やはり、3日というのは鬼門のようで、新年早々、更新が途絶えてしまうところでした。ネタがないので、最近読んだ論文からです。
Apparent Diffusion Coefficients for Differetiation of Cerebellar Tumors in Children
Z.Rumboldt et al.
AJNR 27:1362-69 2006
○Purpose
・組織学的に診断の確定した小児の小脳脳腫瘍について、ADC値および、
ADC ratio(腫瘍充実部分と、非腫瘍部白質のADC値の比)を検討し、
鑑別が可能かを調査する
○Methods
・症例数 32例
・年齢 平均9歳 (6週~23歳)
・組織型:juvenile pilocytic astrocytoma(JPA);17例 53.1%
髄芽腫;8例 25%
上衣腫;5例 15.6%
Atypical teratoid/rhabdoid tumor(AT/RT);2例 6.3%
・撮像機種:1.5T MRI装置
・撮像法:T1WI矢状断、T2WI(FSE)軸位断、FLAIR軸位断、造影後T1WI三方向
DWI(b=0,500,1000)およびADC maps
・造影後T1WIにて増強される充実部分を同定し、ADC値をマニュアルで測定
・ROIは3カ所にとり、ADC値を平均化
・対照として、同側正常小脳白質および両側半卵円中心のADC値も測定
・病変部のADC値-3カ所の白質ADC値の比(3-ROI法)
病変部のADC値-同側の小脳白質ADC値の比(1-ROI法)
を比較
・統計
ADC値の差:t検定
ADC ratioの差:t検定
異なるグループ間でのADC値、ADC ratioの差:One-way analysis of variance (ANOVA)
*AT/RTは数が少なく、検定から除外
○Results
・正常白質のADC値は、腫瘍および測定箇所によって差がない
・table 2より一部抜粋
JPA 上衣腫 髄芽腫
ADC値(1-ROI and 3-ROI) 1.24-2.09 0.97-1.29 0.48-0.93
平均ADC値(3-ROI) 1.65±0.27 1.10±0.11 0.66±0.15
ADC ratio(1-ROI and 3-ROI)1.62-2.99 1.15-1.85 0.66-1.10
ADC ratio(3-ROI) 2.11±0.36 1.39±0.18 0.84±0.14
ADC ratio(1-ROI) 2.18±0.42 1.47±0.22 0.86±0.15
正常ADC値(3-ROI) 0.78±0.07 0.79±0.04 0.78±0.08
・AT/RTについて(2例)… 髄芽腫での計測範囲内に含まれる
ADC値 0.60, 0.55
平均ADC値 0.63,0.56
ADC ratio(1-ROI法) 0.69, 0.69
ADC ratio(3-ROI法) 0.74, 0.64
・ADC mapsによる見え方
①JPA:脳実質より高信号
②上衣腫:等~軽度高信号
③髄芽腫(AT/RT):大部分は低信号
→これのみを手がかりに1年目の放射線科医が、それぞれの鑑別を100%のAccuracyで
行えた!
○Discussion
・白質のADC値は、年齢とともに低下するので、ADC ratioより絶対値を用いる方が
好ましいかもしれない
●JPAと髄芽腫の、ADC値およびADC ratioにはオーバーラップがなかった
●JPAと上衣腫の、ADC値およびADC ratioは、わずかに重なる部分があったが、
優位な統計差があった
・髄芽腫と、AT/RTはDWI & ADC mapsでは鑑別できないようである
●JPA
・高いADC値を呈する理由
→低い細胞密度と、比較的小さい核を持つためか?
・後頭蓋窩のJPAは”biphasic pattern”である
→空胞化した疎な部分と、密度のある部分
密度のある部分でも、髄芽腫と比べると細胞密度は高くない
・画像上確認される、粗大な嚢胞の他にも、顕微鏡的に確認される微小嚢胞が多数ある
・その他
●上衣腫
・典型的には、境界明瞭で中等度の細胞密度を呈する
・サブタイプによっては、より細胞密度の高いものもある
●髄芽腫
・ADC値を呈する理由
→細胞密度が高く、核が大型であるためか?
・Desmoplastic medulloblastomaは、間質の多い部分でも細胞密度は典型的な
pilocytic tumorより高い
→ADC値の低下は通常のサブタイプと同様である
●AT/RT
・細胞のサイズは、小さなものから巨大なものまで
・出血、壊死がよく見られ、細胞分裂像も多く見られる
・典型的には、MRI上、内部不均一な所見を呈する
●ADC値のみでは、腫瘍の組織型を完全に鑑別することは難しいかもしれない
・高ADC値:JPA、血管芽細胞腫、神経鞘腫など
→flow voidの有無などが参考
→いずれにしても、転移は稀であり追加の検索無しに手術できるかもしれない
・低ADC値:髄芽腫、Rhabdoid tumorなど
→転移の検索、ステージングのために脊髄の検索を行う正当な理由となる
○Conclusion
・ADC値および、ADC ratioは小児後頭蓋窩腫瘍の鑑別に際して、簡単に用いることの
できる技術である
・ADC>1.4×10-3mm2/s:JPA
・ADC<0.9×10-3mm2/s:髄芽腫
・ADC 1.00×10-3mm2/s:大部分の上衣腫
と考えることが出来る
繰り返しになりますが、ADC mapsでの視覚的な評価でもJPA、髄芽腫、上衣腫の鑑別ができた、というのが驚きでした。残念ながら、小脳腫瘍の読影経験がほとんどないので、実際の感覚とどの程度一致するものなのかわかりません。時間があれば、忘れないうちに、昔の症例を掘り起こしてみようかな。
Apparent Diffusion Coefficients for Differetiation of Cerebellar Tumors in Children
Z.Rumboldt et al.
