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佐賀大学病院放射線科アンオフィシャルブログ ~さがの読影室から~

放射線科医の日常や、診療紹介、推薦図書などをご紹介します。問い合わせ先等、詳しくはカテゴリー「はじめに」をご覧下さい。

患者さんからのFAQ その3

2008年06月09日 06時44分53秒 | ホームページ 放射線治療について
 Q3.治療中の注意事項は何ですか.

 まず全般的な注意としては治療を休まないことです.これは特に外来の患者さんにあてはまります.休むことで全体の治療の期間が長くなったり,予定していた治療回数が足りなくなると効果が落ちることがわかっています.

  例えば喉頭がんでは全体の放射線の量が5%異なるだけで効果が違うことがわかっています.

 毎日きちんと同じ場所を治療するために放射線をかける範囲,皮膚にしるしや線を書かせてもらうことが多いですが,このしるしや線を落とさないようにしてください.お風呂は入って構わないことが多いですが,ぬるめのお湯にして,線の書いてある場所は洗わないようにしてください.
    
  これは放射線による皮膚のやけどをひどくしないためと,しるしが消えてしまうときちんとした治療ができないためです.
  なお通常の治療であれば,なにもしなくても,皮膚のやけどは治療が終わった後に徐々によくなって,元どおりになります.頭に放射線をかける場合はある程度脱毛が起こります.治療の回数ややり方にもよりますが,しばらくすれば生えてくることが多いですので,治療医にお尋ねください.

  前にも述べましたが,頭部の治療をしない限り脱毛はおこりません.洗髪はしてもらっても良いですが,あまりごしごしと洗うのは避けた方がよいです.

  のどや首に放射線をかけると口の中が荒れますので,うがいをこまめにしてください.

  水分は多めに取ってもらった方がよいです.ひげそりは電気かみそりで軽くやるほうがよいようです.刺激のある食べ物はやめておきましょう.口の中の荒れもふつうは治療が終われば必ず治って元のようになります.

  のどや首,胸に放射線をあてているときは禁煙してください.たばこをすっている人は副作用が強く出やすい上に,病気の治りも悪いことがわかってきています. (個人の嗜好の問題ではありますが,つらい思いをするのはご自分だということを忘れずに)

  食道に放射線をかけると一時的に食べ物が通りにくくなることがあります.柔らかいものをよくかんで少しずつ飲み込むようにします.

  腹部に放射線をかけると,下痢や食欲の低下が起こることがあります.これも治療が終われば治りますので,心配はいらないのですが,ひどいときには薬をもらいましょう.
  また下腹部を治療するときは膀胱炎が起こりやすくなることがあり,水分を多めにとって.尿をどんどん出すようにした方がよいです. 一般的に水分はどこの部位でもおおめに取っておいた方がよいようです.

  食べ物は基本的にはなんでも良いのですが,(のどや首,食道に放射線をかけているときは特に)からいものや刺激のあるものは避けた方がよいでしょう.
お酒は少量であれば構わないこともありますので.治療医にご相談下さい.

患者さんからのFAQ その2

2008年06月05日 06時45分52秒 | ホームページ 放射線治療について
 Q2.副作用がとても心配です.

 放射線治療をうけるように言われたら副作用のことを心配するのはもっともなことです.日本では原子爆弾の記憶や東海村での事故など,放射線が危ないものというイメージがあることは否めません.
 しかし放射線は使いようでは非常に有用であることは間違いのないところです.また手術にしても,薬にしても全く副作用がないという治療法はないと言えます.

  以下のことに留意して頂きたいと思います.

1.放射線治療は局所的な治療であり,基本的には治療している部位にしか効果も副作用もありません.
  例えばあなたが頭部以外の部位の治療をするとすれば,頭髪が抜けることはありません.頭部以外の治療をしていてもし頭髪が抜けたとすれば,間違いなく原因は放射線治療以外のことと考えていいです. またあなたが腹部の治療をしないならば,下痢を起こすことはありません.

