しましましっぽ

読んだ本の簡単な粗筋と感想のブログです。

「廃墟に乞う」   佐々木譲 

2011年10月21日 | 読書
「廃墟に乞う」   佐々木譲         文藝春秋

6編からなる連作短編集

「オージー好みの村」
オーストラリア人が多いニセコ町。
貸し別荘のオーナー、アーサー・リチャーズに殺人の容疑が掛かる。
自分のコテージで若い女性が殺され、第一発見者だったためだ。
アーサーの友人の中村聡美は、かつて事件の証言者として仙道と出会っていた。
町には、オージーを排除したいという機運があり、このままでは犯人にされてしまうと言う。

「廃墟に乞う」
千葉の船橋のラブホテルで、顔を鈍器で殴られ死亡した事件。
13年前に仙道が扱った事件と酷似していた。
その時の犯人、古川幸男が、仙道に連絡して来る。
仙道は、古川の故郷へ向かう。
それは、かつての炭鉱の町。
取り調べの時、古川に自分の町を知らないことを軽蔑されていた。
それが気になり、裁判に顔を出したのを古川は覚えていた。

「兄の想い」
若い漁師の石丸が、漁協幹部の竹内勝治を殴り合いの後、魚を捌く刃物マキリで刺し殺す。
漁師は共同体を組み、漁に出る。
石丸が、竹内の共同体を離れ移籍したのがトラブルの原因と思われた。
しかし、石丸は刃物は持っていなかったと言う。
殺人か、傷害致死か。

「消えた娘」
婦女暴行犯、高田峰矢が、逮捕に向かった警察官から逃げ、トラックに轢かれて死亡する。
高田の部屋やから、行方不明になっている宮田由美のハンドバックが発見される。
由美の血痕が発見されていることから、すでに死亡していると思われた。
遺体がなく、被疑者死亡の事件は難航する。

「博労沢の殺人」
競走馬生産牧場のオーナー、大畠岳志が自宅で殺害される。
容疑は、父親と不仲だった息子に向けられる。
仙道は、大畠が17年前にこの土地で起こった殺人事件の被疑者だったことを記憶していた。

「復帰する朝」
かつて事件解決につながる証言をしてくれた、ホテル従業員の中村由美子から、相談が来る。
帯広にいる妹の春香に殺人容疑がかけられ、マスコミが押しかけて難儀していると言う。
帯広には、仙道がかつて組んでいた刑事、秋野がいた。
仙道は帯広に向かうが、すでにマスコミの姿はなく、警察も事情聴取程度だと言う。
由美子が、春香の人柄に付いて話いてくれると言ったスナックのママは、まったく反対の話をする。






北海道警察捜査一課の刑事、仙道孝司は、自宅療養の必要があり休職中。
心療内科の医師が勤務復帰オーケーの診断を下さない限り、本来の勤務にはつけない。
その状態が11か月続いている。
そんな中でも、仙道は助けを求められると、自分の出来る範囲で捜査していた。

本来の警察小説とはちょっと違う視点の物語。
調査にも限界があり、捜査している警察の邪魔も出来ない。
探偵とも違い、警察と言わなければならない。
そんな設定だからか、何となく全部が似た感じ。
仙道が療養をしなければならない理由は最後に分かる。
短編の中のひとつで語られることなので、少し内容よりも重みが感じられなかった。
もっとこれだけをじっくりと取り上げると深みが増すのでは、と思ってしまった。
仙道のキャラクターが、あまり個性がなくはっきりしないから。
全体に、短編の物足りなさを感じるものが多かった。

「復帰する朝」はなんだか凄い話だった。

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