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Learning Tomato (旧「eラーニングかもしれないBlog」)

大学教育を中心に不定期に書いています。

vol175:熊本大学の挑戦

2005年12月22日 | 大学のeラーニング
年末にもかかわらず300人近くの来場者!
12月19日、熊本大学とメディア教育開発センター(NIME)の共同主催セミナー
「eラーニングの新展開-学習の質を保証する人材養成を目指して-」に行ってま
いりました。
折りしもこの日はラーナーセントリックな私にとって、大学院の通信教育第二レ
ポートの締切日。少々迷いましたが、まあなんとかなるだろうということで
Let's Go。

「年末だし、セミナーの宣伝時間も少なかったから空いているだろうなあ」と思い
きや、なんと申込み277名中260名参加という大勢の方の集まったイベントで、あら
ためて質保証の問題、いやインストラクショナルデザインへの関心、いやいや熊本
大学のeラーニング専門家養成のための新しい大学院「教授システム学専攻」につ
いての関心の高さを認識した次第です。

講演いただいたのは、NIMEの理事長清水康敬先生、JAPET会長の坂本昂先生、日本
イーラーニングコンソーシアムの小松秀圀会長、さらには熊大の「教授システム学
専攻」を背負うヒゲのIDer鈴木克明先生、熊本大学副学長の足立啓二先生と、eラ
ーニング版「紅白歌合戦」のような豪華メンバーでした。

全てを紹介していると年が越してしまうので、ここでは鈴木先生と、足立副学長の
お話を紹介したいと思います。

「どこかで見たようなスライドだとぉ~」
実はセミナーの後の懇親会に出席し、鈴木先生にいきなり言われたのがこの言葉で
した。何号か前にNIMEのセミナーでの鈴木先生の講演をまとめた本メルマガの文章
を鈴木先生は読んでいたのでした。(詳細は下記参照)
http://blog.goo.ne.jp/sanno_el/e/d5c72ad3c36a95e1354fb5d93dbdf31b
さらに「他の人の講演は沢山取り上げているのに、俺は4行でサラッだもんなあ~」
と連続パンチ。そうしたこともあり?今回は鈴木先生の講演を大々的に取り上げます。

質保証の4モデル
冗談はさておき、今回の発表で鈴木先生はeラーニングの質保証のレベルについて
大変興味深いモデルを提示していらっしゃいました。先生は「まだ完璧じゃないから
色々突っ込まれそうなんだけど」と少し遠慮がちにコメントしておりましたが、非常
に分かり易いモデルで今後相当活用されそうな予感がしました。

具体的には
 レベルマイナス1---いらつきのなさ
 レベル0---うそのなさ
 レベル1---わかりやすさ
 レベル2---学びやすさ
 レベル3---学びたさ
という5つのレベルでeラーニングの質を見ていくモデルです。

レベルマイナス1---いらつきのなさ
これはアクセス環境や回線速度、サービスの安定度からくるeラーニングの学習環境の
ことを指します。すぐフリーズしちゃったりしたら勉強する気もなくなりますからね。
ハーツバーク風に言えば「衛生要因」、だからあえてマイナス1としたのではないかと
推察しています。

レベル0---うそのなさ
これは教材内容の正確さや解釈の妥当性など、サブジェクトマターに関する要件の質
保証を指します。単にうそを書いていないというレベルでなく、妥当性がキーワード
なのではと推察しています。

レベル1---わかりやすさ
これは情報デザインの要素としての「わかりやすさ」で、操作性やユーザビリティ等に
該当する質保証を指します。多分このあたりまでは本学のeラーニングもなんとか頑張っ
ているかなと思っています。

レベル2---学びやすさ
達成指標として学習課題の特性に応じた学習環境、学習者のニーズにマッチした学習支
援要素等を挙げています。個別の学習者への対応(支援)によって実現できる質の保証を
指しているのではないかと推察しました。(間違っていたらごめんなさい)

レベル3---学びたさ
継続的な学習意欲を喚起したり、ついプラスアルファの事まで学んでしまうような魅力を
備えたeラーニングになっているかどうかという視点で質保証するレベルです。

めざせ日本のカークパトリック
しかし家に帰って、現実のeラーニングのサービスを各達成指標に当てはめて考えてみると
「どっちのレベルかな~」と悩んだり、達成指標ごとに主なID技法を当てはめた部分に
やや無理があるかなと感じた次第です。