2.副作用には早期におこるものと遅れて出てくるものがあります.
 治療中におこる副作用を急性の副作用(急性放射線障害)といいますが,これは治療しているところの炎症と考えてもらってよいです.急性の副作用は症状がひどくても治らないことはまずありません.
 急性放射線障害はつらくても一時的なものなのです.治療が終了すれば徐々に正常の状態に戻っていきます.治療が終わってから1年から2年,ときには10年ほどして生じる副作用があり,晩発性放射線障害といいます.これはなおりにくいのですが,頻度は少なく現在は放射線を病巣に集中する技術が進んでいることでほとんどみられなくなっています.
  ただ同じ部位を治療する場合や特殊な治療をする場合はその可能性が上がりますので,その際は充分にご説明したうえで,了承が得られた上で治療をさせてもらっています.

3.知人や家族などのアドバイスは,副作用に関しては参考にならないことが多いです.
  あなたに助言をしてくれる人がいると思うのですが,私たちの経験では,副作用に関しては,放射線治療を受けたことがある,あるいは現在受けている人のアドバイスでさえ,残念ながら参考にならないことが多いです.
 人によって病気はその種類や進行の程度が異なっていますので,放射線治療も,治療している場所ややり方が違っています.先に述べましたように基本的に放射線は治療している部位にのみ影響がありますし,やり方によっても,影響がことなります.ですからその副作用もそれぞれ異なっているわけです.
 疑問点はぜひ放射線治療医にご相談ください.

 副作用については始める前に詳しくご説明しますが,患者さんひとりひとりによって違うことが多いことはぜひ覚えておいていただきたいと思います.

患者さんからのFAQ その1

2008年06月03日 22時57分20秒 | ホームページ 放射線治療について
Q1.放射線治療をすると言われましたが,がんなのでしょうか.

 放射線治療はがんに対して使われることが多いのは事実ですが,いろいろな良性の腫瘍や腫瘍でない病気にも使われています.

 腫瘍という言葉は,細胞の集まったもの,かたまりと言っていいと思います.そのかたまりをつくっている細胞が悪性の場合が悪性腫瘍です.(細かく言うと悪性腫瘍には癌と肉腫があり,がんと平仮名で書いてあるときはその2つをまとめて言っています.

 癌は臓器の表面,上皮という部分からできるのですが,肉腫はそれ以外からできます.ただ肉腫は癌に比べてとても少ないですから悪性腫瘍のほとんどは癌と言っていいでしょう) 厳密には悪性腫瘍と良性腫瘍との区別は細胞を顕微鏡でみないとわかりませんし,その区別が顕微鏡で見ても難しいことも少なくありません.

さまざまな良性腫瘍や,腫瘍でない血管のある種の病気にも放射線は使われています.傷のあとにできるケロイドにも放射線治療は有効です.目の網膜におこる加齢性の黄斑変性症はがんではない病気ですが,私たちの施設でも放射線治療する患者さんが増えています.

 こうした良性の病気に対しても放射線治療が行われていることは以外に知られていません.割合としてはがんを対象とすることが多いのは事実ですが,そうではない場合もあるのです.

あなたは主治医からどのように聞いていますか?説明に納得されていますか.がんの治療法が発達し,(特に早期では)治っていく方がどんどん増えている現状では,がんかそうでないかはこれまでほど問題ではなくなってきていると思います.

 がんの告知はとても難しい問題で,ケース・バイ・ケースのことが多いと思いますが,大切なことは主治医(私たち放射線治療医も含めて)とあなたとの信頼関係です.

 あなたが治療について納得して,病気に立ち向かっていけることが最も大事だと思います.

