限りなき知の探訪

45年間、『知の探訪』を続けてきた。いま座っている『人類四千年の特等席』からの見晴らしをつづる。

ベンチャー魂 -- コーエー元代表取締役・松原健二氏による講演(その3)

2011-01-20 00:06:14 | 日記
前回から続く。。。

松原さんはアメリカのMITに留学する前から英語のレベルが高く、留学してから一層その英語に磨きをかけ、非常にしっかりとした流暢な英語を話される。それで、海外とのビジネスにおいては、MITの卒業生ということもあって幅広い人脈をお持ちである。日本でも東京大学という一流の大学を卒業しているのだが、海外では一度も『彼は University of Tokyo の卒業生(alumni)』と紹介されたことはなく、決まって『彼は MIT の卒業生(alumni)』と紹介されるという。つまり、グローバルには東京大学という名は知名度が低く、日本の大学である程度としか認識されていない、と言うことのようだ。

私も海外の人達との付き合いがあるので同じような経験を何度もした。確かに日本の大学でもノーベル賞級の研究をしている研究者もいるが、それがいずれも知る人ぞ知る、狭い範囲の認知度に止まっている。この原因はどこにあるか、という議論になると、決まって『日本語というバリアのせいだ。アメリカやイギリスの大学は英語という有利な点があるから数多くの留学生が押しかけるのだ』と、日本語にその罪をなすりつける。

しかし、曲がりなりにも日本、ドイツ、アメリカの3ヶ国の大学教育を経験した私から見て、やはりアメリカの大学教育の質は高いと感じる。それは、入学時の学生の学力が高い、というのではなく、よく練られてカリキュラムをコンスタントにこなしていくことで、卒業する頃になると日本の学生よりもかなり高い素養を身に着けている割合が多い。そして何より自立した考えをもち、新しいことにチャレンジしていく学生がキャンパスに多いことが留学生を惹きつける魅力にもなっていると私は感じる。

学生が伸びる教育とはどういったものか、という事を経験する意味でも短期でもよいからアメリカに限らず海外の大学に学ぶことを私は勧めたい。



さて最終回は、学生の質問とそれに対しての松原さんの答えと同時に貴重なアドバイスをお伝えする。

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  【学生とのQ&A】

【質問】ゲーム業界に移ろうと思ったきっかけは、何ですか?

【答え】私は、自分自身がどのようなところで社会に貢献できるのか、力を発揮できるかというと、もの作りやサービスを作るということのマネージメントだと思っています。日立で、コンピュータを作る仕事をしていて、自分の作った計算機が世の中に出ていき、広く社会で使われることが楽しいと思いました。それが一番の自分の強み。もうひとつは自分は新しいものが好きで、新しい技術を生かして、これまでにないモノやサービスを作りたいと常々思っていました。 友人を通じてオンラインゲームというものを聞いたときに、インターネットを利用したサービスとして、新しい可能性があるなと思いました。それがきっかけですね。

もう少し一般化すると、自分の強みとか、能力が発揮しやすい分野は何かということを、きちっと経験の上で把握することが大切と思います。皆さんは学生なので、経験や実務の能力は白紙ですけれども、自分が興味を持って打ち込めることを持っておくことが大事だと思います。卒業後、仕事について、皆さんの実力を持ってすれば、きちっと成果は挙げることが可能です。その成果を積み重ねて、次のステップに行けばいい、と言うことです。

皆さんから見ると、私は日立から、オラクル、コーエーへと移り、異色のキャリアのように見えるかもしれませんが、私の頭の中では、ものを作る、サービスを作るということを終始、軸として据えています。日立で培った、もの作りの考え方が、オラクルやコーエーでもやっぱり通用するし、また新たな経験や知識をその上に重ねることが出来ると感じています。

【質問】尊敬する経営者や人物がいれば、教えて下さい。

【答え】深く傾倒する経営者はいません。ただ様々な局面で行われる経営者の判断という事象には興味を持っています。あえて言えば、GE(General Electric)経営者のジャック・ウェルチさん。なぜかと言うと、非常にロジカルな考えを示し、それを実行に移す指導力を持つからです。そして、大事なことですが、とても人間味があるから。 留学中に得た知識ですので、現在は多少違うかもしれませんが、GEでは毎年社員の評価を行って、下位7%程度の人が転職を勧告されます。有体にいえば首を切られるそうです。でも、それは組織を活性化させるために、組織を停滞させないために、必要なシステムだと、GEは割り切っている。こういった、日本人から見るとすごく大胆なマネージメントを、積極的に導入する。事業戦略も、その業界で1位か2位になれないものは、止めようと言う。中途半端な事業が収益性が悪い、これはある程度常識であるけれども、 GEのような大企業でを徹底することはとても難しいと思います。 

一方で、ウェルチさんはとても人間味のある方で、日本経済新聞の「私の履歴書」を楽しく読みましたが、いかに人との出会いが大切であるかなどを語っています。

【質問】(インターネット普及などにより)グローバルの垣根がどんどん無くなっていますが、これから卒業する私達に何かアドバイスはないでしょうか?自分が興味を持ったことを行うときに、いまの時代はどのようにすればいいでしょうか?

