ゆうわファミリーカウンセリング新潟 (じーじ臨床心理士・赤坂正人)     

こころと暮らしの困りごと・悩みごと相談で、じーじ臨床心理士が公園カウンセリングや訪問カウンセリングなどをやっています。

平野啓一郎『マチネの終わりに』2019・文春文庫-素敵な男女の切ない恋愛物語です

2024年09月18日 | 小説を読む

 2022年7月のブログです

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 平野啓一郎『マチネの終わりに』(2019・文春文庫)を読む。

 平野さんの小説を読むのは初めて。

 旭川の古本屋さんで、本の帯に映画で主演をした石田ゆり子さんがうつっている本書を見つけて、美人恐怖症のじーじだが、つい購入してしまった。

 210円。安い。

 しかしながら、これがなかなかすごい小説。

 あらすじだけをたどれば、下手をすると何ともない小説になりかねないかもしれないが、平野さんのていねいな文章のちからもあってか、切ないけれども、なかなか重厚な物語になっている。

 主人公の男女が少しかっこう良すぎるが、しかし彼らも悩み多き普通の人々であり、内省的であるがゆえに、その悩みや不安に深みを与えている。

 読者が一緒に体験をする物語のテーマは重層的で数多くあり、重みのあるどきどき感が最後まで続く。

 驚いたのは、過去は変わる、あるいは、変えられる、というテーマ。

 精神分析でも重要で、じーじも時々考えさせられるテーマ。

 このテーマをめぐっても、物語が進行して、なかなか興味深かった。

 もともとは毎日新聞に連載された小説とのことだが、こんなすごい小説を連載する毎日新聞を見直した。

 久しぶりに小説の世界にどっぷり浸った一冊だった。

 210円でこんな幸せな時間を過ごせたことをうれしく思う。        (2022.7 記 )

 

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小倉清『子どものこころの世界-あなたのための児童精神科医の臨床ノート』2019・遠見書房

2024年09月17日 | 子どもの臨床に学ぶ

 2019年のブログです

     *

 小倉清さんの『子どものこころの世界-あなたのための児童精神科医の臨床ノート』(2019・遠見書房)を読みました。

 本書は小倉さんが1984年に出した『こころのせかい「私」は誰?』(同書の拙い感想文もブログに書いてありますので、よかったら読んでみてください)を改訂した本で、内容がさらにパワーアップしています。

 もちろん、基本的なところは同じで、本書でも子どものこころの成長を精神分析的な見方をもとにして、とてもていねいに説明されています。

 現場で長らく診療をされているお医者さんなので、症例が豊富ですし、重要なケースがたくさん出てきて、それをどのように診るか、どのように理解するのか、じーじのような初学者にはとても勉強になります。

 例によって、今回、特に印象に残ったことを一つ、二つ。

 一つめは、防衛機制について。

 防衛機制というのは、ご存じのかたも多いと思いますが、こころの平衡を保つための心理的な作用のことで、否認や抑圧、合理化などが有名ですが、この説明がすごいです。

 これまで、いろいろなかたの説明を読んできていますが、小倉さんの説明が一番シンプルで、かつ、わかりやすいのではないでしょうか。

 文章が本当にこなれていて、読みやすいです。

 幻聴についても、投射という機制で説明をされていて、とてもよく理解ができました。

 二つめは、症例の豊富さ。

 しかも、適切な説明がなされますので、本当にびっくりしたり、感心をしたり、驚くばかりです。

 三つめは、年代ごとのこころの成長と課題について。

 とにかくていねいで、温かく、子どものことを考えられていると思います。

 近いうちに、さらに再読をしようと思いました。      (2019.9 記)

 

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伊坂幸太郎『クジラアタマの王様』2022・新潮文庫-現代社会のあやうさとその中での生きざまを描く

2024年09月17日 | 小説を読む

 2022年7月のブログです

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 伊坂幸太郎さんの『クジラアタマの王様』(2022・新潮文庫)を読む。