放射線治療カンファレンス 骨転移に対する治療

2008年02月15日 11時47分57秒 | ホームページ 放射線治療について
 バレンタインデーの朝はこの冬一番の冷え込みでした。
 
 今週の学生・研修医向け放射線治療カンファレンスは、「骨転移に対する治療」をpachinker先生が行ってくれました。

 まず、緊急的放射線照射により不全対麻痺・膀胱直腸障害の改善が得られた、転移性胸椎腫瘍(肺小細胞癌)の症例が呈示されました。

 ・骨転移に対する放射線治療について
 ・神経症状改善のために放射線照射の開始時期が重要であること
 ・緊急照射の適応

 の解説がありました。
 
 その他の転移性脊椎腫瘍(またはその他の転移性骨腫瘍)に対しての対症療法を中心とする治療

 ・塩化ストロンチウム(メタストロン→JASTRO報告記 Sr-89
 ・ビスホスフォネート製剤
 ・経皮的椎体形成術(当院では種々の理由により施行できません・・久留米大学放射線科のHPをご参照ください→http://www.med.kurume-u.ac.jp/med/radio/keihi.htm
 ・手術療法(椎弓切除術、その他)
 
 などの紹介もありました。
 多方面からのアプローチにより、乳癌の一部などは根治性が期待でき、またQOLの改善も見込めるということです。診断以外にも、放射線科医が貢献できるところは大きいと思われます。メタストロンなどの新しい治療を含め、勉強しなければと思いました。
 

ケロイド/肥厚性瘢痕に対する放射線治療 その4

2008年02月06日 12時20分08秒 | ホームページ 放射線治療について
最後にフォローアップについてです。癌患者さんは年配の方が多いため、病院に足繁く通ってきます。再発した場合も早期に発見されますし、放射線治療に伴う副作用に対しても、適切な処置を行うことができます。一方、ケロイドの患者さんは概ね若い方が多いです。基本的には病院とは縁遠い方がほとんどですので、ケロイドが改善すると、ぱったりと病院に来なくなります。このため、どの病院も良性疾患、特にケロイドに照射した方のフォローアップには苦労しているようです。某大学病院さんでは、次のような方法を用いてフォローアップを行っているようです。

以下文献からの抜粋 日医大医会誌2005; 1(3)121-128

治療効果はできるだけ長期にわたり正確に判定するように努力している。当初電話を用いて来院を促していたが、最近は電子メールを用いて来院を促している。さらに来院する時間のない患者には、ハガキや電子メールで患者の自己判断で再発の存否を確認している。その際患者の自己判断を支援するため臨床写真などの資料を呈示し、現在の状況判断に○×で回答してもらっている。デジタルカメラを持っている患者には、創部を撮影してもらい、電子メールに添付して送ってもらう試みも計画中である。これらの目的で、外来初診時に他の承諾書と共に電子メールのアドレスを書いてもらうようにしている。


当施設でも、放射線治療機器更新に伴い、診察室も新しく整備されます。ただし、看護師不在などの点からは、良性疾患はおろか、悪性疾患に関してもフォローアップ患者様を絞らざる得ない現状です。ハードのみでなく、ソフト面での環境整備も早急に整える必要があると考えます。

以上4回シリーズにて終了です。おつきあいくださりありがとうございました。
By hirako


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ケロイド/肥厚性瘢痕に対する放射線治療 その3

2008年02月05日 10時08分04秒 | ホームページ 放射線治療について
さて一番気になる副作用についてですが、先も述べたとおり、電子線は深部にほとんど達することがありませんので、深部への影響は無視できます。問題となるのは皮膚表面と皮下の筋肉です。

具体的には、照射した部位に一致した皮膚の色素沈着があげられます。これは、かなり主観的な問題が入ります。他者から見るとほとんどわからないような色調の変化も、当人にとっては重大な問題だったりします。一方で、ケロイドはもともとかなり見た目が悪いものですので、もしそれが根治するのであれば、少々の皮膚の色素沈着は気にしないという方もいらっしゃいます。一般的に20Gyを超えると、色素沈着が目立つようになるとされています。