【答え】皆さんへのアドバイスは、やはり日本に閉じこまらないで、グローバルに通用する人材というものを意識しておいてほしい。それは、語学だけではない。日本人としての考え方、そして海外との付き合い方を身につけることが大切です。 何か仕事をするときに、国内の市場だけを考える業界はもうどこにもない。日本の市場というものは、大きいけれども、残念だがこれからは広がりを見せないし、海外との隔たりはますます小さくなってくる。皆さん、海外を含めて仕事をすることを意識して、これから勉強をして経験を積んでほしい。そして可能であれば、早いうちから海外経験を積んでほしい。

グローバル人という、あたかも一つのモデルのようなものは、私は存在していないと思います。自分は日本人で、世界の人々との付き合い方を知っているというのが、グローバル人。日本人として、日本人のアイデンテティを持った上で、他の国の人達との付き合い方を身につけてほしい。アイデンティを持つということは、広く言えば日本の文化を理解して、自分の国はどうなの、自分の考え方はどうなのと聞かれたときに、しっかり答えが出来ることだと思います。また、海外の異なる意見に耳を傾けることも大切。自分の意見をゴリ押しでもないし、ただ自分の意見をしっかりと持てる。そういうのが、とても必要だと思います。 

語学も乗り越えなければいけないですね。私も日本人の中では、英語は話せるほうだと思いますが、やっぱりグローバルなビジネスをするには、もっと英語力をつけたいと思う。英語の教育は、残念ながら昔とほとんど変わっていない。つまり皆さんが大学教育までで身に付けた英語では、海外では通用しない。逆に、ひょっとすると今の学生さんは、非常に安定志向で国内志向になっているかもしれない。海外に行きたいとか、語学を、英語を身につけようということに関して、積極的な人がすくないとしたら、それはとても残念に思います。

私も留学をしたときに英語の生活をすることに不安を持っていた。大学においても、日常生活においても、当たり前だけどコミュニケーションは必要。最初は不安もあるが、努力を重ねれば、それこそなりふり構わずに相手に伝えれば、ちゃんと意思疎通も出来るでしょう。

【質問】MBAに行くきっかけと、取得した後で、それがどう効いてきたのか教えてください。

【答え】きっかけは高校の時。英語のタイピングを身に付けたいと思っていたら、従姉がMBAの受験に合格したので、不用になったタイプライターを私にくれました。その従姉からMBAとはどういうものかを聞き、興味を持ちました。 大学院在学中は、博士課程に進んでアメリカに留学してPh.D(博士号)を取得するか、就職してMBAに留学するか、どちらかを希望していました。そういう面では、かなり以前から留学を意識していました。

MITでの学生生活は、初めの数カ月は授業の内容や、英語についていくのに精一杯でしたが、最初の学期を終える頃には馴れたように思います。

MBAを修了してどんな効果があるかというと、仕事を探すのに役立ちます。MBAホルダーは、ビジネスに関わる勉強を修めている、英語が出来るという証として見てもらえます。また、海外の人と付き合いするときなどに役立ちますね。例えば、アジアの経営者や政府機関の官僚は、アメリカ留学経験を持つ方が多いので、その経験を話して打ち解けることが出来たりします。

知識として何を身に付けたかと言うと、ビジネスには学問で体系化できる部分と、後は実例で学ばなければいけない両方の部分があると思いますが、前者について、経営に必要な基礎を身につけられたと思う。会計学、ミクロ経済学、マクロ経済学などは、実際の経営でも直接に役立つ学問ですね。

また、人とのネットワークが出来ます。海外にいる同窓生とそう頻繁に会うことはできませんが、最近はSNSも活用されているので、海外との広いネットワークを活用する機会はこれからもっと広がると思います。

【質問】このベンチャー魂の系譜の授業で、私はふたりの経営者について調べてました。松本大さんと孫正義さんです。孫正義さんは、二十歳ぐらいのときまでに志を立て、それから夢に向かって一直線に進んでいました。一方、松本大さんは、その場その場で、考えられる選択肢のうちで選んでいる感じでした。起業家には、このようなふたつのタイプがあると思うのですが、私は松原さんは、松本さんのタイプに似ているという印象を受けました。そのようなタイプの松原さんに聞きたいのですが、人生という大枠の中で、夢というものはありますか?

【答え】孫さん、松本さんと個人的なおつきあいはないので、詳しくは判りませんが、お二人とも経営者として夢を持っているのは共通していると思います。その夢はひとりひとり違うし、さらに夢を実現するアプローチも違うでしょう。

私のビジネスマンとしての夢は、モノ作りやサービスを通じて、これまでにない新しい価値を創り出し、世の中で使ってもらいたい、ということです。社会人になった当初は、もっと漠然としていましたが、経験を積むことによって夢としての意識がだんだん強くなったように感じています。

極端にいえば、世の中には夢はなくても衣食住が出来るだけの稼ぎが得られればよい、という考える人もいるでしょう。でも人はそれでは耐えられないのではないでしょうか。自分のしたことに対して、何かしらフィードバックを得て、満足や達成感を得たいと思うのが自然でしょう。

私は新人採用の説明会では、夢を持って下さいということと、コミュニケーションを大切にして下さい、という二点を必ず伝えてきました。社会人になると、当たり前ですが壁にぶつかります。仕事の面でも、いろんな面においても。それを乗り越えるパワーというのは、自分自身で生み出さなければいけない。どこから出てくるかと言うと、私はこういう仕事をしたい、こういう人になりたい、という夢だと思うのです。全て順風満帆な人などいないし、失敗も重ねるので、社会人になるとどんどん履歴書が汚れてくる気がする(笑)。でもそれが人生なのではないでしょうか。皆さんも夢を抱いて、壁を乗り越える経験を積んで、人生の航路を進んでください。

本日はありがとうございました。(拍手。。。)

(完)
コメント
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