ガタゴトぷすぷす~外道教育学研究日誌

川口幸宏の鶴猫荘日記第2版改題

翻案 パリ・コミューンと少年(17)激動のパリ 続

2018年09月30日 | 研究余話
6⊸2
 ぼくたちのバリケードの後ろで守られながら、ぼくたちはヴェルサイユが不意に打って出てくるかどうか尋ねあう。:彼らはとにかく北からも南からも来るかもしれない。でも西から彼らは来るだろう。アレシア通りを通って。彼らはぼくたちのバリケードを背面から攻撃する。
 戦闘はおそろしい。ヴェルサイユは営舎を作らない。彼らは教会に入るために発砲する。銃の音を聞いて、ぼくは褐色の法衣をまとったサン・ピエールとかいう名前の人のことを思い描く。その手に鍵を持っている。:ブルーの法衣と白いヴェールを身にまとったヴェイエルジュ・メールとかいう人は片腕にピンク色した子どもを抱いている。石膏でできた鍵、子どもが凶悪な突風を受けて炸裂する。:国民兵がひとかたまり倒れる。10人の国民兵だ。パパ、どこにいるの?ヴェルサイユが鐘楼に登り、留まり撃ちつづける。教会のポーチの隅に隠れ、ぼくはすべてを見る。:血が回廊から地面にまで流れる。近くの石切場から切り出された白い石の上の赤い血。ヴェルサイユが国民兵を捕らえた。彼らは国民兵たちを教会のポーチに並べる。絶え間のない一斉射撃のような気がした。

翻案 パリ・コミューンと少年(16) 激闘のパリ

2018年09月29日 | 研究余話
6-1
 大砲が次第に激しく轟く。数日間、国民兵-ラ・コミューンを守る人をそう呼ぶんだけど-が、イシーやヴァンヴの砦を守っている。しかしヴェルサイユはついにそれらをうち破ってしまった。砲弾がパリに落ちてくる。・・・・

 5月最後の日曜日の夜、ぼくたち-ママンとおじいさんとぼく-は、庭園を長く散歩する。その庭園はシャティヨンの隠し門からも、さらにプティ・ヴァンヴやヌーヴェル・キャリフォルニエからも遠く離れている。サクランボがほとんど熟している。牡丹が満開だ。春、手に入れるつかの間の喜びに溢れ、ぼくたちはムーラン・ヴェールの郊外レストランに立ち寄り、おじいさんは白ワインを、ママンとぼくはレモネードを飲む。ちょうど三人の国民兵がテーブル席に移動し、円卓で次のように書いているときだ。
「6時に、ヴェルサイユが、防御しないままでいたオトイ門とセヴェル門から入った。富裕街の人々は我々にどんな抵抗もさせようとしない。
 大ブルジョアと貴族はヴェルサイユにいる。他の人々は首都の中心地に逃げた。
 マク・マオン将軍がトロカデロを占拠している。ティエールの軍隊はすでにヴォジラルやグリュネルの大衆街を占拠している。すべての人はバリケードへ!」

 月曜日、ぼくは警鐘の音で目が覚めた。おじいさんが、情報を確かめに出かけ、すぐにぼくたち-ママンとぼく-を迎えに戻ってる。「パリはバリケードだらけだ。ピエロ、我が娘よ、来い、私たちはそれぞれ必要だ!」
 バリケード街はオルレアン通り、サン・ピエール教会通りからアンフェール広場まで点々と並ぶ。私たちの、「四つの道」のバリケードは、非常に重要なものになるだろう。まだ必要ではないけれども、もしヴェルサイユが通りたい、ラ・ポルトゥ・ドゥ・モントロージュのバリケードを乗り越えたいと願うならば。
 それぞれがそこに加わる。男の人も女の人も、そして子どもたちも、通りの敷石を剥がし、運び、取り付ける。専門家-舗装工と石工-たちが、敷石を巧みに配置する。まるで城壁を築くようだ。その他の人たちは、穴を塞ぐために作っている最中のバリケードの上に投げる、土でいっぱいの手押し車を押す。手にシャベルを持ち、ぼくは次から次へと手押し車に土を積む。 
 バリケード作りがほぼ終わった頃に、国民兵が三台の大砲と一台の機関銃を取り付けに来る。パパが彼らの中にいる。でも長い抱擁とキスのためには時間がない。ママンが彼の方に駆け寄った。ぼくは後を追った。パパはとても疲れた様子だ。かれの国民衛兵隊の服はそのみずみずしい色を失っている。ぼくは敷石を運ぶことを続けるながら、大砲を教会の鐘楼の回廊に揚げるのを手伝っているパパを見る。ぼくはあまりよく眠ってない。おじいさんとパパが一晩中他の人たちとバリケードの上に残っていた。ママンが彼らにパンの大きな一切れ、脂身の薄切り、それにとても暖かい麦芽コーヒーを用意していた。コーヒーは、ママンが、暖かさを保つようにと、使い古した『人民の声』でくるんだ、栓のついたボトルにいっぱい入っていた。ぼくがそれらを彼らのところに持っていった。
 モントロージュでは、ヴェルサイユが要塞の一番下にいて、大砲を撃っている。しかしその砲撃は少ないように思われる。不意に砲弾が一発、サン・ピエール教会の鐘楼にあたる。その音が耳をつんざくようだ。耳が痛い。砲弾はモントロージュから届いたのではなく、メーニュ通りを通ってモンパルナスからだ。我が砲兵がすばやく反撃する。危険を警戒しながら、ぼくたちが整えた何台かの大砲を、男たちが回廊に揚げる作業を続ける。ぼくは、鐘楼に襲いかかるヴェルサイユの砲撃を数える。:すでに20以上だ。慣れというのは不思議なものだ。

