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佐賀大学病院放射線科アンオフィシャルブログ ~さがの読影室から~

放射線科医の日常や、診療紹介、推薦図書などをご紹介します。問い合わせ先等、詳しくはカテゴリー「はじめに」をご覧下さい。

ADC値による小児の小脳腫瘍の鑑別

2009年01月03日 21時11分13秒 | 抄読会
 やはり、3日というのは鬼門のようで、新年早々、更新が途絶えてしまうところでした。ネタがないので、最近読んだ論文からです。

Apparent Diffusion Coefficients for Differetiation of Cerebellar Tumors in Children
Z.Rumboldt et al.
AJNR 27:1362-69 2006

○Purpose
 ・組織学的に診断の確定した小児の小脳脳腫瘍について、ADC値および、
 ADC ratio(腫瘍充実部分と、非腫瘍部白質のADC値の比)を検討し、
 鑑別が可能かを調査する

○Methods
 ・症例数 32例 
 ・年齢 平均9歳 (6週~23歳)
 ・組織型:juvenile pilocytic astrocytoma(JPA);17例 53.1%
      髄芽腫;8例 25%
      上衣腫;5例 15.6%
      Atypical teratoid/rhabdoid tumor(AT/RT);2例 6.3%
 ・撮像機種:1.5T MRI装置
 ・撮像法:T1WI矢状断、T2WI(FSE)軸位断、FLAIR軸位断、造影後T1WI三方向
  DWI(b=0,500,1000)およびADC maps
 ・造影後T1WIにて増強される充実部分を同定し、ADC値をマニュアルで測定
 ・ROIは3カ所にとり、ADC値を平均化
 ・対照として、同側正常小脳白質および両側半卵円中心のADC値も測定
 ・病変部のADC値-3カ所の白質ADC値の比(3-ROI法)
  病変部のADC値-同側の小脳白質ADC値の比(1-ROI法)
 を比較
 ・統計
  ADC値の差:t検定
  ADC ratioの差:t検定
  異なるグループ間でのADC値、ADC ratioの差:One-way analysis of variance (ANOVA)
  
  *AT/RTは数が少なく、検定から除外

○Results
 ・正常白質のADC値は、腫瘍および測定箇所によって差がない
 ・table 2より一部抜粋
 
               JPA     上衣腫    髄芽腫
 ADC値(1-ROI and 3-ROI)  1.24-2.09 0.97-1.29 0.48-0.93
 平均ADC値(3-ROI)     1.65±0.27 1.10±0.11 0.66±0.15
 ADC ratio(1-ROI and 3-ROI)1.62-2.99 1.15-1.85 0.66-1.10
ADC ratio(3-ROI) 2.11±0.36 1.39±0.18 0.84±0.14
 ADC ratio(1-ROI) 2.18±0.42 1.47±0.22 0.86±0.15
 正常ADC値(3-ROI)     0.78±0.07 0.79±0.04 0.78±0.08
  
 ・AT/RTについて(2例)… 髄芽腫での計測範囲内に含まれる
  ADC値         0.60, 0.55
平均ADC値  0.63,0.56
  ADC ratio(1-ROI法) 0.69, 0.69
ADC ratio(3-ROI法) 0.74, 0.64
  
 ・ADC mapsによる見え方
  ①JPA:脳実質より高信号
  ②上衣腫:等~軽度高信号
  ③髄芽腫(AT/RT):大部分は低信号
 →これのみを手がかりに1年目の放射線科医が、それぞれの鑑別を100%のAccuracyで
 行えた!

○Discussion
 ・白質のADC値は、年齢とともに低下するので、ADC ratioより絶対値を用いる方が
 好ましいかもしれない
 ●JPAと髄芽腫の、ADC値およびADC ratioにはオーバーラップがなかった
 ●JPAと上衣腫の、ADC値およびADC ratioは、わずかに重なる部分があったが、
 優位な統計差があった
 ・髄芽腫と、AT/RTはDWI & ADC mapsでは鑑別できないようである
 
 ●JPA
 ・高いADC値を呈する理由
 →低い細胞密度と、比較的小さい核を持つためか?
 ・後頭蓋窩のJPAは”biphasic pattern”である
 →空胞化した疎な部分と、密度のある部分
  密度のある部分でも、髄芽腫と比べると細胞密度は高くない
 ・画像上確認される、粗大な嚢胞の他にも、顕微鏡的に確認される微小嚢胞が多数ある
 ・その他

 ●上衣腫
 ・典型的には、境界明瞭で中等度の細胞密度を呈する
 ・サブタイプによっては、より細胞密度の高いものもある

 ●髄芽腫
 ・ADC値を呈する理由
 →細胞密度が高く、核が大型であるためか?
 ・Desmoplastic medulloblastomaは、間質の多い部分でも細胞密度は典型的な
pilocytic tumorより高い
 →ADC値の低下は通常のサブタイプと同様である

 ●AT/RT
 ・細胞のサイズは、小さなものから巨大なものまで
 ・出血、壊死がよく見られ、細胞分裂像も多く見られる
 ・典型的には、MRI上、内部不均一な所見を呈する

 ●ADC値のみでは、腫瘍の組織型を完全に鑑別することは難しいかもしれない
 ・高ADC値:JPA、血管芽細胞腫、神経鞘腫など
 →flow voidの有無などが参考 
 →いずれにしても、転移は稀であり追加の検索無しに手術できるかもしれない

 ・低ADC値:髄芽腫、Rhabdoid tumorなど
 →転移の検索、ステージングのために脊髄の検索を行う正当な理由となる

○Conclusion
 ・ADC値および、ADC ratioは小児後頭蓋窩腫瘍の鑑別に際して、簡単に用いることの
 できる技術である
 ・ADC>1.4×10-3mm2/s:JPA
 ・ADC<0.9×10-3mm2/s:髄芽腫
 ・ADC 1.00×10-3mm2/s:大部分の上衣腫
 と考えることが出来る
 

 繰り返しになりますが、ADC mapsでの視覚的な評価でもJPA、髄芽腫、上衣腫の鑑別ができた、というのが驚きでした。残念ながら、小脳腫瘍の読影経験がほとんどないので、実際の感覚とどの程度一致するものなのかわかりません。時間があれば、忘れないうちに、昔の症例を掘り起こしてみようかな。