 この本も夏休みにゆっくり読もうと思って楽しみにしていたもの。

 旭川の本屋さんで買って、すぐに読む。

 不思議な小説、物語である。

 伊坂ワールド全開。

 例によって、あらすじはできるだけ書かないが、まずは、夢が真実か、現実が真実か、というテーマが描かれる。

 ロールプレイゲームとの関連もテーマらしいが、もっと深い世界を描いているような気もする。

 胡蝶の夢、という言葉も出てきて、司馬遼太郎さんをはじめとして、夢と真実は小説家にとっては大きなテーマなのかもしれない、とも思う。

 次に、小説家のすごさを感じた部分。

 昔から、小説家は社会のカナリアのような存在、人が気づかないことに先に気づく、と言われるが、この小説はまさにそう。

 コロナ騒動を、騒動にさきがけて、あるいは、騒動と同時に、これだけ描いた小説はすごいと思う。

 マスコミのいいかげんさ、怖さ、社会のいいかげんさと怖さ、などなどが鋭く描かれる。

 改めて、怖い社会になってきているな、と思うし、ここで、自分らしく生きていくことは、おとなでもなかなか大変だなと思う。

 ましてや、子どもは…。

 コロナはコロナにとどまらず、差別、金儲け、戦争、などなどと問題は広がる。

 このような世の中で、人はどう生きるのか。

 それが多少のユーモアをともなって物語られる。

 とても怖いが、同時に、勇気をもらえる小説ではなかろうか。       (2022.7 記)

 

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小倉清『こころのせかい「私」はだれ?』1984・彩古書房-「熱い」子どもの精神科医との出会いを思い出す

2024年09月16日 | 子どもの臨床に学ぶ

 たぶん2011年ころのブログです

     *   

 小倉清さんの『こころのせかい「私」はだれ?』(1984・彩古書房)をかなり久しぶりに読みました。

 3回目くらいで、10年ぶりくらいではないでしょうか。

 1984年の本ですが、その少し前頃、家裁調査官の東京での研修で、たまたま小倉さんの講義をきく機会がありました。

 それで、感激をして、小倉さんの本をあちこちの本屋さんで探して、ようやく手に入れた記憶があります。

 小倉さんのことはその当時、じーじはまったく知らなくて(小倉さん、ごめんなさい)、しかも、小倉さんの働く関東中央病院という先進的な精神科病院のこともじーじはまったく知りませんでした。

 そんな本当に白紙の状態でお話をお聞きしたのですが、その「熱さ」と学問的な裏付けに、思わずうなってしまった記憶があります。

 また、当時はまだじーじは精神分析の勉強もあまりしておらず、今考えると、とてももったいないことをしてしまったな、と思います。

 しかし、こういう機会がのちの精神分析学会への入会に導いてくれたのかもしれません。

 さて、久しぶりに読んでみた本書、やはりいい本でした。

 特に、解説のわかりやすさと症例のすごさはびっくりです。

 例えば、わかりやすさということでは、こころの健康について、不安のコントロールや怒りのコントロール、変化への対応などの大切さを述べていて、とてもわかりやすいです。 

 症例では、現場での豊富なご経験から、こんなケースもあるのか、と驚くような症例とそれへのていねいな対応が見事です。

 今後もさらに深く学んでいきたいと思いました。              (2011?記)

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 2019年12月の追記です  

 先日、放送大学の番組を見ていたら、小倉さんが子どもの治療について述べている番組の再放送がありました。

 とてもわかりやすく、しかも、内容が深く、勉強になりました。

 やっぱりすごい先生です。      (2019.12 記)

 

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瀬尾まいこ『傑作はまだ』2022・文春文庫-50歳のややひきこもりの作家と初めて会う息子との物語

2024年09月16日 | 小説を読む

 2022年7月のブログです

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 瀬尾まいこさんの『傑作はまだ』(2022・文春文庫)を読む。

 夏休みに読もうと楽しみにしていた小説。

 旅先の旭川の本屋さんで購入。 

 ゆっくり読もうと思っていたが、なかなか面白くて、1日で読んでしまう。もったいない。

 本の帯には、50歳の引きこもり作家の元に、生まれてから一度も会ったことのない25歳の息子が、突然やってきた、とある。

 若気の至りで生まれた息子に20年間、写真と引きかえに養育費だけを送っていた父子関係が突然変わる。

 びっくりする物語の始まりだ。

 現代っ子の息子と世間知らずの父、二人の織りなす物語が楽しい。

 少しのユーモアと少しの真実が色を添える。

 一見、悩みのなさそうな息子だが、しかしなにやら、少しだけ影を引きずっている風でもあり、気にかかる。

 息子のおせっかいで町内会に入ることになってしまった作家は、おっかなびっくりながらも新しい人間関係を少しずつ築く。

 同じように少しひきこもりの傾向のあるじーじは、人間とはなんとやっかいなものかと思う。

 しかし、そのわずらわしさが同時に喜びでもあるわけだろう。

 子どもを産んだら、子どもだけしか見えなくなった、という息子の母親の言葉も逞しく、重い。

 そして、それが驚くようなラストに続く。

 小説だなあ、と思うが、いい小説だ。

 そして、希望を持てる物語だと思う。      (2022.7 記)

 

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藤山直樹『精神分析という営み』2003・岩崎学術出版社-藤山直樹さんの率直な語りに学ぶ

