ゆうわファミリーカウンセリング新潟 (じーじ臨床心理士・赤坂正人)     

こころと暮らしの困りごと・悩みごと相談で、じーじ臨床心理士が公園カウンセリングや訪問カウンセリングなどをやっています。

中井久夫『精神科治療の覚書』1982・日本評論社-中井さんの名著に細やかさやていねいさを学ぶ

2024年04月03日 | 精神科臨床に学ぶ

 2024年春のブログです

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 中井久夫さんの『精神科治療の覚書』(1982・日本評論社)をかなり久しぶりに読む。

 中井さんの名著なのに、再読がすっかり遅くなった。反省。

 中井さんが日々の精神科治療で経験されたことをすごく細やかに、ていねいに記されていて、勉強になる。

 真摯な精神科医はこんなにもいろいろなことを考えて治療をされているのか、と本当に感心させられる。

 それでいて、そこから患者さん中心の精神医学が立ち上がってくるさまが見えてくるようですごい。

 例は違うかもしれないが、松田道夫さんの『育児の百科』を思い出す。

 松田さんも、子どもの症状をていねいに細やかに記して、そこから親ごさんが安心できるような情報を導き出すが、そこがそっくりな印象を受ける。

 患者さんや家族を大切にする大家は分野が違っても、同じような作業をされているのかもしれないなあ、と思ったりする。

 もう一つびっくりしたのが(一回読んでいて、今ごろ、びっくりした、もないが…)、この本で中井さんがすでに「ハムレットの原理」に触れている点。

 患者さんの話を「聴く」ということは、その訴えに関して、中立的な「開かれた」態度を維持すること、「開かれた」ということはハムレットがホレイショにいうせりふ「天と地の間には…どんなことでもありうる」という態度、と述べられていて、19世紀のある治療者(誰かな?)が「ハムレットの原理」と名づけている、と紹介されている。

 この「ハムレットの原理」を中井さんは患者さんに「ホレイショの原則」と呼んでいたらしいし、じーじの考えではこれはわからないことに耐えることでもあると思う。

 今頃、中井さんの先見の明に触れられて、お粗末なじーじだが、勉強の楽しさを十分に味わえた1か月であった。   (2024.4 記)

 

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喜多由布子『知床の少女』2007・講談社-北のじーじとばーばの知恵に学ぶ

2024年04月03日 | 北海道を読む

 2020年春のブログです

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 喜多由布子さんの小説『知床の少女』(2007・講談社)をしばらくぶりに読みました。

 いい小説です。

 涙もろいじーじは、終わりのほうは、涙じわーんで読んでしまいました。

 高校受験に失敗をして、浪人中の女の子が主人公。

 家庭不和もあって、精神的に余裕がなくなっています。

 そんな女の子に、札幌に住むじーじが遊びに来ることをすすめます(いいじーじですね)。

 そして、じーじのはからいで知床で水産工場を営む、さくらばあ、というばーばのところに。

 そこで、働く人たちとの生活の中で、女の子は本当にだいじなことはなにかを学んでいきます。

 飾りはないけど、質素で純朴な人たち。

 厳しいけれど、こころ温かい人々とのやりとりの中で、女の子は都会では見失われている大切なものに気づいていきます。

 いわば、梨木香歩さんの『西の魔女が死んだ』の北海道版みたいな素敵な小説です。

 明るいだけでなく、哀しみもあるところが北海道らしいのかもしれません。

 喜多さんの文章はシンプルだけど、力強く、そして、美しい日本語で読みやすく、あっという間に読んでしまいました。

 いい小説が読めて、今、しあわせな瞬間を味わっています。

 明日からまた頑張ろうという勇気をもらえたような気がします。    (2020.4 記)

 

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