佐賀大学病院放射線科アンオフィシャルブログ ~さがの読影室から~

放射線科医の日常や、診療紹介、推薦図書などをご紹介します。問い合わせ先等、詳しくはカテゴリー「はじめに」をご覧下さい。

非血管系IVRとは

2008年05月30日 06時48分34秒 | ホームページ IVRについて
 X線透視、CT、超音波、MRIの画像を見ながら体の中に針や管を進めて行う治療や生検を行うことです。

1. 胸腹部の膿瘍の治療
   →体の奥深くの膿に対しCT、超音波などの画像を見ながら細い針で病変に到達。その針の中にガイドワイヤ(管を導くための針金)を通した後、針を抜去。ガイドワイヤに沿って細い管をかぶせ膿の中に管の先端を留置します。管のサイズの穴があくだけで胸や腹を切り開くことなく膿瘍が治療できます。


2. 肝腫瘍の治療
   →超音波、CT、MRIで肝腫瘍と針の位置を確かめながら腫瘍を穿刺。アルコールを注射して凝固させたり、針の先で熱を発生させ焼いたりして腫瘍の治療を行うことができます。

3. 胸腹部の腫瘍の生検
   →超音波、CT、MRIで体の奥深くの腫瘍と針の位置を確かめながら腫瘍を穿刺。組織の一部を採取することができます。胸やお腹を開くことなく腫瘍が悪性か良性かを診断し治療が必要かどうかを知ることができます。

4. 胆道狭窄閉塞の治療
   →肝細胞で作られた胆汁(消化液)は肝臓の中の胆管という管を通って十二指腸へ流入しますが、この管のどこかが結石や腫瘍で詰まると胆汁が血液中に逆流し黄疸になります。超音波で拡張した(胆汁がうっ滞した)胆管の位置を確認しながら針で穿刺し管を入れ、胆汁を体の外に排出し黄疸を改善させます。黄疸が改善したら今度は細い管で狭窄した部位を貫通し押し広げた後、留置用の管を十二指腸まで通して胆汁を十二指腸まで流れるようにしてやります。

5. 消化管狭窄閉塞の治療
   →食道癌などで食べ物が通らないほど狭くなったり詰まってしまった部位に、内視鏡とX線透視を使ってステントと呼ばれる管腔を押し広げた状態を保つ器具を挿入します。病気そのものを直す治療ではありませんが、症状は劇的に改善します。

6. 気管・気管支狭窄閉塞の治療
   →肺癌などで狭くなり空気が通りにくくなった気管や気管支に対して内視鏡とX線透視を使ってステントと呼ばれる管腔を押し広げた状態を保つ器具を挿入します。病気そのものを直す治療ではありませんが、症状は劇的に改善します。

血管系IVRとは

2008年05月29日 06時47分22秒 | ホームページ IVRについて
 血管内治療や血管内手術と同じ意味の言葉です。血管造影技術・装置を用いて血管内からさまざまな治療を行うものです。
 どのような病気が対象となるか、そしてこれらにどのようにアプローチするのか説明します。

 以下のいずれの治療も管を刺し入れる部位(多くは右太もも付け根)に5mm程度の傷ができるだけで治療が終わります。頭、胸、お腹を切り裂くことなく以下のような治療ができる、すばらしいとは思いませんか?

1. 出血の治療(骨盤骨折による出血、内臓の外傷性出血、喀血、内視鏡で止血できない消化管出血)
   →これらに対しては血管造影で出血点を確認後、血管造影写真を地図にしX線透視を見ながら細い管を出血点まで誘導し、そこで詰め物(塞栓)をします。

2. 動脈瘤・静脈瘤や動静脈奇形の出血防止(脳動脈瘤・脳動静脈奇形、胸腹部血管の動脈瘤・動静脈奇形)   
  →出血する可能性のある血管病変の形や大きさを血管造影で確認。血管造影写真を地図にしX線透視を見ながら細い管を病変まで誘導します。この管を通して動脈瘤では瘤内を特殊な充填物質(プラチナ製コイル)でパックします。手術が難しい場所の脳動脈瘤で多く行われ、良好な成績が報告されています。静脈瘤では管を通して血管硬化剤を内部に溜め硬化させます。大動脈瘤では人工血管を細い管を通じて瘤の前後に挿入し瘤をバイパスする治療が行われるようになってきています。

3. 血管閉塞や狭窄による虚血の治療(頚部血管・骨盤・下肢動脈の動脈硬化による虚血症)   
  →細くなっている血管内に、先端に風船がついた管を差込み風船を膨らませて押し広げ虚血を改善させます。拡張が十分でない場合はステントと呼ばれる血管内腔支持のための器具を、血管を通じて挿入して押し広げた状態を維持します。下肢の虚血に対しては古くから行われており良好な成績が得られています.脳虚血に対し頚部血管を広げる治療は最近始まり研究中ですが、期待されている治療法です。

4. 腫瘍の治療(手術不能肝細胞癌、転移性肝癌、婦人科・泌尿器科領域悪性腫瘍)
  →細い管を、腫瘍を栄養している血管まで誘導し高濃度の治療薬を注射します。通常の静脈注射より高い治療効果が期待できます。

5. 脾機能亢進症(低血小板血症)の治療
  →肥大した脾臓の80-90%の血管に詰め物をし脾臓の機能を適正な程度まで低下させ血小板の増加を図ります。

6. 門脈圧亢進症(難治性腹水、内視鏡治療不能消化管静脈瘤)の治療
  →肝臓が処理しきれなくなった血液の一部を直接心臓に戻すルートを肝臓内に作ります(これも血管内の管を通して行うことができます。経皮的肝内門脈静脈短絡術と言います)。

7. 血管内の異物除去
   →血管内に残ってしまった異物(多くは中心静脈栄養用の管)を専用の道具を使って除去することが血管内を通じてできます。除去するために開胸が行われた時代もありましたが、今はそのようなことは必要ありません。

Interventional Radiology (インターベンショナル・ラジオロジー:IVR)とは

2008年05月27日 06時50分28秒 | ホームページ IVRについて
Interventional Radiology (インターベンショナル・ラジオロジー:IVR)とは
 「画像診断のための装置や技術を応用して行う治療および生検(組織の一部を取って調べること)」を指します。

 想像してみてください。CTや超音波検査、X線透視ではお腹や頭を直接開けずに中の様子を観察することができます。                           
 このような画をリアルタイムで見ながら針や管を挿入すれば、危険な場所を避けながら体の奥深くの目的地までその針先や管の先端を安全に誘導することができます。   特に血管は体中のあらゆるところに連続していますから、体の表面の血管から細い管を入れると管の挿入部を除き全く組織を傷つけることなく目的の場所まで到達できます。

 そこで止血をしたり、動脈瘤の中に出血防止の詰め物をしたり、局所に高濃度の薬を注入したり、膿を体の外に排出したり、体の奥深い場所の腫瘍の一部を取ってきて調べたり、などなどさまざまなことができるわけです。年配の方しかご存知ないと思いますがまさに映画「ミクロの決死圏」の世界です(比較的最近では「ミクロ・キッズ」というリメーク版もありました)。

  血管造影診断装置・技術を利用したIVRが最初に発達しましたので、放射線科の中では血管系IVR非血管系IVRの二つの分野に分けて語られることが多いです。

  ここでの説明もそれに沿って行います。