臆病なビーズ刺繍

 臆病なビーズ刺繍にありにしも
 糸目ほつれて今朝の薔薇薔薇

「角川『短歌』2017年1月号」を読む

2017年03月22日 | 古雑誌を読む
    「うたびとの墓」  吉田隼人


胸郭のうちにも月ぞ昇りゐむふるき仏蘭西の雑誌よむころ

闇に眼はいよいよ冴えて宙空に息詰まるほど花のまぼろし

かげろふのあをき慄へに存在のあさきゆめみし炎熱の夜を

絶滅の危機に瀕してわが書架に収められゆく旅の蝶たち

筆擱きてなほものぐるひしづまらぬ暁烏その聲のみ聞こゆ

あをあをと揺るる夏の田 詩歌へのおもひ萎えつつ白鷺飛ばず

鳥類のこぞりて墜つる蒼空のふかみに風の鉱脈あらむ

うたひつつうたを棄つるか白昼に影ひとつなく咲く夏の花

熱風にさらす身にしてたましひの底ひに夏の花散りやまず

植ゑもせぬ百合ひとくきの咲きて枯るおろかきはまる詩論に傷み

  かすみ草は英語にてBaby's breathと称す由。
わがうたの殯も為さむそののちのわれに手向けよ霞草(みどりごのいき)

かなしみに似て白き夏びようしんを天使に抱かることもなく過ぐ

夏の最期のひかり浴びけむひさかたの天使住居街(ロス・アンジェルス)の浜田到も

夏草やうたを棄つればうたの墓 となりに白きうたびとの墓





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