道すがら
人の世を掴んで生きた道すがら老いの坂道待つ魔物あり
逃れえぬ手に囚われて嬰児に戻らむ時計あえかに求む
季節過ぎ巡る矢車ただなかを嬰児奔り旅路重ねて
かざす手は陽に透け見える来し方の有象無象を閉じ込めており
皺の寄る掌に地や天や自身にも愧ずべきことの無きを信じて
その部屋に神も仏も振り捨てて恃みなき朝胸を張り入る
あるいはの危惧を収めてはらからの心配顔に眼で応えつつ
無影燈灯るベッドに臥して待つ満ちたりて過ぐ明鏡止水
摘出の痛みも知らず目覚むれば黄泉路迷い路世を隔ており
転移なし医師の言葉に安堵してにわかに戻る乏しき未来