ココロの居場所

平穏な居場所を求めるべく、日々、感じた事を掲載していきます。

昼食時に、「物質的な鎖と束縛とを甘受せよ。」と聞いた。

2012-05-28 01:35:43 | 言葉
東京でのお昼時は、どの店もお客さんで満杯であり、久しぶりに地方からでてきた私にとっては、閉口する。大通りから裏道に回っても、人、人。少しゆっくり本でも読みながら、昼食をとろうというのは贅沢なことなのかもしれない。...しばらく、歩き回って、席が空いている店をみつける。サンドウィッチとホットコーヒーを注文している間に、年配のおばさんに、その席を先に取られてしまった。店内を見渡すと、階段があることに気づき二階に登ってみる。登った目の先に、一カ所だけ席が空いていた。人の通り道にあるような席だが、選んでる余地などない。でも、椅子と机とをセットで確保できたので、本を開いて食事ができるのだ。汗を拭い、カバンから単行本をとりだした。...   「「人間の悲惨を知らずに、神をのみ知ることは、傲慢をひき起こす。」これは、たしか、パスカルの言葉だったと思うが、僕は今まで、自分の悲惨さを知らなかった。ただ神の星だけを知っていた。その星を欲しいと思っていた。それでは、いつか必ず、幻滅の苦杯を嘗めるわけだ。人間のみじめ。食べる事ばかりを考えている。兄さんが、いつか、お金にならない小説なんか、つまらぬ、と言っていたが、それは人間の素直な言葉で、それを一図に、兄さんの堕落として非難しようとした僕は、間違っていたのかも知れない。...「物質的な鎖と束縛とを甘受せよ。我は今、精神的な束縛からのみ汝を解き放つのである。」これだ、これだ。みじめな生活のしっぽを、ひきずりながら、それでも救いはあるはずだ。...いつも明日のパンのことを心配しながらキリストについて歩いていた弟子達だって、ついには聖者になれたのだ。僕の努力も、これから全然、新規まき直しだ。」(太宰治、「正義と微笑み」より引用。)     単行本を閉じて店を出た時、通りがすっかり濡れており、ひと雨後の涼やかな風が吹いていた。

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