翻案 パリ・コミューンと少年(15)

2018年09月28日 | 研究余話
5-2
 ママンがぼくに買い物を頼む。ママンがぼくを信頼していることを誇りに思う。ママンはぼくが大きくなったと言うのだ。ママンはお金を計算する。包囲の間、ティエールがパパの軍人俸給を停止したせいで、ぼくたちはかなりひどい目にあっている。でもぼくたちは、それでも今は、パンも肉も不足していない。ぼくはいつも何か野菜を手に入れる。並びながら、人々は、ぼくたちを飢えさせようとしているティエールやヴェルサイユが禁止しているにもかかわらず、野菜栽培業者が、大部分がプロイセンによって占領されているパリで生産物をうまく手に入れると、言っている。おじいさんはまだ、毎晩、シュランスヌの白ワインを一杯飲んでいる。ラ・コミューンの勝利でパパと共にするために取っておく最後のボトルをあけることになっているので、もう飲まない、とおじいさんは言う。
 週に1回、14区の「市営肉屋」で肉を買う。そのお店は、みんなが飢えているので食事ができるようにと、ラ・コミューンが新しく作ったものだ。ぼくはいつまでも「犬と猫の肉屋」のことを忘れないだろう。そのお店へはママンがこの間の秋の終わりに連れて行ってくれた。それはサン・ジェルマン・デ・プレにあった。肉屋はお金持ちの客に、犬とか猫とか分からないように頭と尻尾とが切り取られた、動物を売っていた。おじいさんはぼくたちに、包囲の間、ある豪華な大通りでは、―それはオスマン大通りの「イギリス肉屋」のことだけど-、ジャルダン・ド・プラーント(パリの植物園)の小動物園の動物が売られていた、とさえ言っていた。数日間、通行人は、鉤や看板につり下げられた、ライオンや猿の頭、ダチョウ、象の大きな頭を見ることができていた。
 パリ包囲の間、もしかするとネズミを食べていたとは!

翻案 パリ・コミューンと少年(14)

2018年09月28日 | 研究余話
5-2
ママンがぼくに買い物を頼む。ママンがぼくを信頼していることを誇りに思う。ママンはぼくが大きくと言うのだ。ママンはお金を計算する。包囲の間、ティエールがパパの軍人俸給を停止したせいで、ぼくたちはかなりひどい目にあっている。でもぼくたちは、それでも今は、パンも肉も不足していない。ぼくはいつも何か野菜を手に入れる。並びながら、人々は、ぼくたちを飢えさせようとしているティエールやヴェルサイユが禁止しているにもかかわらず、野菜栽培業者が、大部分がプロイセンによって占領されているパリで生産物をうまく手に入れると、言っている。おじいさんはまだ、毎晩、シュランスヌの白ワインを一杯飲んでいる。ラ・コミューンの勝利でパパと共にするために取っておく最後のボトルをあけることになっているので、もう飲まない、とおじいさんは言う。
 週に1回、14区の「市営肉屋」で肉を買う。そのお店は、みんなが飢えているので食事ができるようにと、ラ・コミューンが新しく作ったものだ。ぼくはいつまでも「犬と猫の肉屋」のことを忘れないだろう。そのお店へはママンがこの間の秋の終わりに連れて行ってくれた。それはサン・ジェルマン・デ・プレにあった。肉屋はお金持ちの客に、犬とか猫とか分からないように頭と尻尾とが切り取られた、動物を売っていた。おじいさんはぼくたちに、包囲の間、ある豪華な大通りでは、―それはオスマン大通りの「イギリス肉屋」のことだけど-、ジャルダン・ド・プラーント(パリの植物園)の小動物園の動物が売られていた、とさえ言っていた。数日間、通行人は、鉤や看板につり下げられた、ライオンや猿の頭、ダチョウ、象の大きな頭を見ることができていた。
 パリ包囲の間、もしかするとネズミを食べていたとは!

