Learning Tomato (旧「eラーニングかもしれないBlog」)

大学教育を中心に不定期に書いています。

vol323:日本教育工学会 第25回全国大会 参加記その2「eポートフォリオ」

2009年10月11日 | セミナー学会研究会見聞録
日時:2009年9月19日(土)~ 21日(月)
会場:東京大学(本郷キャンパス)
主催:日本教育工学会(JSET)
大会Webサイト:http://www.jset.gr.jp/taikai25/

日本教育工学会全国大会の模様をお伝えする第二弾。今週は「eポートフォリオ」というテーマでお伝えしていきたいと思います。今回の大会では「e-Leanirngシステム」という一般研究と、「eポートフォリオ-初等教育から高等教育まで-」という課題研究の中で取り上げられており、相変わらずこの分野のホットイシューになっていました。

一般研究e-Learning(システム)での発表
まず情報システムという側面での一般発表では、東京学芸大学の舘野 智紀さんの「メタ認知を促進し教員養成を支援するeポートフォリオ・システムの提案」という発表が筆者的にはイチオシの内容でした。単に正課の授業の記録を保存するだけでなく、サークル活動やアルバイトなど正課外の活動も保存できるeポートフォリオにしてはどうかというユニークな提案だったからです。

一般にリーダーシップや対人関係能力等は、授業よりサークル活動やアルバイト等の正課外の活動で養われるケースが多いと考えられます。特に教職課程であれば塾や家庭教師のアルバイトを通じて未来の教師としての能力を開発する学生が少なくない筈です。こうした活動の記録を収集保存し、うまく正課活動と連携させることができれば、これは強力なツールになりそうです。

しかしそれらの活動のeポートフォリオへの入力をどう促進していくか等、運用面の課題がネックになることが予想されるので、その辺りの解決案が今後検討の必要ありと思った次第です。

もうひとつのシステム面の発表は、熊本大学 宮崎 誠さんの「OSP を活用した eポートフォリオシステムの開発」です。こちらはSakaiの一部のツールとして組み込まれているOSP(オスピィ)と呼ばれるeポートフォリオシステムの運用に関する発表でした。熊大教授システム学専攻のコンピテンシーリストを元にマトリクスを設計し実装しているそうです。

オープンソースのeポートフォリオシステムにはOSPの他にもMahara等がありますが、筆者のパッと見た印象では、どちらのシステムもシンプルすぎて、実際に自大学に導入する際はかなりカスタマイズが必要なのではと思った次第です。なおOSPやSakaiのイロハを抑えておきたい方は名古屋大学の梶田先生による『Sakai and Open Source Portfolio』の一読をオススメします。


課題研究「eポートフォリオ-初等教育から高等教育まで-」
こちらの課題研究は、日本女子大の小川先生、兵庫教育大学の永田先生がコーディネータとなってeポートフォリオをとことん考えようという2時間半のセッションでした。5件の発表を行った後でディスカッションの時間が取られました。主に教員養成課程で用いられたeポートフォリオの発表が多かったのが特徴的でした。

まず東京学芸大学の森本 康彦先生から「共有・再利用によるeポートフォリオの有効活用を支援するeポートフォリオ・マネジメント・システムの提案」という発表がありました。筆者は森本先生の発表を前回Jsiseの全国大会でも拝聴させていただいたのですが、どちらもパワフルで素晴らしいプレゼンテーションでした。
eポートフォリオにおいてデータの共有と再利用を優先してデータベースを構築すると、学習者の学習活動と評価が切り離されて管理されることになってしまい、学習者のリフレクションが誘発されにくい。しかし一方で学習活動や評価活動を一体化させ、エビデンス群と対応づけて管理しようとすると、データーベースがとても複雑な構造になってしまうというトレードオフの関係があります。本発表の中ではそうした問題を解決するため、eポートフォリオの形式的記述モデルを定義し、これで管理するシステムを提案していました。文系の筆者には話はやや難解な部分もある発表でしたが、eポートフォリオの根本的な問題点を突く鋭い発表でした。

続く3件の発表は、教職大学院や教職課程といった、未来の先生を育成するプロセスでeポートフォリオを活用した実践事例でした。先生の卵が作成するポートフォリオなので、ティーチング・ポートフォリオとラーニング・ポートフォリオの中間と位置づけることもできるなあなどと考えながら聴いておりました。今回の発表では教育実習での活動の報告や相談事項、振り返り等を日々Web上のシステムにUPしていく仕組みを取られているケースが多く、元営業マンの筆者は、営業日報のシステムを思い出してしまいました。

最後は司会も担当されていた、小川先生より「ロールモデル型eポートフォリオを活用したキャリア支援システム」についての発表がありました。この内容については、かつてJsiseの研究会でお話しいただいたこともあり、本メルマガBlogにもバックナンバーを掲載しておりますので下記を参照願います。
vol.288:教育システム情報学会「産学連携シンポジウム」


まとめ「eポートフォリオとLMS(CMS)」
筆者としてはポートフォリオはあくまでも「自己省察のためのツール」と考えています。従って運用の前提は「自己記入・自己管理」。もっと言うなら、記述内容の開示レベルや開示する対象者までも本人が決めてよいのではと考えております。また、ポートフォリオを名乗るからには、データのポータビリティが良くないといけません。単に大学生活だけで活用するのでなく、学習活動の記録は本人のものとして卒業後も活用できるるといいなあと考えてます。いっそのこと、大学教育だけでなく、後々社会人になってからの学習の記録や評価も一元的に管理できるようになればベストですよね。

この考えでいくと、eポートフォリオとLMS(CMS)の決定的な違いというのは、前者は学習者自身のセルフマネジメントを支援するシステム、後者は学習を管理する者(教員等)が学生の学習活動を管理するためのシステムという点ではないかと考えています。しかし現実にはeポートフォリオとLMSは重複する機能が少なくありません。また社内SNSみたいなものとeポートフォリオマネジメントシステムもかなり似たような仕組みを持っているケースが多いことも事実です。

これからは各システムのメインの役割をもっと明確にして、我々ユーザーはそれらをコンポーネントのように組み合わせて活用できればよいだろうなあと思った次第です。

さて次回は、本学会報告の最終回は「EyeOpener」四方山話」という視点で、研究発表をご紹介したいと考えております。

最後まで読んでいただきありがとうございました。
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