2024年09月15日 | 精神分析に学ぶ

 たぶん2017年ころのブログです

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 藤山直樹さんの『精神分析という営み』(2003・岩崎学術出版社)を再読しました。

 何回目になるでしょうか、じーじはこの本を読んで藤山さんのファン(?)になったのですが、いざ感想を述べるとなると、じーじの理解不足、経験不足もあって、なかなか難しい本です。

 今回もうまくまとめられるかな、と思いながら読んでいましたが、とりあえず、印象に残ったことを一つ、二つ、書いてみます。

 まずは事例がすごいです。何回読んでも新鮮です。こんなことがあるんだとびっくりします。

 そして、多少の失敗も含めて、すごく正直に(おそらく)、率直に書かれていると思います。

 その中から、精神分析の考え方をていねいに検討しておられるので、説得力がありますし、初学者にも勉強になります。

 特に、印象的な事例は、一番最初の藤山さんが殴られる事例。

 患者さんが面接中に、支配的な両親と藤山さんを同一視して行動化してしまうのですが、それをきちんと分析する藤山さんに感心します。

 他の事例でも、面接中に逆転移や投影同一化に揺れる藤山さんがすごく正直に描かれます。

 また、精神分析はキャッチボールではない、という大切な命題も主張されます。

 関連して、共感をめざす危険性にも論及されます。

 自分のカウンセリングを反省させられます。

 さらに、ウィニコットさんを引用されて、遊ぶ余裕の中でしか、創造的な心理療法はできない、とも主張されます。

 理論と経験と実践が密接にリンクしていて、迫力がありますし、勉強になります。

 さらに勉強をして、経験を積み、力のある臨床家になりたいな、と強く思える本だと思います。

 なお、序文は土居健郎さん。

 土居さんも率直に藤山さんを評します。

 いい師弟関係だなとうらやましくなります。     (2017?記)

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 2019年10月の追記です   

 先日の精神分析学会で、藤山さんが本書の論文に触れていたので、再読をしました。

 じーじにしては2年ぶりと、めずらしく早めの再読です。

 やはりすごい本です。一気に読んでしまいました。

 症例がすごいです。率直に書かれていて、臨場感がすごいです。説明も簡潔明瞭で、藤山さんの学会での語りと同じです。

 あこがれますね、こういう人に…。さらに勉強と経験を積み重ねようと思います。      (2019. 10 記)

 

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樋口有介『風少女』1993・文春文庫-本の帯に、さわやか青春ミステリー、とあります

2024年09月15日 | 小説を読む

 2021年8月のブログです

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 またまた樋口有介さんを読んでしまいました。

 本棚の横に積んであった『風少女』(1993・文春文庫)。

 だいぶ前の本です。

 年寄りのじーじがご紹介するのは少し恥ずかしかったのですが、とても面白かったので、ついパソコンに向かってしまいました。

 このところ有介ワールドにはまってしまっていて、ずっと読んでいるのですが、さすがに感想文を書けるのは、限られます。

 おそらくは、単に面白いだけでなく、生きることの切なさや哀しみが感じられるからではないかと思うのですが、そういう分析はなかなか難しいです。

 主人公は男子大学生。

 あらすじは例によって詳しくは書きませんが、昔のガールフレンドが亡くなり、なぜかその妹と一緒に亡くなった事情や周辺をさぐることになります。

 若い人には若いなりの悩みや苦しみ、嫉妬やねたみが出てきて、なかなかたいへんです。

 そこのところを、ちょっとしたユーモラスな語り口で包み込む樋口さんの筆はとてもいいです。

 苦しい人生も、少しのユーモアの力で、なんとか進めそうな感じ。

 真面目一方ではなく、不真面目の力、遊びの力を感じます。

 このあたりの感じ、うまく伝えるのが難しいですが、よかったら読んでみてください。

 年取ったじーじでも、生きていることは悪くはないな、と思えるような、少しだけ元気をもらえる小説です。      (2021.8 記)

 

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藤山直樹『続・精神分析という営み』2010・岩崎学術出版社-その2・「甘え」と秘密をめぐって

2024年09月14日 | 精神分析に学ぶ

 2022年8月のブログです

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 藤山直樹さんの『続・精神分析という営み』(2010・岩崎学術出版社)を久しぶりに再読しました。

 今回もいろいろなことが勉強になりました。

 特に今回、じーじが参考になったことは、「甘え」と秘密の関係と、自由連想についての考察。

 いずれも鋭いです。

 秘密の問題については、精神分析でいろいろな方が論じていますが、今回、藤山さんは、「はにかみ」と「甘え」いう現象を取り上げて説明をします。

 そして、おとなになるためには秘密が必要であり、それが「甘え」や「はにかみ」の世界に包まれるような関係が大切といいます(それで合っていると思うのですが、間違っていたら、ごめんなさい)。