翻案 パリ・コミューンと少年(13)

2018年09月26日 | 研究余話
5-1 
 パリの壁は色刷りのポスターが貼られて、陽気な雰囲気を醸し出す。そしてすべてのパリジャンは、ラ・コミューンによって採用された重要な決定を知らせる新しいポスターの前に、ひとまとまりの集団を作って集まり、急に勉強熱心になったように思われる。時として、政治の問題でしかなかった。そしてぼくはそれがほとんど分からない。共和国がフランスの人々の幸せのために帝政に取って代わるのはまったく当然だ。
 読むことができる人がそうでない人に代わって読む。ポスターは子どもたちみんなのための学校を約束する。無料の学用品、男の子も女の子も同等の職業養成をも。ぼくは、何日も会ってないアンドレやアルフレッド、マティウのことを考える。一人目のアンドレは錠前屋になり、二人目のアルフレッドは看板屋になり、三人目のマティウは大工か指物師か、ことによると高級家具師になるはずだ。ぼくは片手に道具、もう片手に板材を持つマティウを思い浮かべる。そしてぼくは、長鉋が削る古びた木から解放される自由の匂いをほとんど感じない。、
 数週間前から学校に行けなくなっており、ぼくは学校に戻ることができればいいと願っていた。ぼくは退屈することはないけれど、ときどきひとりぼっちになってしまう。何日か前から、ママンは我が家から遠くに仕事に行っている。彼女が出かけるのは夜だ。彼女が戻ってくるのは夜だ。他の女の人と一緒に、彼女は薬莢を作っている。
 ぼくたちは大騒ぎだ。ぼくたちは階段席にテーブルを取り付けている。男の人たちは箱を積んでいく。ある箱は銅でできた薬莢がいっぱいつまっており、他の箱は火薬や鉄砲のおくり、鉛が入っている。一つの箱が薬莢でいっぱいになると、男たちはそれを取りに来て、舞台の上に降ろす。
 ママンのきれいな手は、それからは、火薬で黒い。
 おじいさんは印刷所に行く。彼はそこで活版印刷工をしている。ときどき彼はパクティエ(およそ一ページ文の活字を組み立てる印刷工)という。それはあまり学術的でないものを作ることをいうんだけど。傾いた大きな家具の前に立って、片手で文字を選び、もう片方の手に持っている植字架に入れる。文字行「当然の」、彼がそう言いながら、彼は次の文字行に取り組む。彼がいくつもの文字の組み合わせに取りかかりながら、文字を板の上にきちんと並べる、「ゲラ」だ。それからおよそ30行のひとかたまりの端に、彼は一本のひもの「包み」で取り囲み、「組み付け台」の上に置く。おじいさんはその仕事が好きだ。そしてぼくが大人になって彼と同じようにすることをぼくに勧めてくれる。「世の中の仕事の中で一番すばらしい仕事の一つだ、」とよく彼は言う。「一度におまえの手とおまえの頭を使って仕事をする。そしておまえは世界中の人たちの前で新聞を読む。」
 『人民の声』というその新聞を、おじいさんは家に持ち帰ってくる。おじいさんはよくジュール・ヴァレと議論をする。その人は編集長であり、ヴィクトル・ユゴーほどには有名ではない作家だ。でもぼくはそうした文学で生計を立てるには向いていないのではないかと思っている。ぼくは、その新聞を読んでいて、サン・ジェヌヴィエール教会が再びぼくたちの偉人のパンテオンになったということを、知った。その一番高いところでは赤旗がはためいている。ラ・コミューンが死刑を廃止したことで、11区区役所前のヴォルテール像の一番下で、不要になった古いギロチンは燃やされた。

