しましましっぽ

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「償いの雪が降る」 アレン・エスケンス 

2019年07月23日 | 読書
「償いの雪が降る」 アレン・エスケンス   創元推理文庫    
  The Life We Bury    務台夏子・訳

ジョー・タルバートは母親と自閉症の弟ジェレミーとの3人暮らしだった。
問題のある母親は、生活費をジョーのアルバイト代を頼りにする始末。
家庭環境から、高校の進路指導では誰も大学という言葉を口にしなかった。
だがジョーは21歳の時、自分の道を生きる為、母親には置手紙、弟には「出て行くよ」と言ってミネソタ大学に入学する。
履修科目はすでに埋まっていて、意に反して『伝記執筆』を取る。
それは年長者にインタビューをして伝記を書くものだった。
祖父母も父親もいないジョーは介護施設のヒルビュー邸を訪れる。
趣旨を説明すると、カール・アイヴァソンを紹介される。
カールは30数年前に、14歳の少女クリスタル・ハーゲンを殺して有罪になるが、末期がんの為に刑務所からここに移されて来ていた。
カールはジョーに『臨終の供述』について話し、インタビューに応じるにはお互いに正直である事を条件にする。
カールの容態によりインタビューはゆっくりと進むが、その間にジョーは自分でもカールの事件について調べる。
カールは自分の罪を認めていなかった。しかし、自分を救おうともしていなかった。
そんな中、母親が飲酒運転で警察に捕まり、ジェレミーを自分のアパートに連れて来る。
ジェレミーを介して、今まで無視されていた隣人の大学生ライラ・ナッシュと親しくなる。
ライラはカールを嫌悪しつつ、ジョーの調べものに協力してくれる。
2人は裁判記録を読むうち、事件に疑問を持ち始める。







事件解決の物語としても楽しめる。
ジョーの家族の物語も興味深い。
そして、カールの思いも寄らぬ体験。
盛り沢山に色々な感情が沸き起こる贅沢な物語。
重くてズシンを来るが、最後はハッピーエンドなのが良かった。
ジェレミーの存在が温かいし、ジョーの勇気が眩しい。
ちょっと無鉄砲というか、考えなしな所もあるけれど。
カールの体験は、戦争中だから許されるものではない。
それでも、戦争は日常とはほど遠いから、そんな事も起こりうるのか。
理性がなくなる人もいれば、それを保てる人もいる。
カールも保てなかった一人なのかも知れない。
それが、彼の人生をそこでガラリと変えてしまう。生きる意味や気力。
それでも、最後に過ちを訂正して貰えたのは幸せだと感じられたのだ。
ジョーの誰にも言えなかった苦しみも、誰かに話した事によって浄化されるのかも知れない。
人は苦しみを背負って生きるが、その中でも安らぎを見出していいのだと。
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