週刊 最乗寺だより

小田原のほうではなく、横浜市都筑区にある浄土真宗本願寺派のお寺です。

勝田山 最乗寺
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7歩目の決意

2011-04-15 01:06:27 | 仏教小話

一週間前のこと。
4月8日、友人に待望の第一子が誕生しました。

前日の夜は、横浜でも震度4の余震が観測された日です。
友人は余震の後に陣痛が始まり、翌日の午後5時を過ぎてようやく赤ちゃんと対面できたそうです。
初めての出産に体力が尽き、立ち上がるのも辛い状態で、出産は当分いいやと言いつつも、赤ちゃんの可愛さに痛みも薄らぐようなことをメールで伝えてくれました。


さて、誰もが母親から生まれるように、お釈迦さまにも生まれた時の逸話があります。

生まれたとき、お釈迦さまは泣くことはありませんでした。
泣かない代わりに、生まれてすぐ7歩歩いて、左右の手で天と地を指差し、こう言います。

「天上天下唯我独尊」 (天上天下、ただ我ひとりのみ尊しとなす)

この言葉を、「天の上においても、天の下においても、私が最も勝れたものである」と聞くと、横柄で自信家の言葉にも聞こえてきます。
しかし、この言葉には「世界中に満ちている苦しみを安らげてみせよう」という決意の上に、己の尊さを世に表されたという意味合いが込められています。

ただ、この言葉が伝えたいことは、それだけではありません。

お釈迦さま自身が掛け替えのない尊い存在であるように、私たち自身もまた、それぞれがそれぞれに掛け替えのない存在であり、尊い存在であるということ。
世界でたった一人が尊いのではなくて、世界でたった一人の私が尊いということ。
私だけでなく、一人一人そのすべての存在が尊いということ。

そこには横柄で傲慢な言葉のイメージは消えています。
「あなたが大事」
それはとても温かな言葉に聞こえてはきませんか?


というわけで友人の赤ちゃんは目出度くも、このお釈迦さまと同じ誕生日となりました。
喜ばしい日が重なり嬉しく思っていたのですが、同時に友人の産まれたばかりの赤ちゃんが、分娩室でいきなり歩き出して、「天上天下唯我独尊」と言い出す光景を想像してしまいました。

「オイオイオイオイっ!」

そう赤ちゃんにツッコミを入れる友人の姿を思い浮かべて、笑いがこみ上げてきます。
それでもきっと友人なら、その子を喜んで抱きしめることでしょう。
そして、私にこう言うのかな。

「あげないよ」

いいよ、私には可愛い龍くんがいるからね。
とにかく出産おめでとう。