翻案 パリ・コミューンと少年(12)パリ・コミューン成立の日

2018年09月25日 | 研究余話

 何という陽気さ!ぼくはこれほど集まった人を見たことがない。市役所は、正面が規則的でありながらもたくさんの窓が複雑に入り込んだ、真っ白の建物だ。
 広い広場の上には、ぼくが知る限り、赤い旗が三色旗以上の数あるというのはない。
 おじいさんは喜んでいる。彼は大きな真っ赤なネッカチーフをほどく。それは彼が汗を押さえるために、いつも首の回りに結びつけているものだ。戦争の前に、彼は、時々、そのきれいなネッカチーフを、誠実な人のシャツであり、シャツ以上にしばしば取り替えることができる、と言っていた。
「君は見たか?二人のガリバルディの義勇兵を!」
 二人の男が大きな黒い羽のついた、くたびれきった、とんがり帽子をかぶっている。
 おじいさんが感嘆して付け加える:
「彼らはイタリアの自由のために戦ったのだ!」
 ぼくたちは、演壇に近づく。演壇のまわりは国民衛兵隊と市民とでいっぱいに溢れている。銃剣が太陽で煌めき、広場を照らす。
「見たまえ、坊や、そこここにいる人みんな、私たちが選んだ人たちなんだよ」と、一人の衛兵がぼくに言う。
 三色の綬を帯びた一人の男の人が進み出る。:
「私はスピーチをする喜びで胸一杯です。パリの人々が生み出しつつある偉大な手本に対して、ただただあなた方を誉めたたえることをお許しください。」
 別の男の人が、すばやく、席に着き、選ばれた人のリストを読みあげる。楽団がラ・マルセイエーズを演奏する。大砲が轟音を発する。音楽が再び奏でられ、大衆が歌い出す。旗が、銃剣が、ケピが高く掲げられる。音楽が終わり歓声に変わるまで、おじいさんとぼくは、それぞれのネッカチーフを振りかざす。
 演壇で、最初の人が話を続ける。:
「人民を代表して、ラ・コミューンが宣言されます!」
 ものすごいどよめきが上がる。「ラ・コミューン、万歳!」いたるところで硬貨がその輝かしい文書に投げつけられ、太鼓が打ち鳴らされる。人々がキスをしあう。ある人たちは踊る。なんという日だろう!

翻案 パリ・コミューンと少年(11)

2018年09月23日 | 研究余話
3-4
 パパは休憩中だ。ママンはぼくたちが長い間食べてないような濃いスープを作ってくれた。それに指二本分の厚さのある大きな脂身の薄切りを添えて。三人の大人が同時にしゃべり出す。おじいさんは、軽蔑して、ティエールがパリを離れてヴェルサイユに向かったと言う。パパはモンマルトルの公共の建物の中庭で銃殺された一人の将官について話す。ぼくは、それほどのことを知るのにパパはどこにいたのか、パパに尋ねる勇気がない。パパは選挙のことを思い出し、もうぼくから離れない言葉をはじめて口にする、ラ・コミューン。おじいさんが説明する:私たちはコミュナードだ!ぼくが知っているすべての言葉の中で一番美しいと思うひとつの言葉、その言葉に、何もない人々と何でも持っている人々との間の世の中の冨の公正な分配を見いだす。しかも持てる人々が、ぼくたちのように、まさに生活しなければならない人々に。
 ママンは、ぼくたちがデザートの代わりに食べる一切れのパンに塗ることになっているジャムの、壺をまだ開けていなかった。そのパンはウジェンヌが急遽台所で作るのだ。
「もうすぐ勝利だ!明日中に、オテル・ド・ヴィル(市役所)へ!」
 5人揃って、ぼくたちはママンのおいしいジャムを少し食べる。パパがすぐに出かけなければならないのは残念だ!

翻案 パリ・コミューンと少年(10)

2018年09月22日 | 研究余話
3-3
 何というにぎわしさ!朝3時頃に、ラ・ビュットの近くに集められたティエールの雇われ者たちの思うままにさせないように向かい合っている数千の兵士たちが、丘を登るつらい作業に取りかかり、シャン・デ・ポロネを埋め尽くし、曲がりくねった道を通って大砲を降ろすことに着手している。「走れ!ピエロ!警報の発令だ!」ぼくは一瞬ためらう。ぼくは自分の父親のことが心配だ。しかし彼はすばやくぼくのおでこにキスをし、引き返す。
 ぼくはブドウの木の中に走り込み、傾斜を駆け下りる。街が目を覚ます。警鐘が打ち鳴らされはじめる。太鼓が街全体に打ち響く。鎧戸が開く。人々が、家々の戸口の上の、店の戸口の上の窓から姿を見せる。グループが形成される。
 ぼくは着くのが遅すぎる。女たち、子どもたち、男たちはもうラ・ビュットに姿を見せる。ぼくは彼らと一緒にいく。ぼくたちは、馬がないのでまだどの大砲も移動させていない兵士たちの集団に、向かい合う。
 一人の将官がわめく:
「ゲス野郎!この役立たず!」
 一人の下士官が叫ぶ:
「皆!銃を地面に置け!」
 兵士たちが銃を降ろす、そして彼らから武器を取り上げた将校たちに突然飛びかかる。
 ぼくは将官の身を案ずる心持ちなどない。群衆は誰彼かまわずキスを交わし喜びを分かち合う。
 兵士、老人、女、そして子どもが馬の引き綱を切り、すでに移動させられた大砲を回収し、シャン・デ・ポロネまで再度登るのに、ぼくがパパのいるところを知らないのは残念だ。パリの大砲はヴェルサイユに似合わないだろう。