副作用で一番の問題になるのは、二次癌が発現する可能性があるということだと思います(ここでいう二次癌とは、放射線治療が誘引となって発症した癌のことであり、照射範囲から出現したものに限ります)。癌に対する治療であれば、未来の癌を気にするより今の癌を治すことが優先されると説明できますが、良性疾患に対してはこの構図はなりたちません。

良性疾患への照射線量は、癌に対する照射線量に比し少ない量であるため、その分発癌性も低下します。また、電子線を用いてのケロイド治療で、二次癌が発現したという報告は現在のところありません。それでも、可能性はゼロとは言えません。良性疾患に対する放射線治療は、”発癌のリスクより放射線治療の有益性が上回ると、医療者/患者双方が判断した場合にのみ行う”、という共通認識が必要と考えます。

その4へ続く
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ケロイド/肥厚性瘢痕に対する放射線治療 その2

2008年02月04日 12時33分34秒 | ホームページ 放射線治療について
放射線治療は、傷跡に当てることによって、傷の修復機能が過剰に働くことを抑制して、ケロイドの再発を抑えることを目的に行われます。使われる放射線の種類は、一般的に電子線という種類のものです。電子線の特性として、表面に強く当てることができて、かつ深部にはほとんど到達しないので影響を考慮しなくてよいということがあげられます。ケロイドの治療は、皮膚の表面のみに放射線が当たることが望ましいので、電子線が用いられるわけです。放射線を当てる時期は、手術直後が望ましいとされていましたので、当院では午前中に外来手術を行ったあと、午後から一回目の照射を行っています。ただし、これについては、最近は術後2週間以内なら効果に差はないという説もでてきていますので、必ずしも直後にする必要はないのかもしれません。また、照射するときは、皮膚表面に必ずボーラスを呼ばれる5mm程度の厚みがあるシートをかぶせて照射します。実は表面に強い放射線を当てることができるとされる電子線も、本当のところは表面下5mm程度(4MeVの場合)のところに一番のピークがあります(ビルドアップと呼ばれる)。そこで、皮膚表面に最も強い放射線が当たるようにするために、5mmの厚みのシートをかぶせるというからくりです。

線量および分割法は施設により様々です。当施設では、部位によらず1回4Gyを隔日で4回行っています。施設によっては部位ごとに線量を増減させているところもあります。というのも、ケロイドは一般的に張力が強くかかる部位ほど再発しやすいからです。ピアスの痕に生じる耳垂部のケロイドは、張力がかかる部位ではなく再発率が低いため線量を減らす、一方で前胸部/肩/下腹部は張力が強くかかる部位で再発率が高いため線量を増やす、といった感じです。

続きはその3で
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ケロイド/肥厚性瘢痕に対する放射線治療

2008年02月02日 12時02分46秒 | ホームページ 放射線治療について
1/28にpachinker先生による放射線治療カンファレンスが行われました。内容はケロイド、肥厚性瘢痕に対する放射線治療についてです。 一般的に悪性腫瘍に対する放射線治療の認知度は徐々に高まりつつありますが、良性疾患に対する放射線治療の認知度は医療関係者の間でもまだまだと思います。適応対象は多岐にわたりますが、代表的な疾患はケロイド/肥厚性瘢痕甲状腺眼症血管奇形髄膜腫聴神経腫瘍血管腫翼状片といったところでしょうか? ケロイドという言葉は比較的耳にする機会が多いと考えますが、肥厚性瘢痕という言葉は一般の方にとってなじみの薄い言葉と考えます。そもそも両者ともに、外傷/熱傷/手術といった皮膚の外的刺激によって生じた傷が治る過程で、人間のもつ修復機能が過剰に働いて、傷痕が残ってそこが盛り上がったり赤くなったりしたものです。両者の違いは、肥厚性瘢痕が傷痕の部分にとどまるのに対して、ケロイドは傷痕を越えて周りの正常な皮膚のどんどん拡がっていくところにあります。でも、普通の人にとっては区別することに意味はありませんので、以後は総称してケロイドさせていただきます。 ケロイドの問題点は3つあります。1つ目は、見た目が非常によろしくないこと。特に洋服で隠れないところや、女性にとっては問題が大きいと考えます。2つ目は、痒くなったり痛くなったりすることにあります。悪性腫瘍でもそうですが、痒みや痛みは生活のレベルを著しく低下させる最も大きな要因と考えます。3つ目は、もともとが傷の治癒過程に生じてきたものなので、手術でとったとしてもその傷痕からまたでてきてしまうというところにあります。 治療についてですが、まず行われる治療法は保存的療法です。圧迫したり、特殊なシートで覆ったり、ステロイドの内服や注射をしたり、レーザーを照射したりといった感じです。この保存的療法でも改善が認められない方に対して、手術を行います。ただし、手術は傷跡を残しますので、またケロイドが発生する可能性が高いと考えます。そこで登場するのが放射線治療です。 続きはその2へ
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IMRTについて

