2024年10月のブログです
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郷静子さんの『れくいえむ』(1975・文春文庫)をすごく久しぶりに読む。
じーじが持っている文庫本は1976年の本で定価180円。
おそらく郷さんが芥川賞を受賞して、それで大学生の時に読んだと思うが、なんと50年ぶりだ。
なんとなく重たい小説、という印象を持っていたので、再読が遅くなってしまった(郷さん、ごめんなさい)。
今、読み返してみると、確かに重たい内容の小説だが、端正な日本語で書かれているので、なんとなく透明感のある素敵な小説に思える。
あらすじは例によってあえて書かないが、太平洋戦争中に健気に生きた軍国少女の真面目な考えと行動、そして、その中での迷いなどを描く。
真面目な少女の実直で賢明な姿が描かれ、親友との交友や文通では健気さと正直さが際立つが、少女特有の青春のときめきなども初々しい。
しかし、そんな普通の少女が、国家権力による間違った思想を信じてしまう怖さについても考えさせられてしまう。
少女は日本が戦争に負けても、降伏することはない、と信ずる。
それは戦争中に政府や軍部から言われつづけていたことだ。
降伏をするくらいなら、皆で死ぬ。そう信じて疑わない。
しかし、爆撃で家族が死に、苦しいさなかに、日本の攻撃で同じように苦しんだであろう国々の人々のことも想う。
道端で兵士が話す中国戦線での虐殺の話を聞き、皇軍に疑問を抱く。
反戦を声高に叫ぶことはなく、少女は結核で死ぬが、その余韻はとても大きい。
おとなのずるさを鋭く告発する。
少女のすがすがしさがとても哀しい小説だ。 (2024.10 記)