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大学教育を中心に不定期に書いています。

Vol170:秋のセミナー報告記第四弾「高等教育におけるeラーニングの質保証」2

2005年11月24日 | セミナー学会研究会見聞録
1日目の「国際的なeラーニングの質保証」報告に引き続き、今回は2日目の「コー
スレベルでの質保証」についてご報告します。

セミナー概要
日時:2005年11月9~10日
場所:メディア教育開発センター(千葉幕張)
主催:独立行政法人メディア教育開発センター
http://www.nime.ac.jp/conf2005/index.html#01
なお、シンポジウムの模様は、下記メディア教育開発センターのWebサイトからオン
デマンドコンテンツを無料で視聴できます。
http://p4web.nime.ac.jp/p4web3/public.asp
興味をお持ちになりましたらぜひご覧ください。

eラーニングの質保証におけるインストラクショナルデザインの役割
司会:
内田 実  (独)メディア教育開発センター特定特任教授
パネルメンバー
James Carey  Associate Professor, University of South Florida, USA
Sang Ho Song  Professor, Andong National University, Korea
鈴木 克明  岩手県立大学教授

概要:
1日目が国境を越えた質保証という超マクロな話でしたが、今度はコースウェアとい
うミクロな話での質保証について、ID(インストラクショナルデザイン)の専門家
3人によるパネルディスカッションとなりました。(Jamesさんは「3人のギャン
グ」という紹介がありましたが、ギャングのような風貌はヒゲのS先生だけでし
た(^_^;))

James Careyさん
James Careyさんの著書は、IDの世界ではバイブル的な存在でして、日本でも「は
じめてのインストラクショナルデザイン」という題名で翻訳されております。

最初に告白しておきますが、私は時間を間違えて会場に行ったため、James Careyさ
んの講演を途中からしか聴けませんでした。そこで、上記のオンデマンドコンテン
ツを視聴した内容をもとに、以下の文章を書いています。・・・スミマセン
(でも、こういうところでeラーニングが役立つのだなあと変な意味で感心してマス)
すべての内容を網羅するぐらいであれば、オンデマンドコンテンツを見ていただい
た方がよっぽど分かり易いので、印象に残った5つのポイントについて、概要と感
想をまとめます。

トライ&エラーモデルは古い
トライ&エラーモデルとは、研修を実施した後、テストを実施して、コースウェア
の不具合を分析し、それをもとにより効果的なコースウェアに改善するという考え
方を指します。Jamesさんによると、そうした考え方はOld Modelなのだそうで、今
は「コースをリリースする前に問題となりそうなことはできるかぎり予想し、それ
が起こらないように開発しなさい」という考えになっているそうです。
PDCAサイクルの中で改善をしていくことは当然なのですが、だからといって初回
バージョンの品質が悪いことは許されないのだぞ。というお叱りの声と認識しまし
た。

IDのモデルを見るときの留意事項
IDのモデルを見るときの留意事項として2点あげていました。ひとつは「モデルと
いうものは簡潔に示すことが目的なので、それが仇となってミスリードすることが
ある」というもの、もう一つは「教材開発には複数の正しいソリューションがあ
る」というものです。私のように生半可にIDを齧っている者には耳の痛いお言葉。
金科玉条のごとくADDIEをマントラのように唱えるのでなく、プロセスそのものを自
分で考えながらやっていく必要があると反省しました。

コースの質を保証するためのチェックリスト
上記オンデマンドストリーミングの中で「テーブル1」という名称ででてくるもの
の、画面にまったく登場しないのがこのチェックリストです。「学習者の特
徴」「学習環境」「コース内容」「学習にとっての必須事項」という4つのカテゴ
リに分類された計17項目のチェックリストが会場では配布されています。A4一枚
にまとまったシンプルなチェックリストですが、なかなか活用できそうです。翻訳
してこのメルマガで配信しようと思ったんですけど、訳に自信がないし、権利関係
とか色々とありそうなのでやめておきます。(ゴメンナサイ)NIMEや熊本大学のヒ
ゲの先生が翻訳公開してくれるとありがたいなあ。

機関評価とコース評価の違い
実は、これが 今回のJames Careyさんの発表の肝(だと思う)。機関評価は認証の
ために必須で行うもの(つまり総括的評価)、コース評価はコースの改善のために
自己責任で行うもの(つまり形成的評価)。1つの目的で集めたデータを他の目的
で使ってはイケナイというのがJamesさんの主張です。コース評価で収集したデータ
を、例えばインストラクターの人事処遇等の判断材料に使ってはいけないというも
のでした。

認知主義的な立場と構成主義的な立場の違い
このあたりは最も面白そうな部分だったのですが、時間の関係でかなり端折ってい
ました。伝える内容もコンセプチュアルだし、時間が迫ってJamesさん早口になり同
時通訳さんが一杯一杯になってます。一言でいうと、どちらの主義が正しいとか偉
いということでなく、教える内容の厳密性等によって、活用が違ってくるんですよ
ということが言いたかったのだと思います。

Sang Ho Songさんの発表
Jamesさんの報告が、長くなってしまったので、残りの Sangさんと鈴木先生につい
ては本当にポイントだけ報告します。(ごめんなさい)

Sangさんの発表は、ケラーのARCSモデルをベースに開発したコースの形成的評価の
ためのアセスメントツールの紹介でした。A・R・C・Sの4つのコンポーネントをさ
らにa1~a3、R1~R3、C1~C3、S1~S3と合計12項目に細分化し、モチベーションを
向上させる上での阻害要因がその12項目のどこに起因するものなのかがチェックで
きるツールとなっています。

ARCSモデルについてよく分からない人は、東北学院大学教育工学実習室ホームペー
http://www.edutech.tohoku-gakuin.ac.jp/edu/index.htmlをご覧下さい。ARCSモ
デルについてARCSモデルを利用したeラーニングコンテンツがあります。必見)

鈴木先生の発表
鈴木先生は、日本でのIDの動向、AENを中心としたアジアでのIDについてのニーズ、
さらには青山学院大学や熊本大学でIDer育成のカリキュラムが来年度から開始され
る事等についての発表がありました。ちょっと使いまわしのスライドが多いような
気がしましたが、おそらく気のせいでしょう。気のせい気のせい・・・。

少々長くなりましたが、今回はこれまで。次週は午後のセッションである「機関評
価」についてご報告します。

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