と、多少の突っ込みどころを含んでいるものの、セミナーを聞いた直後は「測定する分野は
違うもののカークパトリックのレベル4を越える凄いモデルになるんじゃないか」などと考
えたぐらい。近年一番感銘を受けたモデルであることは間違いありません。

カークパトリックは効果測定のレベル4だけで40年間教育効果測定界のTOPの座に君臨し、
おまけに息子のジムまでこの道のスペシャリストとして活躍させるという教育業界版
「石原一族」を実現しています
(ちなみにジムはニコラス・ケイジ似というのが業界のトリビアの一つ)
http://www.cuenterprise.com/cue_jim.php

鈴木先生も質保証の5レベルを確立すればきっと一族安泰です。
期待しています。

熊本大学の教育研究とeラーニング
熊本大学の足立啓二副学長による「熊本大学の教育研究とeラーニング」という発表では、
1997年から取り組んできた熊本大学でのeラーニングの取り組みについての大変興味深い
お話を拝聴しました。

話の中で一番驚いたのは、今回の新しい大学院「教授システム学専攻」の準備にゴーサインを
出したのが去年の12月。つまり、たった1年でこの日のイベントまでたどり着いたという点です。
完全なTOPダウンによる意思決定。短期間の内に人材を集め開学にこぎつけ機動力。
今までの国立大学ではありえない非常に前向きかつ戦略的な動きに感銘しました。

国立大学法人は昨年4月1日に産声をあげたばかりなのでどこも1歳半ちょっとです。
他校がヨチヨチ歩きしているうちに、熊本大学は補助輪なしで自転車に乗るところまで成長して
いる。今回のイベントからそうした印象を受けました。

微力ながら私も手伝います
ところで、筆者も微力ながら非常勤講師として本専攻のお手伝いをさせていただくことになり
ました。「教育ビジネス経営論」という科目をなんとJMAMのeラーニング事業を統轄する柴田氏や、
元大手ハンバーガーチェーンの人材開発責任者だった下山氏と一緒に担当します。
http://www.gsis.kumamoto-u.ac.jp/professors/index.html

科目の中身づくりはこれからです。関係する諸先生方と協力して、ぜひレベル3のeラーニングを
目指していきたいと思います。科目等履修制度もあるようなので、
興味がございましたらみなさんもぜひご受講ください。

vol171:旭インターネット大学院不認可

2005年12月02日 | 大学のeラーニング
11月28日、大学設置・学校法人審議会が平成18年度の新設大学・大学院の設置認可
についての文部科学大臣に対して答申をしました。
以下は毎日新聞のWebサイト記事
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/edu/news/20051129k0000m040074000c.html
以下は文部科学省平成18年度開設予定大学等一覧
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/daigaku/toushin/t_d18.htm

なんと、あの旭インターネット大学院が不認可になってしまいました。eラーニング
による株式会社立の大学ということでは、昨年BBT(ビジネス・ブレークスルー)さ
んが、「異例の留意事項」がつく中なんとか開学しました。では今年の旭はなぜだ
めだったのでしょうか?

理由の一つと思われるのが、校舎の問題です。
ちょっと長くなりますが、昨年の4月末に出された「文部科学省関係構造改革特別区
域法第2条第3項に規定する省令の特例に関する措置及びその適用を受ける特定事
業を定める省令」一部改正(5月1日施行)の9条の中で、構造改革特区の大学・
大学院でインターネットだけで実施する大学であれば、大学設置にあたり校地・校
舎の面積基準を摘要しないということになりました。
http://catherine.myhab.net/www_lawdata/law/chihou/H15F20001000018.html

それを最大限に活用したのが旭インターネット大学院でした。今回の不認可が発表
される数日前に
「自宅兼大学院の申請…事務室は広間、学長室は6畳和室」
という記事が読売オンラインにUPされたのは象徴的な出来事だったといえます。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/news/20051122ur21.htm?from=os1

もちろんこれだけが理由ではありません。文部科学省では
「旭インターネット大学院大学を「不可」とする理由」
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/daigaku/toushin/05112501/002/002.htm
という文章を別途掲示し、これでもか~~~というぐらいに斬りまくっています。

