早春賦
冥界の使いのように雪は降る淡い明かりにしじまも浮かぶ
春の色しのばせ落ちる寒の雪しらじら夜に拍子木の音
降り積もりほのかに灯る常夜灯蕗のさみどり出づる日こがれ
如月も末にしなれば土筆出る時のあわいの小さき墓碑銘
寒空に耐えて立ちたる裸樹に花は咲き出で人を動かし
さまざまのきざはしはあり日を次いで定めのままに春の足音
見えもせず触れもできずにきざはしを老いのまにまに危うく昇る
人住まず塵の積もれる古家に電気や水道請求書のあり
昔日に役目を終えた古家にかすかに残る生の残骸
まぼろしを背負いきざはし昇り来て見上げてみれば春の青空