AJNR 27:1362-69 2006
○Purpose
・組織学的に診断の確定した小児の小脳脳腫瘍について、ADC値および、
ADC ratio(腫瘍充実部分と、非腫瘍部白質のADC値の比)を検討し、
鑑別が可能かを調査する
○Methods
・症例数 32例
・年齢 平均9歳 (6週~23歳)
・組織型:juvenile pilocytic astrocytoma(JPA);17例 53.1%
髄芽腫;8例 25%
上衣腫;5例 15.6%
Atypical teratoid/rhabdoid tumor(AT/RT);2例 6.3%
・撮像機種:1.5T MRI装置
・撮像法:T1WI矢状断、T2WI(FSE)軸位断、FLAIR軸位断、造影後T1WI三方向
DWI(b=0,500,1000)およびADC maps
・造影後T1WIにて増強される充実部分を同定し、ADC値をマニュアルで測定
・ROIは3カ所にとり、ADC値を平均化
・対照として、同側正常小脳白質および両側半卵円中心のADC値も測定
・病変部のADC値-3カ所の白質ADC値の比(3-ROI法)
病変部のADC値-同側の小脳白質ADC値の比(1-ROI法)
を比較
・統計
ADC値の差:t検定
ADC ratioの差:t検定
異なるグループ間でのADC値、ADC ratioの差:One-way analysis of variance (ANOVA)
*AT/RTは数が少なく、検定から除外
○Results
・正常白質のADC値は、腫瘍および測定箇所によって差がない
・table 2より一部抜粋
JPA 上衣腫 髄芽腫
ADC値(1-ROI and 3-ROI) 1.24-2.09 0.97-1.29 0.48-0.93
平均ADC値(3-ROI) 1.65±0.27 1.10±0.11 0.66±0.15
ADC ratio(1-ROI and 3-ROI)1.62-2.99 1.15-1.85 0.66-1.10
ADC ratio(3-ROI) 2.11±0.36 1.39±0.18 0.84±0.14
ADC ratio(1-ROI) 2.18±0.42 1.47±0.22 0.86±0.15
正常ADC値(3-ROI) 0.78±0.07 0.79±0.04 0.78±0.08
・AT/RTについて(2例)… 髄芽腫での計測範囲内に含まれる
ADC値 0.60, 0.55
平均ADC値 0.63,0.56
ADC ratio(1-ROI法) 0.69, 0.69
ADC ratio(3-ROI法) 0.74, 0.64
・ADC mapsによる見え方
①JPA:脳実質より高信号
②上衣腫:等~軽度高信号
③髄芽腫(AT/RT):大部分は低信号
→これのみを手がかりに1年目の放射線科医が、それぞれの鑑別を100%のAccuracyで
行えた!
○Discussion
・白質のADC値は、年齢とともに低下するので、ADC ratioより絶対値を用いる方が
好ましいかもしれない
●JPAと髄芽腫の、ADC値およびADC ratioにはオーバーラップがなかった
●JPAと上衣腫の、ADC値およびADC ratioは、わずかに重なる部分があったが、
優位な統計差があった
・髄芽腫と、AT/RTはDWI & ADC mapsでは鑑別できないようである
●JPA
・高いADC値を呈する理由
→低い細胞密度と、比較的小さい核を持つためか?
・後頭蓋窩のJPAは”biphasic pattern”である
→空胞化した疎な部分と、密度のある部分
密度のある部分でも、髄芽腫と比べると細胞密度は高くない
・画像上確認される、粗大な嚢胞の他にも、顕微鏡的に確認される微小嚢胞が多数ある
・その他
●上衣腫
・典型的には、境界明瞭で中等度の細胞密度を呈する
・サブタイプによっては、より細胞密度の高いものもある
●髄芽腫
・ADC値を呈する理由
→細胞密度が高く、核が大型であるためか?
・Desmoplastic medulloblastomaは、間質の多い部分でも細胞密度は典型的な
pilocytic tumorより高い
→ADC値の低下は通常のサブタイプと同様である
●AT/RT
・細胞のサイズは、小さなものから巨大なものまで
・出血、壊死がよく見られ、細胞分裂像も多く見られる
・典型的には、MRI上、内部不均一な所見を呈する
●ADC値のみでは、腫瘍の組織型を完全に鑑別することは難しいかもしれない
・高ADC値:JPA、血管芽細胞腫、神経鞘腫など
→flow voidの有無などが参考
→いずれにしても、転移は稀であり追加の検索無しに手術できるかもしれない
・低ADC値:髄芽腫、Rhabdoid tumorなど
→転移の検索、ステージングのために脊髄の検索を行う正当な理由となる
○Conclusion
・ADC値および、ADC ratioは小児後頭蓋窩腫瘍の鑑別に際して、簡単に用いることの
できる技術である
・ADC>1.4×10-3mm2/s:JPA
・ADC<0.9×10-3mm2/s:髄芽腫
・ADC 1.00×10-3mm2/s:大部分の上衣腫
と考えることが出来る
繰り返しになりますが、ADC mapsでの視覚的な評価でもJPA、髄芽腫、上衣腫の鑑別ができた、というのが驚きでした。残念ながら、小脳腫瘍の読影経験がほとんどないので、実際の感覚とどの程度一致するものなのかわかりません。時間があれば、忘れないうちに、昔の症例を掘り起こしてみようかな。