この結果に対し、旭インターネット大学院は、
「大学設置の今の体制では当分独立した完全ネット大学院大学が認可される状況に
はないと判断されるため、この計画はしばらく凍結させていただきたいと考えてい
ます。」と自大学(いや自社)のWebサイト上でコメントしています。
http://www.teragoya.org/

平成18年度の設置認可については、以前にお伝えしたTACさんの取り下げや今回の
件、あるいは保留になっている大学も出ており、いまだかつてない波乱に満ちたも
のになっています。そうした状況に対して、大学設置・学校法人審議会会長が異例
のコメントを出すまでになっています。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/daigaku/toushin/05112501.htm
政府の構造改革の影響を受け、大学評価は事前規制を緩和し、多様な大学の参画
を活性化する。その代わり事後評価をしっかりやっていくという方向に進む予定で
した。
しかし、結果だけを見ると、皮肉にも「事前」で不認可になったり、途中で「取り
下げる」大学が多数出てしまいました。これを「事前規制が強化された」と見るの
か、それとも「規制緩和に便乗して周到な準備をしないで申請する大学が増えた」
と判断するかは意見の分かれるところだと思います。

今回の一連の出来事は、高等教育機関の設置と評価を巡る様々な矛盾や問題点を象
徴するもののように思えます。今後高等教育のステークホルダーが「どうあって欲
しい」かを明確にし、社会の中で実りある議論が続くことを期待します。

vol168:公高私低のeラーニング

2005年11月04日 | 大学のeラーニング
米国Sloan財団の興味深い調査結果です。
Sloan consortium(2004) Entering the Mainstream: The Quality and Extent
of Online Education in the United States, 2003 and 2004
http://www.sloan-c.org/resources/survey.asp
(すみません。メルマガではURLが間違ってました)


この調査で「オンライン教育は、大学の長期戦略を考える上で重要だ」という質
問に同意した大学は、公立や営利大学でほぼ7割近くに達しているのに対し、私
立大学では、4割にも達していませんでした。また、オンラインコースの提供率
についても、公立や営利が90%以上なのに私立だけが半分ぐらいに留まってい
ます。

Sloan以外の調査でも、このeラーニングにおける「公高私低」は結構顕著な傾向
として示されています。元々米国では、公立大学が高等教育の大衆化(マス化)
に貢献した歴史的背景があるため、現在もeラーニングがその役目を担っている
点、そして私立には多くのリベラルアーツカレッジがあり、そこではあまりeラー
ニングを活用していない点などが原因と推察しています。

米国とは対象的に、日本の高等教育の大衆化を担ってきたのは私立だと言われて
います。では日本では「私高国低」になるのか?そのためには、国が私学に対し
てeラーニング支援の手を差し伸べるべきではないかと考えます。しかし現実に
は現代GP等の採択を見ると「国高私低」の傾向が見られます。私立大学のeラー
ニングは、今後一体どうなるのでしょうか?

vol165:がんばれTAC

2005年10月13日 | 大学のeラーニング
申請取り下げ
本学でも、税理士やシスアドの通信教育の提携でお世話になっているTACさんです
が、来年会計のプロフェッショナルを育成することを目的に開学を目指してい
た「TAC大学院大学」の申請を取り消すこととなりました。

個人的にも、現在大学院でeラーニングと株式会社立大学についての調査研究をして
いたところだったので、このニュースを知って大変驚きました。読売新聞オンライ
ンの記事によると、(下記)

「文科省などによると、TACは作成した大学院のパンフレットに、専門職大学院
設置基準に定めた単位数の上限を上回る単位取得を奨励するような記載をした。同
省は4日、「公認会計士試験の準備だけを目的にした大学院をつくろうとしてい
る」と同社を厳重注意。来春の開校は難しいと判断したTACは5日付で申請を取
り下げ、来年度に再申請することにした。」
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20051006i401.htm

とのことです。
最初、この記事だけを見たときには「学生により多く勉強してもらおうというTACさ
んの姿勢を基準に合わないからといって注意するのは文科省側のイジメでは?」と
思いました。しかし、TACさんが自社のWebサイトにUPしている本件のアナウンスメ
ント(下記)を見て、「まあ仕方ないか」と思った次第です。
http://www.tac-school.co.jp/new/index.html

