一期の夢の中で
夢の中闇路伝いに過ぎ越して六十路半ばを花にむつれて
寒の気がゆるゆるほどけ弥生の日花の元にと逸りて走る
ちちははの墓前に参りご無沙汰の侘びも入れずに花を見ており
頭には狂いの声が響きおり我が宿痾なり花の声する
振り返る月日は走るともし火は風化の波にあらがいもせず
鮮烈な記憶は事実歪めはて思いを込めて事実を創り
つつましくなおつつましく生きおれど花の思いはやみがたく湧き
西行のごとく桜に思い馳せ西や東と巡る幸せ
混沌をはらみ過ぎ行く我がよわい花に淫して送るうれしさ
しかれどもたかが花なりそれゆえに花に淫する哀れは深し