(前回)
王朝の倒壊時には、数多くの英雄が出現する。秦から漢にかけては、項羽や劉邦だけでなく、范増、季布、韓信、陳平、など挙げればきりがないほどいる。また、隋の煬帝が暗殺されて李世民が唐を建国するときにも数多くの英雄が出たが、そのなかに竇建徳(とう・けんとく)という人物がいた。
竇建徳は義理堅い人であったようで、ある村人の親が死んだときに貧乏で葬式を出してやれないと聞いて、野良仕事をしていたが、即座に仕事を放りなげて、その村人の家に行き自腹をきって葬式を出して挙げた。これによって、竇建徳の名は一挙に知れ渡ったという。(嘗有郷人喪親、家貧無以葬、時建徳耕於田中、聞而嘆息、遽輟耕牛、往給喪事、由是大為郷党所称。)
また、竇建徳の父が亡くなった時、会葬者が 1000人を超えたという。香典などは全て、受け付けなかった。このように竇建徳は大変義理堅い人であったが、それよりも高く評価されたのは、常に兵士と苦労を分け合ったことだ。それで、兵士は皆は死力を尽くした。(毎傾身接物、与士卒均執勤苦、由是能致人之死力)
そういった義理堅く、部下の心をつかむ策略に長けた一面、胆力もある人だったのは次のエピソードからわかる。
***************************
馮夢龍『智嚢』【巻11 / 479 / 竇建徳】(私訳・原文)
隋末の英雄・夏王の竇建徳がまだ微賤だった時、夜中に屋根から家に強盗が忍び入った。竇建徳はそれに気づき、扉の陰に隠れてたちどころに3人の強盗を殺した。残りの強盗は恐れをなして入ってこず、屍を返してくれと叫んだ。竇建徳は「縄を投げ下ろせ、そしたら結んでやる」と答えた。強盗たちは縄を下ろしたので、竇建徳はその縄に自分を括り付けて「引っ張り上げよ」と命じた。刀を携えて、上に引っ張り上げられるや、またもや残りの強盗を皆殺しにした。これによって一躍有名となった。竇建徳は泥棒を殺すのをゲームをするように楽しんだ。
夏主竇建徳微時、有劫盗夜入其家、建徳知之、立戸下、連殺三盗、余盗不敢入。呼取其屍、建徳曰:「可投縄下係取去。」盗投縄而下、建徳乃自係、使盗曳出、捉刀躍起、復殺数盗。由是益知名、以誅盗為戯。
***************************
よほど、自分の腕に自信がないとできない技だが、流石に一代の梟雄と目されるだけあって、やりかたは生半可でない。残念なことに、後年、唐に対抗して帝位に就いてからは、驕るところがあり、最後は李世民の捕われて処刑された。
『日本人が知らない、アジア人の本質』(ウェッジ)の第2章《人間不信の中国》では「人命はゴミより軽い」というタイトルで、欧米人の中国観察記録の幾つかを引用した。このような記事を現在書けば、軒並みに「反中を煽る」と糾弾されること間違いないが、 100年には事実としてあったことを認識する必要がある。そして、このようなことは何も100年前に急に始まった訳ではなく、以下の文に見るようにずっと以前からあったというのが中国の悲劇だ。
***************************
馮夢龍『智嚢』【巻11 / 481 / 李福】(私訳・原文)
唐の李福が知事(尚書)に任ぜられて南梁を治めた。領地には昔からの名門の子弟が多く住んでいたが、その中の不良たちが悪行を重ねていた。前の知事は何の取り締りもしなかったので、庶民は困っていた。李福の仕事ぶりは厳格、果敢であった。職人に大きな竹籠を数個作らせた。最もたちの悪い不良数人を呼び出し、家系や朝廷に親戚がいるかどうかなどを尋ねた。それから不良たちに向かって「君たちの家は地方の名家であるにも拘わらずこのような悪行をして先祖や親戚に対して恥ずかしいとは思わないのか?今日の罰を聞けば、親族はきっと大喜びする事だろう」と言って竹籠に閉じ込めて漢江に沈めて殺した。これ以降、名門の子弟たちは行いを慎むようになった。
唐李福尚書鎮南梁。境内多朝士荘産、子孫僑寓其間、而不肖者相効為非。前牧弗敢禁止、閭巷苦之。福厳明有断、命織篾蘢若干、召其尤者、詰其家世譜第、在朝姻親、乃曰:「郎君借如此地望、作如此行止、毋乃辱於存亡乎?今日所懲、賢親眷聞之必快!」命盛以竹籠、沈於漢江、由是其儕惕息、各務戢斂。
***************************
むかし、鄭の子産が、残酷なほどの厳罰を課すことが犯罪防止に効果があると後継者の子大叔に遺言して死んだ。しかし、子大叔は厳罰を課すのに忍びず、刑を緩やかにした。その結果、鄭には盗賊が増えて手に負えなくなった。子大叔は、ここにきてようやく子産の言ったことを理解して、盗賊全員をとらえ、皆殺しにしたことで鄭に盗賊がいなくなった。(『春秋左氏伝』《昭公 20年》)
現在はどうか知らないが、子産の遺言通り、かつての中国では「一罰百戒」のために簡単に人が殺されていたのは数多くの旅行者の証言からも明かだ。
(続く。。。)