問題点の要約
今回の問題点としては、TACさんが1年間に取得できる上限の単位数(今回の場合は
30単位)を上回る単位数(46単位)を1年次に取得するモデルケースをパンフレット
に記載したためです。上記のWebサイトを見る限りでは、大学設置基準にも、そして
TACさん自身が定めた学則にも上限30単位となっているため、たとえ30単位をオー
バーする単位は単位として認められないという断り書きがあったとしても、たしか
に文部科学省側が注意するのも当然なのかもしれません。
しかし、ここで考えなくてはならないのが、この「単位」というものの考え方で
す。

1単位は45時間
ちょっと難しくなりますが、大学設置基準の21条では1単位の学修時間について以
下のように定めています。

第二十一条 各授業科目の単位数は、大学において定めるものとする。
2 前項の単位数を定めるに当たつては、一単位の授業科目を四十五時間の学修を
必要とする内容をもつて構成することを標準とし、授業の方法に応じ、当該授業に
よる教育効果、授業時間外に必要な学修等を考慮して、次の基準により単位数を計
算するものとする。

大学院の場合、半期の授業で2単位という科目が一般的です。そうすると1科目90
時間の学修が必要ということになります。しかし、実際は概ね90分の授業を15回行
うので、計30時間(なぜか90分の授業なのに2時間やったこととして"慣例上"認め
られちゃいます)。じゃあ後の90-30=60時間はどうするんですか?というと、これ
は予習復習を毎回の授業で必要だろうからその時間ですという苦しいロジックに
なっています。(1回の授業で4時間予習復習が必要ですからねえ)

仮に1単位45時間という基準を、TACさんがモデルケースに用いた1年次46単位取得
にあてはめてしまうと、46×45=2070時間というものすごい時間数になってしまいま
す。

なお、通常の大学院で卒業に必要な単位数は30単位なので標準的には1年で15単位
取得します。こうした事から考えると、1年次46単位というモデルパターンは通常の
大学院の3倍以上の単位を1年に取得することになる訳でして、文科省が意義を唱え
たこともかなり頷けます。

そろそろ「単位」について考えよう
殆どの大学人が気づいていながら、全く手付かずだった「単位」の考え方につい
て、今回の一件ははからずも問題を提起してしまったと私は考えています。

だいたいにおいて、この単位=学習時間という考え方自体がかなりおかしい。特にe
ラーニング等の「個人の学習ペースにあわせた」教育ではコンセプトが全く違うの
です。本来問題とすべきは学習到達度であって、学習時間ではない筈なのです。百
歩譲って学習時間で考えるにしても、1単位45時間という形骸化した換算レートを
いつまで引っ張るつもりなのでしょうか?

TACさんには、ぜひ来年の申請で頑張ってもらうことは当然ですが、こうした形骸化
した設置基準自体の見直しも急務なことは明白です。審査される側がきちんとする
ことは言うまでもありませんが、審査する側の審査基準についても、今一度実態に
即した形で見直す必要があるのではないかと思った次第です。

Vol162:東京農工大_生協の白石さん

2005年09月21日 | 大学のeラーニング
みなさんは「東京農工大学」をご存知でしょうか?
「ああ、あの応援団が大根振って踊る大学でしょ」
と答えた方は不正解。それは、世田谷にある東京農業大学(私立)です。

東京農工大学は「明治10年(1877年)に設置された内務省勧業内藤新宿出張所農事
修学場及び明治17年農商務省設置蚕業試験掛をそれぞれ農学部、工学部の創基と
し、130年にも及ぶ歴史を有する。」という立派な旧国立大学なのです。キャンパス
は小金井市にあります。

さて、この地味な東京農工大学が、最近ネットの世界で大変な注目を集めていま
す。私も9月19日の朝日新聞朝刊を読むまで知らなかったのですが、この大学の生協
のWebサイトが大変なことになっているのです。

http://www.tuat-coop.jp/

担当「白石さん」の衝撃
上記サイトをクリックしても、「何の変哲もない」生協のホームページが立ち上が
るだけです。しかし、サイトの中の「一言カード」というコーナーを読み出すと、
止まらなくなります。ここには、生協によせられた要望や質問が掲載されておりま
して、それに対して担当の「白石さん」という方がとてもウィットに富んだ回答を
しているのです。

