しましましっぽ

読んだ本の簡単な粗筋と感想のブログです。

「西巷説百物語」 京極夏彦 

2022年02月02日 | 読書
「西巷説百物語」 京極夏彦  角川書店  

大阪随一の版元にして、実は上方の裏仕事の元締である
一文字屋仁蔵の元には、数々の因縁話が持ち込まれる。
いずれも一筋縄ではいかぬそれらの筋道を 
心づくしの仕掛けで通してやるのは、
あの又市の悪友にして腐れ縁の、靄船の林蔵。
二ツ名通り、死人が操る亡者船さながらの口先三寸の嘘船で
それと知れぬ間に彼らを彼岸へと―連れて行く。
「これで終いの金毘羅さんや―」
   <単行本カバー見返し側より>

「桂男」
月を長く見ていると寿命が縮むと言う。
帳屋の林蔵が懇意にしている、杵乃字屋の剛右衛門。
今までの生き方に満足して、これからは余生を気楽に暮らすと言う。
しかし、娘お峰に舞い込んだ縁談の相手が、店の乗っ取りを企んでいると言う噂を聞き、反対にやり返すと熱意を見せる。

「遺言幽霊 水乞幽霊」
遺言を残さなかったり、死に水を与えられなかった死者は幽霊になる。
小津屋の次男、貫蔵は気が付くと布団に寝かされていてた。
番頭の文作によると、倒れて3月、意識がなかったと言う。
兄貫助が殺されて、父親貫兵偉と喧嘩して勘当されたことは覚えていた。
しかし、貫蔵の記憶は1年前からなかった。
その間に父親の貫兵偉も死んで貫蔵は家を継いでいた。

「鍛冶が嬶」
土佐の佐喜浜の鍛冶、助四郎は妻の八重が笑わなくなった事に戸惑い困惑していた。
助四郎は八重の為に何でもしたし、嫌な事がないように気を配っていたのに。
八重は中身が変わってしまい、人ではないものになったのでは、と。
ここには、鍛冶の妻は狼だったと言う伝説があった。

「夜楽屋」
人形浄瑠璃の夜の楽屋では、演じた情が乗り移って人形が動き出すと言う。
その人形争いで、頭が1つ割れる。
8年前、そんな人形争いに巻き込まれて、浄瑠璃師が死んだ事があった。

「溝山」
10年前、美曾我五箇村を疫病が襲う。
封鎖された村に戻り、死体を集めて焼いて、生きている人に食べ物を運んで助けたのは、村を放逐されていた寛三郎だった。
その死体を焼いた荼毘ヶ原で毎晩、声が聞こえて来ると言う。
「怨めし怨めし、骨は骨、皮は皮」と。

「豆狸」
酒屋新竹の当主、与平は最近わずかだが売上が合わない事を気にする。
林蔵は、それは狸が子どもに化けて酒を買いに来るマメダだろうと言う。
店にも戻り奉公人に聞くと、毎日子どもが酒瓶に1合だけ買いに来ると言う。
銭函を見ると、小銭の中に紅葉の葉が入っていた。
その子どもの顔形を聞き、与平は愕然とする。それは幽霊だと。

「野狐」
船宿『き津祢』の女将、お栄は裏の渡世の事もわかり、生きる為には何でもして来た。
お栄は13年前に、妹のお妙を亡くしていた。
その原因はお妙の思い人だった林蔵と、林蔵が騙そうとした放亀の辰造。
お栄は、林蔵が上方に戻ったと知り、一文字屋仁蔵に依頼に行く。
それは林蔵を探して連れて来る事と、一文字屋と同業者の放亀の辰造を殺すこと。






『遠巷説百物語』を読んだ後、この本を読んでいない事に気が付いた。
舞台が上方、大阪になり主人公は又市に悪友、林蔵。
最後に諸国を巡る戯作者志望の青年・山岡百介が最後に登場して、始めの「巷説百物語」とつながった感じ。
始めの物語があり、それに林蔵たちの仕掛けがあり、最後に真相が分かる。
始めの物語が、語る人により本当とは限らない。
語る本人が本当だと思っていても、それは思い込みや忘れている事がある。
今回はそんな物語が多く、見方によって変わって来る現象が面白い。
そして、人はどう生きるべきか、そんなこともしっかりと伝わって来る。
はやり、このシリーズは面白い。
仕掛けは大掛かりなものから、知恵を使ったものと色々。
「夜楽屋」の浄瑠璃人形の頭を1日で作ると言う種明かしは、分かってしまえば簡単で驚く。
個人の負の感情から生まれる物語が多く、人間の業の深さが表される。
だから「豆狸」はほっとさせられた。
辛い話だけれど、はやり世の中は生きている人たちの世界なのだ。
絵草紙版元の一文字屋仁蔵から仕事を請け負う林蔵。
林蔵と一緒に仕掛けをするのは、横川のお龍、献残屋の柳次、祭文語の文作。
「野狐」はオールスター、仁蔵、又市、玉泉坊も加わる。
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