王朝の倒壊時には、数多くの英雄が出現する。秦から漢にかけては、項羽や劉邦だけでなく、范増、季布、韓信、陳平、など挙げればきりがないほどいる。また、隋の煬帝が暗殺されて李世民が唐を建国するときにも数多くの英雄が出たが、そのなかに竇建徳(とう・けんとく)という人物がいた。
竇建徳は義理堅い人であったようで、ある村人の親が死んだときに貧乏で葬式を出してやれないと聞いて、野良仕事をしていたが、即座に仕事を放りなげて、その村人の家に行き自腹をきって葬式を出して挙げた。これによって、竇建徳の名は一挙に知れ渡ったという。(嘗有郷人喪親、家貧無以葬、時建徳耕於田中、聞而嘆息、遽輟耕牛、往給喪事、由是大為郷党所称。)
また、竇建徳の父が亡くなった時、会葬者が 1000人を超えたという。香典などは全て、受け付けなかった。このように竇建徳は大変義理堅い人であったが、それよりも高く評価されたのは、常に兵士と苦労を分け合ったことだ。それで、兵士は皆は死力を尽くした。(毎傾身接物、与士卒均執勤苦、由是能致人之死力)
そういった義理堅く、部下の心をつかむ策略に長けた一面、胆力もある人だったのは次のエピソードからわかる。
***************************
馮夢龍『智嚢』【巻11 / 479 / 竇建徳】(私訳・原文)
隋末の英雄・夏王の竇建徳がまだ微賤だった時、夜中に屋根から家に強盗が忍び入った。竇建徳はそれに気づき、扉の陰に隠れてたちどころに3人の強盗を殺した。残りの強盗は恐れをなして入ってこず、屍を返してくれと叫んだ。竇建徳は「縄を投げ下ろせ、そしたら結んでやる」と答えた。強盗たちは縄を下ろしたので、竇建徳はその縄に自分を括り付けて「引っ張り上げよ」と命じた。刀を携えて、上に引っ張り上げられるや、またもや残りの強盗を皆殺しにした。これによって一躍有名となった。竇建徳は泥棒を殺すのをゲームをするように楽しんだ。
夏主竇建徳微時、有劫盗夜入其家、建徳知之、立戸下、連殺三盗、余盗不敢入。呼取其屍、建徳曰:「可投縄下係取去。」盗投縄而下、建徳乃自係、使盗曳出、捉刀躍起、復殺数盗。由是益知名、以誅盗為戯。
***************************
よほど、自分の腕に自信がないとできない技だが、流石に一代の梟雄と目されるだけあって、やりかたは生半可でない。残念なことに、後年、唐に対抗して帝位に就いてからは、驕るところがあり、最後は李世民の捕われて処刑された。
『日本人が知らない、アジア人の本質』(ウェッジ)の第2章《人間不信の中国》では「人命はゴミより軽い」というタイトルで、欧米人の中国観察記録の幾つかを引用した。このような記事を現在書けば、軒並みに「反中を煽る」と糾弾されること間違いないが、 100年には事実としてあったことを認識する必要がある。そして、このようなことは何も100年前に急に始まった訳ではなく、以下の文に見るようにずっと以前からあったというのが中国の悲劇だ。
***************************
馮夢龍『智嚢』【巻11 / 481 / 李福】(私訳・原文)
唐の李福が知事(尚書)に任ぜられて南梁を治めた。領地には昔からの名門の子弟が多く住んでいたが、その中の不良たちが悪行を重ねていた。前の知事は何の取り締りもしなかったので、庶民は困っていた。李福の仕事ぶりは厳格、果敢であった。職人に大きな竹籠を数個作らせた。最もたちの悪い不良数人を呼び出し、家系や朝廷に親戚がいるかどうかなどを尋ねた。それから不良たちに向かって「君たちの家は地方の名家であるにも拘わらずこのような悪行をして先祖や親戚に対して恥ずかしいとは思わないのか?今日の罰を聞けば、親族はきっと大喜びする事だろう」と言って竹籠に閉じ込めて漢江に沈めて殺した。これ以降、名門の子弟たちは行いを慎むようになった。
唐李福尚書鎮南梁。境内多朝士荘産、子孫僑寓其間、而不肖者相効為非。前牧弗敢禁止、閭巷苦之。福厳明有断、命織篾蘢若干、召其尤者、詰其家世譜第、在朝姻親、乃曰:「郎君借如此地望、作如此行止、毋乃辱於存亡乎?今日所懲、賢親眷聞之必快!」命盛以竹籠、沈於漢江、由是其儕惕息、各務戢斂。
***************************
むかし、鄭の子産が、残酷なほどの厳罰を課すことが犯罪防止に効果があると後継者の子大叔に遺言して死んだ。しかし、子大叔は厳罰を課すのに忍びず、刑を緩やかにした。その結果、鄭には盗賊が増えて手に負えなくなった。子大叔は、ここにきてようやく子産の言ったことを理解して、盗賊全員をとらえ、皆殺しにしたことで鄭に盗賊がいなくなった。(『春秋左氏伝』《昭公 20年》)
現在はどうか知らないが、子産の遺言通り、かつての中国では「一罰百戒」のために簡単に人が殺されていたのは数多くの旅行者の証言からも明かだ。
(続く。。。)