[馬場あき子選]
○ 野心なき生つまらぬと子に語るわれにはありきありて潰えき (名古屋市)長尾幹也
島流し同然に名古屋勤務を命じられ、ご家族との別居生活を強いられるとは、作者ご自身も予想だにしなかったのでありましょう。
それにしても、我が子に向かって「野心なき生つまらぬ」なんて暴言を吐くとは、人間は何歳になっても馬鹿なことを言うものである!
若き日の長尾幹也さんは、世に言う猛烈社員であったのでありましょうか?
[反歌] そのかみの猛烈社員の成れの果て名古屋の屋台で焼け酒を飲む
○ 貝塚のわきに座りて牡蠣飯を食べつつおればルーツなつかし (静岡市)篠原三郎
本作の作者・篠原三郎さんの「ルーツ」、即ち、遠いご先祖は丸太を刳り貫いた小舟に乗って、南の島から渡来したのでありましょうか?
[反歌] 名も知らぬ遠き島より流れ来し篠原総家のご先祖様よ
○ 蕎麦を食ふ迫真の演技なし終へて箸は落語家の扇子に戻る (神奈川県)九螺ささら
「落語家」が「扇子」を「箸」に見立てて「蕎麦」を食う場面を、彼の三遊亭小遊三師匠が演じたら、それこそはまさしく「迫真の芸」と言うべきでありましょう。
だが、これを称して「演技」と表現するとは、本作の作者・九螺ささらさんの言葉音痴ぶりには首を傾げざるを得ません。
[反歌] 文を書く迫真の芸やり終へて筆は小遊三の扇子に還る
○ 口笛を吹いて歩けば雪虫がいつしかわれの肩におりたり (仙台市)小室寿子
「われの肩」は「雪虫」にとっての音楽鑑賞の為の格好な座席であったのでありましょう。
[反歌] 雪虫を肩に背中に留まらせて小室寿子は晩秋を詠む
○ 独房に秋の蚊を打つほの白き壁に小さき血の跡残し (ひたちなか市)十亀弘史
私・鳥羽省三は「独房」はおろか「雑居房」にさえも入った事がありませんから、獄舎の様子はよく分かりませんが、「ほの白き壁」が「秋」の「独房」らしき雰囲気を醸し出しているのではないかしら?
でも、あの俳人・小林一茶にだって、「やれ打つな蠅が手をする足をする」という、無抵抗な小動物の命を憐れむ句がありますから、ひたちなか市の獄舎にお住まいの十亀弘史さんは、濫りに「秋の蚊」を打ち殺したりしてはなりません。
[反歌] 独房の壁に縋れる秋の蚊に語り掛けたり「寒くなつた」と
○ 牛塚の小高く残る百頭の狂牛病の牛埋む跡に (所沢市)若山 巌
二句切れである点に留意して鑑賞しなければなりません。
○ 電飾を勝手に巻かれし冬木らの哀しき貌が我が内に棲む (石川県)瀧上裕幸
「勝手に」は一考を要す。
○ おろおろと生きてきたりし年月をええじゃないかと思うこのごろ (金沢市)前川久宜
今更後悔したところで取り返しがつきませんからね!
○ 雪降る季節になりました季節は巡る君がいてもいなくても (秋田市)金澤 忍
これが朝日歌壇の入選作でありましょうか?
○ 美ら海に亀甲墓に米軍の基地に降る降る雨は滂沱と
沖縄の米軍基地問題を扱った作品としては、沖縄の葬送様式として知られる「亀甲墓」を詠み込むなど、やや目先が変わってはいるが、所詮、同工異曲のレベルでしかありません。
○ すっかり葉を散らせし欅のうれに見ゆ蛹となりて冬越す蓑虫 (新潟県)山田昭義
「散らせし」は、「四段活用の動詞〈散る〉の未然形〈散ら〉に使役の助動詞〈す〉の連用形の〈せ〉が接続し、更にその下に自己の経験の回想を表す助動詞〈き〉の連体形〈し〉が接続」したものであり、その意は「(過去に於いて欅自身が)散らした」となる。
それにしても、「欅のうれ」にぶら下がっている「蓑虫」の「蛹」が見えるとは、本作の作者の視力が、彼のサンコさん並みであることには吃驚仰天してしまいました。
○ 過労死の記事を見てより役所から子の帰宅せる時間を控ふ (三原市)岡田独甫
昨今の檀家衆はお寺さんの期待通りに葬式や法事などを行わなくなり、お寺さん側としてはお布施などの身入りが少なくなってしまったから、住職の跡取り息子が教員になったり市役所の吏員になったりする場合が多い、とか?
