Learning Tomato (旧「eラーニングかもしれないBlog」)

大学教育を中心に不定期に書いています。

e-Learning World & Conference2008参加記

2008年08月03日 | セミナー学会研究会見聞録
筆者の中では、すっかり夏の風物詩になってしまったe-Learning World & Conferenceですが、今年も7月30日~8月1日の日程で開催されました。今回はカンファレンスを中心に初日と2日目に行って参りました。

普段、伊勢原の山奥のキャンパスで学生相手に仕事をしている筆者にとって、「都会」「海」「社会人(かつての知人)」といつもと異なる環境に接することができ、それだけでも刺激的な2日間となりました。

さて、今回は下記の3つのSをテーマにe-Learning World & Conferenceの参加報告記をまとめてみたいと思います。

1)SCC(Story Centerd Curriculum)
2)SRL(Self-Regulated Learning)
3)SaaS(Software as a Service)

今回は最初のS=SCC(Story Centerd Curriculum)について報告します。

SCCとは何かについては、熊大の修了生の方が執筆しているBlog「A Tribute to R.M.Gagne」の中でまとめてらっしゃるのでそちらを参照願います。

ストーリーセンタード・カリキュラム(1)
http://gagne.jugem.jp/?eid=248
ストーリーセンタード・カリキュラム(2)
http://gagne.jugem.jp/?eid=249
ストーリーセンタード・カリキュラム(3)
http://gagne.jugem.jp/?eid=250
ストーリーセンタード・カリキュラム(4)
http://gagne.jugem.jp/?eid=252
ストーリーセンタード・カリキュラム(5)
http://gagne.jugem.jp/?eid=253

今回、eラーニングカンファレンスの初日のトラック「インストラクショナルデザイン最新動向~ストーリー型カリキュラムとは何か~」は全編についてのセミナーSCCでした。

カンファレンス前半では、Northwestern UniversityのKemi Jona先生から、SCCの概要とカーネギーメロン大学(以下CMUと略)でのSCCの実践事例についてレクチャーいただきました。また、後半では、現在熊本大学の教授システム学専攻で取り組んでいるSCCの事例について、筆者の旧友である産業医科大学の柴田先生とマイク小山田氏からレクチャーいただきました。

SCCの源にはGBS(ゴールベースドシナリオ)という教材開発の考え方があります。

従来の知識伝達型の授業やeラーニングの場合、「せっかく学習してもすぐ忘れてしまう」「覚えた知識を実務でどう適用するかが分からない」というデメリットがあります。これを解決しようとするのが、GBSの考え方でして、本学でもTaraーReba eラーニング等で実践してきました。
http://www.hj.sanno.ac.jp/elearning/tarareba/

しかしGBSにも欠点があります、GBSに沿って教材を開発することにより学習効果の高いeラーニングコンテンツを創ることができるのですが、教材開発にコストや時間がかかり過ぎるてしまうのです。GBSの効果はそのままに、なんとか安く早く開発できないかというのが課題になっており、そんな背景からSCCは生まれてきたようです。詳細は別セミナーでのKemi Jona先生の資料が下記サイトからダウンロードできますのでそちらを参照願います。
http://subsite.icu.ac.jp/iers/nihongo/page2.html

GBSの良さを残しつつ、開発コストを下げる秘訣は下記の3点です。

秘訣その1:シンプルなWebサイト
ストーリーの説明等では、Flashのアニメーション等を使わずeラーニング的には極めてシンプルな作りにしています。両事例とも上司や先輩からの「Mail」で具体的な仕事の指示が与え、それに対する問題解決を続けていくという学習手順となっていました。

秘訣その2:ランニングでカバー
GBSの場合、学習者の意志決定によってシナリオを分岐させて・・・といった面倒な事を最初に開発するのですが、その代わり運用段階ではそこに人が関与する必要がなくなります。
SCCの場合、面倒な分岐構造等をシステム上で開発せず、代わりに学習者のアクションを見て適宜メンターが対応していくという方略を採用しています。つまり、GBSに比べてイニシャルコストは安くできるものの、SCCではランニングに手間がかかるようです。

秘訣その3:既存のeラーニング教材を活用
熊本大学の事例では、既に2年間実施してきた教授システム学専攻のeラーニング教材を極力活用しています。新たに開発するのはストーリーです。既存の教材間の関連性と個々の教材と実際の仕事との関連性を認識できるよう、1セメスターに続く長いストーリーを新たに開発し、そのストーリーの文脈に沿って既存の教材を提示していくことにより、極力開発コストを抑えています。

以上3点から考えると、CMUおよび熊大でSCCが成功したのは、少数の社会人大学生を相手にしているというシチュエーションが大きく影響しているのではないかと筆者は考えています。今回社会人大学院生の数十人を対象とした取組なので人海戦術が成立しているものの、これが企業内教育のように数百人、数千人単位の実施となった場合、ランニングフェーズでの人海戦術は不可能となります。すると、GBSのように最初にコストをかけるか、それが不可能であれば従来の知識伝達型教授方略を選択するしか道はないのでしょうか。

また、対象としている学習者のモチベーションも大きいと思います。社会人大学院生のように、仕事から帰ってきて疲れた身体で夜中の1時2時まで学習を続けられるような高いモチベーションを持った人達の集団であれば、別に動画やアニメでコンテンツを飾る必要はないのです。むしろそうしたフリルは邪魔者とすら感じる学習者なんではないかと思います。しかし、これが学士課程の学生等を相手にすることを考えると、果たしてついてきてくれるのかどうか分かりません。

さらに言うと、熊大の場合、現行のカリキュラムをSCCの形に改変できたのは、元からあった科目がコンピテンシーに沿って開発されていたからに他なりません。先生が教えたいことだけを科目にしているような専攻では、後からストーリーを作りそこに科目を当てはめようとしてもまず上手くいきません。現実の仕事場面で必要となるスキルやコンピテンシーを明確にしてカリキュラムや科目を設計していることがSCC化する際の大前提となるのです。そうでない場合は、ストーリーを考えつつ、教材(科目)も考え直すという恐ろしく手間のかかる開発工程になりそうです。

筆者は当初SCCを、eラーニングコンテンツ開発手法の救世主のように考えていました。しかし実際には相当敷居は高く、活用できるシチュエーションも限定されるのではないかと考えています。さしあたり企業内教育では、次世代幹部養成研修等、少数精鋭の学習者を対象としたような長期間にわたる訓練プログラムで使えそうではあります。

じゃあ、条件が合わないeラーニングは結局知識伝達型の学習でやらざるを得ないのでしょうか?実はそんな事はないという新たな可能性を、翌日のカンファレンスで知ることになりました。その一つがSRL、もう一つが他の学習者から学ぶという考え方です。

これについては長くなったのでまた今度報告します。

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