しましましっぽ

読んだ本の簡単な粗筋と感想のブログです。

「英雄の書」 宮部みゆき

2009年07月05日 | 読書
「英雄の書」 宮部みゆき  上/下巻  毎日新聞社

中学2年生の森崎大樹は同級生をナイフで刺し、姿を消す。
大樹の妹、小学5年の友理子は呆然とした気持ちで大樹の部屋にいて、思い出すことがあった。
何日か前の真夜中、大樹が何か黒く大きな人影に向かって跪き深く頭を下げる姿だった。
夢を見たと思っていたが、その時に大樹が歌っていたメロディがふと口を付く。
すると、友理子に話し掛ける声があった。
それは、赤い革表紙の古い本。
本は、大樹の行動は、その大きな黒い影“英雄”に魅入られたからだと言う。
友理子はその赤い本の仲間達と出会い、“印を戴く者(オルキャスト)”ユーリとなる。
“無名の地”へと運ばれたユーリは、無名僧と出会い、その世界について知る。
そして『英雄の書』の封印を解く〈最後の器〉となってしまった大樹を探すことになる。




ファンタジーなので、設定が自由自在。
無名の地、万書殿、咎の大輪、英雄と黄衣の王、印を戴く者。
きっと宮部さんの頭の中には、その世界と法則が広がっているのだろう。
それをこちらに伝えるのに、ちょっと苦労しているような感じがする。
世界は、今私達が居る“輪”の中で展開するもうひとつ、人間が作り出した物語の世界が係わっている。
物語とは文字に現わされた本だけではなく、語られることもそう。人間が生きてることも物語になるという。
それが、今を生きている人間にも影響を及ぼすのだが。
何となくその辺りがしっくり来ない。
言いたいことは何となく分かるのだが、それがストレートに伝わって来ない。
そして最後まで読んでも、大樹がなぜ同級生をナイフで切りつけ、一人を死なせてしまうほどの行動を取ったのかが、理解というか、納得出来なかった。
これがこの物語の始まりなのだから、最後には解明されると思っていた。
一応説明はあるのだが、結構一般論であっさりと片付けられてしまった感じがする。
個人の大樹という人間を考えた時、英雄になりたい気持ちに付け入らたとしても、かけ離れ過ぎている気がする。
殺してもと単純に思うほど、暴力的な性格でもなかったはず。
この辺りはちょっと、映画の『ゲド戦記』のアレン王子の親である王様を刺したシーンを思い出させた。
こちらも、はっきりせずに終わったのだが。
そして、物語=嘘だが、それをこの世界でどうしていったらいいのかも、曖昧なままな気がする。
結局どうでもいいのか、問題があったら対処するしかないのか。
物語を先に持ち、それを実現させようと生きることの負になるなら、夢を持つ事も負になるのだろうか。
物語を持ってもいいのか、持たない方がいいのか。
持たざるを得ないものだから、対処していけばいいのか。
何となくすっきりしない世界だった。



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