例えば、普通の商品を置いて欲しいという要望にも・・・

Q じゃがりこ置いて下さい。
A ★ご要望ありがとうございます。カルビーのじゃがりこ、食べやすくおいしいで
すよね。サラダ味とチーズ味の2種、6/3(金)入荷予定です。担当白石

ねっ。ちょっとほのぼのとした空気が漂っているでしょ。
こうしたオーラに吸い寄せられて、学生からは、生協とは関係のない要望や質問が
どんどん来ています。例えば、

Q どうやったらXXさんと付き合えますか。
A  当店の職員に”XX”さんという人がいます。そのXXさん宛とと言う仮定でお
答えします。XXさんは若く見えて魅力的な人なのですが、二児の母、しかも上の
子は高校生とのことです。この障壁、一朝一夕では超えられないと思われます。ど
うにもならない事、人生にはいくつかあります。どうぞ気を落とさずに。担当白石

とか、挙句の果てには

Q あなたを下さい。白石さん
A 私の家族にもこの話をしてみたのですが、「まだ譲ることはできない」との事
でした。言葉の端々に一抹の不安は感じさせられるもののまずは売られずにほっと
胸をなで下ろした次第です。と言うことで諸事情ご理解の上、どうぞご容赦下さ
い。担当白石

なんていう問答もあります。私は読んでいて「白石さんって、なんか村上春樹の小
説に出てくる人物のようだなあ」なんて感じたんですが、皆さんはどう思われます
か。

eラーニングの質疑応答
さて、この話題を取り上げたのは、まあオモシロかったからなんですが、ふと我に
帰ると
「生協も、ここまでやっているのに、我々eラーニングは何をやっているんだ」
と考えてしまったのです。

eラーニングの質問対応やFAQって、本当に無味乾燥とした世界で事務的で冷たい感
じがしませんか?
弁明する訳ではないのですが、eラーニングの質問対応で白石さんのような対応をす
ると、学習者から「不真面目だ」と叱られるのではないかと思い、ついビジネスラ
イクな対応になってしまうのです。

かと言って『これから「白石さん」的な対応に変えて行きます』宣言ができるかと
言うとこれは非常に難しいです。まじめと冗談、丁寧さと親密ささ、そうしたこと
の境微妙なバランスで受け答えをしていくのは本当に難しいことだからです。だか
ら、この白石さんのサイトは、ある種「奇跡」のバランスの上に成り立っていると
私は考えています。一度そのオモシロさを味わってしまうと、質問する方(学生)
もされる方(白石さん)もこの微妙なバランスの上のコミュニティーで問答を継続
していこうという方向に走るという訳です。

これは何というスキルなんだろう?
こうした「白石さん」的なスキルって一体なんなんでしょう?
多分、メンタリングとかコーチングの理論の中では扱っていないし、ましてやイン
ストラクショナル・デザインなんてところにも出てこない。ネット上での指導や協
調学習等を考えるときに、こうした「白石さん」スキルがあると無いとではかなり
違うような気がするのですが、どうでしょうか?

そんな事を考えていたら「じゃがりこ」が無性に食べたくなってしまい、産能の売
店に買いに行ってしまいました。ちなみに「じゃがりこ」の「りこ」は開発者の彼
女の名前が「利加子さん」だったからだそうです。ほんとかな?

VOL153:Jsiseシンポ「大学教育の多様化とe-Learningの活用」参加報告(前半)

2005年06月22日 | 大学のeラーニング
今回と次回は「ラーナーセントリックな人体実験」の番外編として、教育シス
テム情報学会シンポジウム「大学教育の多様化とe-Learningの活用」参加報告を
お送りします。

とき:2005年6月17日(金)
ところ:早稲田大学 国際会議場
詳細は(http://www.f.waseda.jp/matsui-t/jsise/sympo_05/

午前の部
午前中は、事例発表「e-Learningの大規模長期的実践」ということで5件の事例
発表がありました。簡単に内容の紹介と感想を述べていきます。

1)オリジナルのLMSによる大規模利用
『共に学ぶ「そのだインターネットキャンパス」の取り組み』
園田学園女子大学(堀田博史)

