橋本喜典作「芸に遊ばむ(31首)」より抜粋
身弱くも数限りなき恩愛を享けて八十八年の生
籠らむと最晩年を意識してつくりし書屋にわれの椅子あり
祝はるるわれ立ち上がり声に言ふ喜寿の君らに乾杯をせむ
聞こえざる耳傾けて聞かむとし目の前にある天婦羅食へず
日の脚の退きゆく見つつ背のびして洗濯物を取り込みてをり
久久に往還に見つ目的をもちて車の疾駆するさま
ご近所のいつも笑顔の人に会ひ立ち話ながくなりさうな妻
誘眠剤効かざることを幸ひに一首にむかふ暗きなかにて
師の墓に参らぬ三年晩秋の雑司ヶ谷墓地を思ひゑがくも
新しき己に会ふをたのしみに吾はも古き芸を遊ばむ
身弱くも数限りなき恩愛を享けて八十八年の生
籠らむと最晩年を意識してつくりし書屋にわれの椅子あり
祝はるるわれ立ち上がり声に言ふ喜寿の君らに乾杯をせむ
聞こえざる耳傾けて聞かむとし目の前にある天婦羅食へず
日の脚の退きゆく見つつ背のびして洗濯物を取り込みてをり
久久に往還に見つ目的をもちて車の疾駆するさま
ご近所のいつも笑顔の人に会ひ立ち話ながくなりさうな妻
誘眠剤効かざることを幸ひに一首にむかふ暗きなかにて
師の墓に参らぬ三年晩秋の雑司ヶ谷墓地を思ひゑがくも
新しき己に会ふをたのしみに吾はも古き芸を遊ばむ