2008年01月23日 23時17分57秒 | ホームページ 放射線治療について
IMRTとは、Intensity Modulated Radiation Therapy(強度変調放射線治療)の略語です。読んで字のごとく、放射線治療の一つのモダリティです。最近の前立腺癌に対する放射線治療の増加に伴い、一般の患者さんも、よくこの言葉を口にするようになりました。ただ、まだまだ言葉先行であり、この治療法に対する正しい認識をもっている方は少ないようです。


そもそも、IMRTと従来の放射線治療(以下従来法と省略)との違いはどこにあるのでしょうか?


方眼紙に10cm×10cmの正方形を書いてみましょう。この正方形のなかには、1cm×1cmの正方形が100個含まれています。従来法は、一回の治療では、この10cm角の正方形の内部に均一な放射線を当てることしかできませんでした。しかしIMRTでは、一回の治療で、この10cm角の正方形の中に含まれる1cm角の正方形ごとに、違った量の放射線を当てることができます。(あくまでもこのサイズは例え話の上でのサイズです)

これを応用することで、病気の形が円形でなくいびつな形の場合にも、その形に合わせて均一な放射線を当てることが可能になりました。また、病気のすぐそばに放射線をあまり当てたくない臓器があった場合に、その部分をある程度避けてかつ病気の部分に十分な量な放射線を当てることが可能になりました。

このIMRTという方法は、現在のところ、主に前立腺癌や頭頸部癌を中心として行われています。

前立腺のすぐ背側には、直腸という放射線に比較的弱い構造があり、前立腺癌を根治させるだけの放射線の量を当てようとすると、どうしてもある一定の確率で直腸粘膜に障害を起こすため、直腸出血のコントロールに難渋することがあります。IMRTを用いれば、直腸への線量を低下させることができ、副作用の頻度を下げることができます。また、従来法では、直腸への副作用を懸念して、前立腺そのものへの線量もある程度加減していましたが(70Gy程度)、IMRTを用いれば、直腸への副作用の可能性が低下した分、前立腺への線量を増加することができます。(80Gy程度)

頭頸部癌の場合は、咽頭部や頸部リンパ節領域の近傍に耳下腺、顎下腺といった唾液腺があり、頭頸部癌を根治させるだけの放射線の量を当てると、唾液腺障害による唾液の低下は必発です。唾液が低下すると、口の渇きを自覚するだけでなく、味覚が変わる、嚥下が困難になる、虫歯になりやすいなどの色々な症状がでてきます。IMRTを用いれば、唾液腺への線量を低下することができて、副作用の頻度が下げることができます。