以前ブログを紹介した園田学園の堀田先生の発表です。
「そのだインターネットキャンパス」については下記URLをご覧下さい。
http://www.sonoda-u.ac.jp/sic/
「そのだインターネットキャンパス」では、ユニットという学習のまとまりご
とにコンテンツを完結させる作り方をしているそうです。本学のeラーニングSANNO
KNOWLEDGE FIELDのつくり方と同じだなあと共感しました。伝統的なスモールス
テップの教材設計セオリーですね。
また、途中離脱者を出さないようにヘルパーと呼ばれる人が小まめにフォロー
し「画面の向こうに人が見える」イメージをLMSに組み込んだというところは関
心しました。それにより、05年度「情報処理技法1」という科目では58人の受講
者のうち1名しか離脱しなかったとのことです。
eラーニングで最も重要な品質評価項目って、修了率だと私は思っているので、
この結果は脱帽しました。
ちなみに、この取組みは、同学会(JSISE)が主催した「ICTを利用した優秀教
育実践コンテスト」で最優秀賞を受賞しています。
受賞のコメントと詳細は下記ブログへ
http://hotta.no-blog.jp/blog/2005/04/

2)WebCTによる大規模利用
『自己学習力を育てるセルフラーニング型授業の実践』
帝京大学理工学部(渡辺博芳)

西高東低が叫ばれるWebCTユーザー会の中、東日本の大学で一番頑張っている
帝京大学の渡辺先生の発表です。

使い方としては、eラーニングといっても遠隔教育で用いるのでなく、教室で
の自己学習方式に用いているところがミソです。私がかつて提唱した「Same
time Same Place」方式のeラーニングと同じかも。
http://www.hj.sanno.ac.jp/ltec/vol_1-76.htm
これは、自分自身絶対にイケルと確信している方法なので、帝京大学でもかな
り効果がでていることから、今年あたりブームになるかも知れないと思った氏題
です。
ちなみに「Sametime Same Place」方式は、よくeラーニングの宣伝文句で使わ
れる「anytime anywhere」をおちょくったものです。

3)Blackboardによる大規模利用
『Blended Learningを目指した全学共通eラーニング環境の実践』
玉川大学(橋本順一)

玉川大学さんの事例の最も素晴らしい点は、10年という長期的なスパンでeラー
ニング導入のロードマップを策定し、それを全学規模で推進している点にありま
す。
『どこかの大学みたいに、学長の思いつきで「うちもそろそろeラーニングを検
討しなくちゃ」といった「思いついたらeラーニング」でないところが素晴らし
い」と司会の永野先生がおっしゃっていましたが、同感同感。

授業以外の共通バーチャル作業スペースとして、CMS(玉川大学では
Blackboard)を活用しているという点が興味深かった。CSCW(computer
supported cooperative work)としての大学eラーニングのあり方を予感させる
動きです。

4)WebClassによる大規模利用
『社会科学系大学におけるe-Learningシステムの活用』
一橋大学(山崎秀記)

うーん。ちょっとこの発表は正直期待はずれでした。eラーニングシステムを
導入する際の評価項目というのが、
「認証サーバを利用することで学生を登録する手間がかからない」
「学生を登録する手間がかからない」
「運用保守のサポートがしっかりしている」
「教材作成が簡単で、専用ソフトが不要」
などなどだったからです。

システム部門にとっての大事な項目ばかりで、肝心の学習者にとっての大事な
項目って何だったの?が感じられなかったからです。うがった見方をすれば、
「結局システム部門がなるべく手を煩わせなくても運用出来る事=ベストなシス
テム」と捉えられなくもなく、ちょっとがっかりしました。

5)WebCTによる大規模利用
『高等教育の質的転換を目指したハイブリッド授業環境のデザインと効果』
広島大学(安武公一)

本シンポジウム最大の収穫。以前本メルマガで「トッド・ラングレン似の素敵
な先生」http://www.hj.sanno.ac.jp/ltec/vol_1-134.htmとして紹介した安武先
生のプレゼンです。

発表内容は、安武先生ご自身の経験から、「eラーニングはコンテンツ作りが
大変」「優れたeラーニングには優れたコンテンツが必要」という蔓延する2つ
の先入観を払拭するというものでした。

学生自らが選んだテーマについて、自分たちのWikiページを作るというのが授
業の実際なのですが、パソコン初心者の多い学生にそれをやらせてしまうところ
が凄い。考えてみると、このケースもCSCW的なことを学生にやらせる場としてe
ラーニングを活用しているなあ。

そして何より驚いたのが、安武先生が発表に「高橋メソッド」を使っていたこ
と。(写真参照)「これがウワサの高橋メソッドか!!」と感動の20分間でした。
高橋メソッドについては下記URLを
http://www.rubycolor.org/takahashi/

午後の部は次号にて

vol151:I'm glad! NIME Glad?

