限りなき知の探訪

45年間、『知の探訪』を続けてきた。いま座っている『人類四千年の特等席』からの見晴らしをつづる。

【座右之銘・142】『insectatur vitia non homines』

2024-05-26 20:59:04 | 日記
プリニウスといえば、世間の人は山崎マリの漫画『プリニウス』を連想するだろうが、実は、プリニウスと呼ばれているローマ人は2人いる。漫画『プリニウス』の主人公の大プリニウスとその甥で、大プリニウスの養子となった小プリニウスである。一般的にプリニウスといえば、大プリニウスを指すほど、大プリニウスの方が圧倒的に知名度が高い。(ちなみに、セネカの場合は反対であり、カトーは大カトーと小カトーのいずれも著名である。)



さて、大プリニウスは本職は政治家・軍人である博物学者として名高い。それに対し、小プリニウスも同じく政治家であるものの、専ら書簡文を得意とする文筆家として名高い。その小プリニウスの書簡は10巻あるが、その第1巻の10には、彼が師事する哲学者のエウフラテース(Euphrates)への敬愛の念が溢れている。立ち振る舞いから、人に対する深い思いやりや寛容など、非の打ちどころのない人物として描かれている。とりわけ、私が感銘を受けた点は次のように記されている。

【原文】insectatur vitia, non homines,
【私訳】(師は)罪を責めるも、人を咎めず
【英訳】he attacks vices, not idividuals,
【独訳】er verfolgt die Laster, nicht die Menschen,
【仏訳】il fait la guerre aux vices et non pas aux hommes.

この句は、何も知らずに読むと、あたかもキリストの言葉かと思うだろう。確かに、ヨハネによる福音書、第8章3~11節に姦通罪で捕らえらえた女を罰しようとした人々イエスは次のように言っている。「あなた方の中で、罪を犯したことのない者がこの女にまず石を投げなさい」と言うと、人々は一人また一人と散って行った。誰もいなくなると、女に向かって「今後は罪を犯さないように」と諭した。あるいは、私はまだ見つけられていないが、中国古典にも同様の文句があるかもしれない。

私は、ドイツに留学した学生時代以降、ギリシャ・ローマの古典を数多く読んできた。そして、深く感じるのは、彼らのもつ人間性(φιλανθρωπια, humanity)は時代や地域を超えて崇高で、普遍性の高いものを持っていて、現代の我々の琴線に直接響くものをもっているということだ。・
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