翻案 パリ・コミューンと少年(9)

2018年09月21日 | 研究余話
3-2
 ぼくらは再び歩き出した。
 「ここがシャン・デ・ポロネだよ。」
 灌木の茂みがぼくたちの前に立ちはだかっている。それは、パパと同じ制服を着た男たちによって管理されている空き地の手前だ。ぼくは太陽で光る大砲を数える。一つひとつ、先頭から、数を繰り返し足していく。ムッシュ・パタンから教わったように。20の2倍、もっと…。弾薬の運搬車…・。数え直す。違う。ぼくは間違えた。ぼくは、ある日、おじいさんが言ったことを思い出す。「どうして男たちはいつも大砲を必要としているのだろう?」その瞬間、ぼくは、パパは同じ考えではないという気がした。パパはそれを、国民衛兵隊の大砲を、愛している、と思う。多分、パパが嫌っているティエールやプロシャ人のせいで。
 「ピエロ、大砲は私たちのものだ。私たちは国民の募金で大砲を買ったんだよ。」パパは大砲の筒に手を置き、それをやさしくなでる。
 「こいつは、私たちが、私たち国民衛兵隊、おかあさん、おじいさん、ウジェンヌ、ムッシュ・パタン、アンドレとアルフレッドのおかあさん、マティウのおばあさんが集めた、何千何百という小銭で作られたものに違いない。それで、考えてごらん、ピエロ、ビュット・ショーモンに、シャペルに、ベルヴィルに、ヴォージュ広場と同じ広場があるということを。けっしてプロイセン人には私たちから大砲を奪いとらせることはない。」それでもぼくは、パパが誰かを殺すなんて、信じない。
 ぼくが別の方向にパリ中を見渡すにはあまりにも遅すぎる。ぼくはパパと一緒にそのままいた。


翻案 パリ・コミューンと少年(8)

2018年09月20日 | 研究余話
3-1
 パパは簡単な洗濯を終えた。ぼくはパパに、ママンが、燃やした木の灰で洗濯してくれた、それから刺繍模様の飾りの付いた穴いっぱいに白い蒸気を立てている大きなアイロンを使ってあてたばかりの、下着の入った小さな包みを渡した。アイロンはまるで、貨車を引っ張る機関車のようだ。機関車は、シャティヨン通りを横切っているんだけど、我が家から数百メートルのところではっきりと見えるんだ。
「ジュール、おまえはいい男の子を持った、もじゃもじゃのブロンドの髭を生やした偉人の話をさえぎっている。やつはいつもおれたちの忠告を聞かなかったのに。この子はおまえが我が大砲を見せてやるのにふさわしい。」
「おれがこの子に大砲を見せてやろう」
 ぼくたちはラ・ビュット(モンマルトルの丘)を一歩一歩よじ登る。不揃いな二つの壁にはさまれた不完全な石畳の道の端に、突然現れた水車に驚く。
散歩道の印象を受けた。なぜだか分からないけど、戦争の前の夏のある日曜日のことを考える。その日、ぼくたちはロバンソンの森に行った。そこには大きな木の股にのっかったとても小さな小屋があり、そこからぼくたちはイシーの丘の水車を見かけた。
 パパが立ち止まり、振り返る。眼下にパリ全体をとらえる。何という眺め!山の頂上でもこんなふうに違いない。
「ご覧:ノートル・ダム、ル・パンテオン、それに、遠くに、水平線の方に目をやると、ヴァンヴの丘やイシーの丘、ブドウ並木のあるシャティヨンの丘。それらは水平線に点々としている。:おまえはロバンソンの森のことを覚えてるだろう?」