モンテスキューはフランスの啓蒙思想家として名高い。その『法の精神』は、実に多くの本を引用している。主たるものは、古典ギリシャ・ローマの書物であるが、我々日本のことにも筆が及んでいるのは意外であった。
日本や中国の情報は、当時（1700年ごろ）中国に布教のために滞在していた宣教師の書いた本から得たようだ。彼らヨーロッパの宣教師はほとんどの場合、中国語が読めなかったので、情報収集はもっぱら耳に頼っていたと考えられる。それを引用してモンテスキューも、滑稽を通り越して、あきれ返る理論を展開している。
例えば、第四部、第23編、第13章では、日本と中国の人口が多い原因について、次のような記述がある。
『魚の油質部分が生殖を盛んにする物質を含んでいるのであろう。それで、日本と中国に信じられないほどの多くの人間がいるのは、魚ばかり食べているからであろう。』
【原文】Peut-être même que les parties huileuses du poisson sont plus propres à fournir cette matiere qui sert à la génération. Ce seroit une des causes de ce nombre infini de peuple qui est au Japon & à la Chine, où l’on ne vit presque que de poisson.
【英訳】Perhaps even the oily parts of fish are more proper to furnish that matter which contributes to generation. This may be one of the causes of the infinite number of people in Japan and China, where they live almost wholly on fish.
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また、第五部、第25編、第3章では、日本人が宗教に寛容な理由を、まずタルタル人（モンゴル人）から説き起こしている。
『寺院を持たない人民は自分たちの宗教にあまり執着しない。タルタル人がいつの時代にも宗教に寛容であったのは、そういった理由からだ。』
【原文】Les peuples qui n’ont point de temples, ont peu d’attachement pour leur religion : voilà pourquoi les Tartares ont été de tout temps si tolérans.
【英訳】Those people who have no temples have but a small attachment to their own religion. This is the reason why the Tartars have in all times given so great a toleration.
まず、タルタル人は宗教に寛容であった歴史的事実を指摘する。これは、確かにモンゴル帝国ではそうであった。しかし、問題なのは、この部分の注で、モンテスキューは日本について次のように述べている箇所である。
『このような（タルタル人が宗教に寛容な）態度が日本人に伝えられた。この日本人がタルタル人起源であることは、容易に証明できる。』
【原文】Cette disposition d’esprit a passé jusqu’aux Japonois, qui tirent leur origine des Tartares, comme il est aisé de le prouver.
【英訳】This disposition of mind has been communicated to the Japanese, who, as it may be easily proved, derive their origin from the Tartars.
つまり、日本人の先祖はモンゴル人であり、その移住先の日本でもかつての故郷と同様の習慣を保っていた、というのがモンテスキューの理屈なのだ。自分で確かめずに、不確かな宣教師たちの情報を拠り所とした点にモンテスキューの間違いの根源がある。私は、モンテスキューを『前車の轍』として、伝聞だけで喋々するのを戒めなければ、と思った。
日本や中国の情報は、当時（1700年ごろ）中国に布教のために滞在していた宣教師の書いた本から得たようだ。彼らヨーロッパの宣教師はほとんどの場合、中国語が読めなかったので、情報収集はもっぱら耳に頼っていたと考えられる。それを引用してモンテスキューも、滑稽を通り越して、あきれ返る理論を展開している。
例えば、第四部、第23編、第13章では、日本と中国の人口が多い原因について、次のような記述がある。
『魚の油質部分が生殖を盛んにする物質を含んでいるのであろう。それで、日本と中国に信じられないほどの多くの人間がいるのは、魚ばかり食べているからであろう。』
【原文】Peut-être même que les parties huileuses du poisson sont plus propres à fournir cette matiere qui sert à la génération. Ce seroit une des causes de ce nombre infini de peuple qui est au Japon & à la Chine, où l’on ne vit presque que de poisson.
【英訳】Perhaps even the oily parts of fish are more proper to furnish that matter which contributes to generation. This may be one of the causes of the infinite number of people in Japan and China, where they live almost wholly on fish.
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また、第五部、第25編、第3章では、日本人が宗教に寛容な理由を、まずタルタル人（モンゴル人）から説き起こしている。
『寺院を持たない人民は自分たちの宗教にあまり執着しない。タルタル人がいつの時代にも宗教に寛容であったのは、そういった理由からだ。』
【原文】Les peuples qui n’ont point de temples, ont peu d’attachement pour leur religion : voilà pourquoi les Tartares ont été de tout temps si tolérans.
【英訳】Those people who have no temples have but a small attachment to their own religion. This is the reason why the Tartars have in all times given so great a toleration.
まず、タルタル人は宗教に寛容であった歴史的事実を指摘する。これは、確かにモンゴル帝国ではそうであった。しかし、問題なのは、この部分の注で、モンテスキューは日本について次のように述べている箇所である。
『このような（タルタル人が宗教に寛容な）態度が日本人に伝えられた。この日本人がタルタル人起源であることは、容易に証明できる。』
【原文】Cette disposition d’esprit a passé jusqu’aux Japonois, qui tirent leur origine des Tartares, comme il est aisé de le prouver.
【英訳】This disposition of mind has been communicated to the Japanese, who, as it may be easily proved, derive their origin from the Tartars.
つまり、日本人の先祖はモンゴル人であり、その移住先の日本でもかつての故郷と同様の習慣を保っていた、というのがモンテスキューの理屈なのだ。自分で確かめずに、不確かな宣教師たちの情報を拠り所とした点にモンテスキューの間違いの根源がある。私は、モンテスキューを『前車の轍』として、伝聞だけで喋々するのを戒めなければ、と思った。