とここまでは、IMRTの光の部分を書いてきました。しかし、なにごとにも光あれば影ありです。

まずは、従来法であれば、照射野内に均一な線量が当たるので、照射する方向とブロックの形だけ考慮すれば、放射線治療に携わる人間であれば、頭のなかでおおよその線量分布図を描くことができます。しかし、IMRTになると、照射野内にばらばらな線量が当たることになるため、その線量分布図を人の頭で想像することは不可能です。コンピューター任せ、つまりブラックボックス化しています。コンピューターがはじき出してきた方法は、本当に正しいかどうかはわからないため、検証が必要となります。つまり、患者さんに実際に行う前に、やろうとすることリハーサルで行う必要があります。このデータ取りと解析に非常に長い時間がかかります。(慣れた施設でだいたい10時間程度)朝から夕方まで患者さんを治療して、それから一日平均2時間の残業を一週間行ってやっと本番にこぎつけることができます。非常に現場に負担を強いる治療法であることは間違いありません。


次に線量率の問題があります。仮に従来法で300cGy/分の線量率で治療を行っていると仮定します。IMRTでは、照射内にばらばらな線量を当てるため、照射中にブロックが動きながら割合を調節しています。このため、平均すると30cGy/分程度の線量率ということになります。300cGy/分で1分間の治療と、30cGy/分で10 分間の治療、放射線生物学の知識がある方ならこの効果に差があることは容易に理解可能な話です。知識のない方でも、100kgの荷物を1m移動させるのと、10kgの荷物を10m移動させるのにどちらが体力を消耗するかということを考えていただければ想像可能かもしれません。つまり、正常組織への負担も軽い代わりに、病気への効果も同じ線量であれば劣る可能性をはらんでいるということです。


また従来法では、治療中の臓器の動きはあまり考慮する必要がありませんでした。照射野内は均一な放射線があたるため、少々移動したとしても、あたる放射線の量に変わりがないからです。しかしIMRTでは、照射野内にばらばらな線量が当たるため、数mmの移動で、全く異なった放射線の量が当たることになります。前立腺は膀胱内の蓄尿の程度、直腸内のガス・便塊の動きで容易に移動します。また1分間程度であれば身体を動かさないことは可能であっても、10分間身体を動かさないことは、とても大変なことだと考えます。


最後に、IMRT専用の放射線治療装置があれば別ですが、従来法と兼用で装置を使用した場合、IMRTが長い時間装置を占拠してしまい、従来法がさばけなくなるといった弊害もあります。(いわゆるスループットの問題)市中病院でも放射線治療が普通に行われている都会ならともかく、限られた病院でしか行われていないような地方では、高精度の放射線治療を行うことが、骨転移などすぐにでも放射線治療が必要な患者さんの治療機会を奪うことにもつながりかねないという現実があります。



当院でも治療機器の更新に伴い、技術的にはIMRTが可能になります。しかしスタッフの数や従来法の症例数から考えると、なかなか容易に足を踏み出すわけにはいきません。

by hirako

JASTRO報告記 看護セミナー

2008年01月18日 21時41分42秒 | ホームページ 放射線治療について

 先日、JASTROに参加してくれた看護学生の感想をご紹介しました。実際にどのような看護セミナーがあったのか、hirako先生の記事から一部抜粋しました。

 看護セミナーについては、放射線治療の常勤の看護師が必要であるが、現状は放射線部の看護師がローテートしているところが大半である。(ちなみにうちはローテートどころか週2日の半日とRALSのみ)。現在のところ、放射線治療看護師を認定看護資格として申請中であり、ここに専任加算が保険点数としてつくように学会として活動する必要がある。
 また、病棟の看護師が放射線治療中の患者さんの看護をするにあたって、放射線に対する知識が欠けているために十分な看護が行なわれていない現状があり、学会として今まで以上にセミナー等を開催する必要があるが、放射線治療医も積極的に病棟に出向いて看護師を教育することが必要であるとのことでした。
 また、全ての人を底上げすることは非常に時間と労力がかかるので、一部のコアなメンバーの教育を徹底的に行い、そこからねずみ算的に増やしていくことが早計であるとの意見もありました。

 今回参加してくれた看護学生のなかから、放射線治療に関わる看護師がでてくれたら良いですね。機会があればまた、セミナーにも参加してください