 一方、自由連想。

 藤山さんは、自由連想は、単に自由に連想をすること、ではなく、自由に連想をしたことを語ること、に意味があるといいます。

 そして、患者さんが治療者に連想を語ることの一方、治療者は連想したことのすべてを語らず、もの想いすることの重要性を説きます。

 改めて、そう指摘をされると、本当に大事な点だな、と思います。

 まだまだ勉強不足で拙い理解だとは思いますが、さらに勉強を深めていきたいと思います。      (2022.8 記)

 

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荻原浩『花のさくら通り』2015・集英社文庫-『オロロ畑でつかまえて』、『なかよし小鳩組』、そして……

2024年09月14日 | 小説を読む

 2020年8月のブログです

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 荻原浩さんの『花のさくら通り』(2015・集英社文庫)を読みました。

 これも旭川の本屋さんで見つけました。

 面白かったです。

 そして、いい小説です。

 ユニバーサル広告社という小さな広告会社をめぐる小説で、『オロロ畑でつかまえて』『なかよし小鳩組』に続く第3弾。

 前2作もとても面白い小説でしたが、今回もすごいです。

 今回はある商店街が舞台ですが、主人公だけでなく、その他の登場人物がとても生き生きとしています。

 商店街の変革をめぐるドタバタ劇は、やはり組織と個人の問題や生き方の問題に繋がっていて、じーじには結構、重いテーマですが、荻原さんは一見軽快に描きます。

 加えて、主人公と、その別れた妻に引き取られた娘とのやり取りが少しの哀しみをそえます。

 さらには、若いカップルの許されない(?)恋愛、中年男性の生き様、などなど、さまざまな人間模様が展開します。

 荻原さんはこれらを軽快にとても面白く描きますが、その底には深い哀しみや憤りや怒りなどが渦巻いているように感じられます。

 生きることの喜びと切なさ、じーじがこう書くとなんだか陳腐になってしまいますが…。

 ラストがまたいいです。

 良質の映画を観ているようです。      (2020.8 記)

 

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藤山直樹『続・精神分析という営み』2010・岩崎学術出版社-その1・投影同一化と正直さをめぐって

2024年09月13日 | 精神分析に学ぶ

 たぶん2012年ころのブログです

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 藤山直樹さんの『続・精神分析という営み』(2010・岩崎学術出版社)を再読しました。

 この本も何回か読んでいるのですが、じーじの理解不足もあって、リポートをするのがなかなか難しい本で、結局、読んでみてください、いい本ですし、すごい本です、としか言えないような感じもします。

 しかし、それではブログになりませんので、とりあえず、今回、じーじが印象に残ったことを一つ、二つ、書いてみます。

 この本の中では、解釈や自由連想、遊び、反復強迫、物語など、精神分析におけるいろいろな技法や現象の問題が論じられているのですが、じーじが一番印象に残ったのは、投影同一化の問題です。

 投影同一化は精神分析では重要なテーマですが、説明がなかなか難しい現象です。

 じーじの理解も十分ではありませんが、簡単にいうと、患者さんが治療者に自己の問題を無意識に投影して、治療者が動きの取れないような心理的状態になることを言います(これで合っているのかな?)。

 そして、その困難な状況に治療者がなんとか耐えているうちに、事態が打開するというふうに、現在の精神分析では論じられています。

 そして、この本の藤山さんの論文では、いろいろな技法や現象の説明のところにかなり投影同一化が顔を出しているような気がします。

 この理論的にも、技法的にもとても難しい現象を、藤山さんは相当に苦労しつつも、しかし、なんとか打開をして、そのうえで、そこでの転移・逆転移を説明されています。

 これは初学者にはとても勉強になります。

 初学者の場合、何が起こっているのか、よくわからないままに事態が推移してしまうことが多いと思います。

 それをわかりやすく説明してもらえるのは、すごく勉強になります。

 さらに、藤山さんの、事例での正直さはすごいです。

 それは、プロセスノートについての論文でも明確ですが、わからないものをわからない、と言う正直さと勇気が、やはり大切なんだな、と考えさせられます。

 ともすると、わたしたちは格好よくしたがりがちですが、臨床では他の大家もそうですが、正直さが勝負のようです。

 さらに謙虚に学び、実践をしていこうと思います。      (2012?記)

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 2023年秋の追記です

 わからないものをわからない、と言う正直さと勇気、というところは、わからないことに耐えることの大切さ、に通じそうですね。   (2023.10 記)

 

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