2005年05月25日 | 大学のeラーニング
 今回は「ラーナーセントリックな人体実験」はお休み、3月の末に登場したメ
ディア教育開発センターの「NIME Glad」というサイトを中心に、高等教育機関
でのeラーニグの動向についてご紹介します。

NIME Glad
 NIME Glad。メディア教育開発センター(NIME)が立ち上げた「能力開発ゲー
トウェイ(Gateway to Learning for Ability Development)」のことです。
http://nime-glad.nime.ac.jp/
上記サイトの説明によると、

『NIME-gladは、NIMEにおいて、大学等がインターネットで配信している教
育用コンテンツを総合的に検索できるシステムを開発し、運用しているWebサ
イトです。学習者の能力開発のためのe-Learningコースをはじめ、公開講座や大
学のシラバス情報などが登録されており、それらを横断的に検索して学習に利用
できます。』

とのことです。
 検索の仕組みとしては、コースに学習対象メタデータLOM(Learning Object
Metadata)を付与して、データベースを作成しています。
開設現在でLOMは10万件もあるそうです。

試してみよう
 では実際に試してみましょう。上記サイトにアクセスし、検索条件のキーワー
ドに「eラーニング」と入力すると、eラーニングに関連した学習コンテンツの一
覧がでてきます。
 一覧の中の「MITOpenCourseWareのチャレンジ 」をクリックしてみましょう。
一旦「ここから東工大のサイトに飛びますよ」という注意書きが提示されたあと、
東工大さんのシンポジウム講演配信サイトのウインドウが立ち上がります。

 ちなみにここでは、MIT(マサチューセッツ工科大学)が発表したオープンコー
スウェアについて、宮川教授の講演のオンデマンド映像が見れる筈です。(私が
接続したときはサーバ接続エラーで見れませんでしたが・・・)

中身も出しちゃいましょう!
 NIME Gladでは必ずしも無料で見れるコンテンツばかりを紹介しているわけで
なく、また、eラーニング以外の公開講座やシラバスも扱っています。
 しかし、5月13日に発足した「日本OCW連絡会」では、東大、東工大、慶大、阪
大、京大、早大の6大学連携で各大学が行なっている講義の情報や教材などをイ
ンターネット経由で無償公開するすることを発表しました。

MIMA Search
http://ocw.u-tokyo.ac.jp/
 中でも東京大学の取組みは先進的です。コンテンツだけでなく、「MIMA Search 」
というMITと東大で公開されている授業やシラバスの関係を構造化して
見れちゃうすごい検索システムを公開してます。さすが幻の泡盛を作っちゃう大
学は違います。

OCWオープンコースウェアの意義
 さてはて、2005年の春にいきなり巻き起こったOCW旋風。これは一体何を意味
し、eラーニングは、そして大学はどこに行こうとしているのでしょうか?

「トロッコ蜜柑@eラーニング研究所」さんがblogで、OCWの意味について、様々
な人の意見をまとめています。
http://e-learning.toromi.com/archives/2005/05/ocw.php#19(これはGoodです)

OCWは大学や知識社会の意味を根底から変革するようなムーブメントになるので
しょうか、それとも「鳴り物入り」で始まったのに共鳴することなく終わってし
まうのでしょうか?
みなさんはどう思われますか?ご意見お待ちしております。


vol151:eラーニングを研究する大学院新設!

2005年05月25日 | 大学のeラーニング
熊本大学大学院で平成18年度より、インストラクショナル・デザインを学ぶ
専門職大学院を新設すべく、現在申請の準備中との情報が入りました。申請にあ
たってニーズ調査をしなければならず、下記のサイトでアンケートを実施中です。
ぜひ皆様ご協力のほどお願いいたします。
http://el-lects.kumamoto-u.ac.jp/far37ghpg46smg/daigakuin.html