しましましっぽ

読んだ本の簡単な粗筋と感想のブログです。

「誘拐」 五十嵐貴久 

2009年01月28日 | 読書
「誘拐」 五十嵐貴久   双葉社

大角観光人事部の秋月孝介は、リストラを進める会社でそのリストラを本人に通達する役目を負っていた。
そして、リストラされた葛原が一家心中を図ったという連絡が届く。
秋月の長女宏美は葛原の長女和美と同じ中学1年生で親友だった。
宏美はそのことで秋月を責め、飛び降り自殺をする。
その9ヵ月後、秋月孝介はある誘拐を計画していた。
それは、総理大臣佐山憲明の孫百合。
「この世の中、金で買えないものはない」と豪語するほど傲慢な佐山憲明の弱点は、ひとり娘の忘れ形見でただ一人の孫の百合だった。



なぜ、秋月がこの誘拐計画を立てたかは最後まで読まないと分からない。
名目上は日韓友好条約締結阻止とお金だが、それが本来の目的ではないことは直ぐ分かる。
秋月が会社から裏切られたことを考えると、何かに復讐しようとしているのだとは分かるので、あまり深くは考えずに読み進めることは出来る。
だからか、秋月や共犯者の関口純子の心情は書かれていない。
ゲームのように秋月対警察の構図で楽しめるが、警察が明らかに不利。
政治が絡む、警察側がパニックになるくらいの大事件にも発展する可能性がある。
警察の組織や人間関係の複雑さが拍車を掛けているのだが、その辺りも興味深い。
韓国大統領の来日に伴う警護の為に人員を大量に使い、誘拐捜査に人員を割けないという状況。
警備や捜査に本当に多数の人員が必要な事も知った。
総理大臣にも絶対百合を無事救出して犯人を逮捕せよと理不尽なまでに脅かされ、タイムリミットもある。
そして結局犯人に翻弄されて事件は解決、という。
警察が気の毒になる展開で、最後にそのまま終わっては権威がなくなるとばかりに星野警部の登場となる。
警察にも頭がいい人物がいないと不安になるから。
しかし、決定的な証拠が見つかる過程が、不満。
細心の注意を払い、身元を隠して来た秋月は、そんなことはしないだろうと。
秋月の心の中に、どこかで捕まりたいという思いがあったのかも知れないが、もし証拠を残すとしてもここではないだろうと。
最後に秋月孝介という人物がとても優しい人であることが分かる。
親しい人の命を救えなかったことの後悔から起こした誘拐だったが、この後、立ち直れたのだろうか。
ラストも、一人の少女が係わっているだろうと思っていたので、やっぱりという感じはあった。
そんなこんなで、色々突っ込み所はあるが、結構物語の中にのめり込め、面白かった。

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