論に感心した。とりわけ、世間の著名人の意見や学界の常識にとらわれることなく、自分で原典や現地調査から推論を重ねていくというその方法論は私のやりかたとそっくりであると知った。それで、彼の「騎馬民族征服説」に対しては今でも否定的ではあるものの、学者としての学問探求姿勢に対しては称賛を惜しまないものである。

江上波夫だけでなく、大家で間違った意見を堂々と述べていたもう一つの例としては、和辻哲郎が挙げられる。和辻の有名な本『風土』は、しばしば高校の国語の教科書などに取り上げられるが、この本の内容に関しては私の以前のブログ
 百論簇出:(第144回目)『リベラルアーツを極めるための読書法』
でも指摘したように、全くもって実証主義精神の欠落を露呈するものである、と私には思える。ところが、彼自身は自説に大いに自信をもっていたようで、この本をわざわざドイツ語に翻訳して出版した。自己の見識の浅はかさを、頼まれもしないのに自分から世界に対して吹聴したのである。こういった大家の例に比べると、現時点の中田氏の知識の足りない点があるなどというのは、ほんのかすり傷程度であると言えよう。

初めから完全であるものは何もない。電話が初めて開通した時、エジソンの第一声は「ワトソン君、ちょっとこっちに来てくれないか」 ではなかっただろうか? 年月をかけて、失敗を経験したり読書を積み重ねていくことで人は成長するものだ。

さて、私が中田氏のYouTube動画について語りたいのは彼の知識の欠陥や間違いを弁護をするためでなく、彼のYouTuberとしての仕事ぶりから、ロールモデルとなり得る「独学術」を学んでほしいからだ。つまり、物事の理解の浅さや間違った発言・記述などを気にしていると知識レベルは高まらない。そんなことより、どのようにして知識レベルを高める方法を身につけるかである。彼のYouTube動画の作成の方法から、独学術のポイントをつかみとることができる。

続く。。。
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