ところで、2009年3月30日付けの朝日新聞の朝刊に、当週の朝日歌壇の入選作の一つとして、「父さんは和尚のくせにと言いし子がわれと差もなき和尚となれる」という作品が掲載されていて、その作者は、掲出作品の作者と同一人物、即ち、三原市にお住まいの岡田独甫さんである。
本作の作者・岡田独甫さんは、三原市内のさる寺院の前住職とのことでありますが、彼のご子息は、御父上・岡田独甫大和尚の跡を襲って、件の寺院の住職を勤めながら、市役所の吏員としてのお勤めもなさって居られるのでありましょうか?
それにしても、世知辛い世の中になってものではありませんか!
[反歌] 酔つ払ひが階段から落ちて死んだと言ふ独甫和尚よご注意されたし
○ 草食のオオハクチョウが首伸ばし潜りて獲りし鮒を呑みこむ (埼玉県)島村久夫
「潜りて獲りし鮒を呑みこむ」と、「草食」動物のくせして、食欲旺盛かつ貪欲獰猛な「オオハクチョウ」の一挙手一動が具体的に表現されている作品である。
[反歌] 正確に言へば雑食と言ふべしオオハクチョウの大食ひ野郎
○ 野心なき生つまらぬと子に語るわれにはありきありて潰えき (名古屋市)長尾幹也
島流し同然に名古屋勤務を命じられ、ご家族との別居生活を強いられるとは、作者ご自身も予想だにしなかったのでありましょう。
それにしても、我が子に向かって「野心なき生つまらぬ」なんて暴言を吐くとは、人間は何歳になっても馬鹿なことを言うものである!
若き日の長尾幹也さんは、世に言う猛烈社員であったのでありましょうか?
[反歌] そのかみの猛烈社員の成れの果て名古屋の屋台で焼け酒を飲む
○ 貝塚のわきに座りて牡蠣飯を食べつつおればルーツなつかし (静岡市)篠原三郎
本作の作者・篠原三郎さんの「ルーツ」、即ち、遠いご先祖は丸太を刳り貫いた小舟に乗って、南の島から渡来したのでありましょうか?
[反歌] 名も知らぬ遠き島より流れ来し篠原総家のご先祖様よ
○ 蕎麦を食ふ迫真の演技なし終へて箸は落語家の扇子に戻る (神奈川県)九螺ささら
「落語家」が「扇子」を「箸」に見立てて「蕎麦」を食う場面を、彼の三遊亭小遊三師匠が演じたら、それこそはまさしく「迫真の芸」と言うべきでありましょう。
だが、これを称して「演技」と表現するとは、本作の作者・九螺ささらさんの言葉音痴ぶりには首を傾げざるを得ません。
[反歌] 文を書く迫真の芸やり終へて筆は小遊三の扇子に還る
○ 口笛を吹いて歩けば雪虫がいつしかわれの肩におりたり (仙台市)小室寿子
「われの肩」は「雪虫」にとっての音楽鑑賞の為の格好な座席であったのでありましょう。
[反歌] 雪虫を肩に背中に留まらせて小室寿子は晩秋を詠む
○ 独房に秋の蚊を打つほの白き壁に小さき血の跡残し (ひたちなか市)十亀弘史
私・鳥羽省三は「独房」はおろか「雑居房」にさえも入った事がありませんから、獄舎の様子はよく分かりませんが、「ほの白き壁」が「秋」の「独房」らしき雰囲気を醸し出しているのではないかしら?
でも、あの俳人・小林一茶にだって、「やれ打つな蠅が手をする足をする」という、無抵抗な小動物の命を憐れむ句がありますから、ひたちなか市の獄舎にお住まいの十亀弘史さんは、濫りに「秋の蚊」を打ち殺したりしてはなりません。
[反歌] 独房の壁に縋れる秋の蚊に語り掛けたり「寒くなつた」と
○ 牛塚の小高く残る百頭の狂牛病の牛埋む跡に (所沢市)若山 巌
二句切れである点に留意して鑑賞しなければなりません。
○ 電飾を勝手に巻かれし冬木らの哀しき貌が我が内に棲む (石川県)瀧上裕幸
「勝手に」は一考を要す。
○ おろおろと生きてきたりし年月をええじゃないかと思うこのごろ (金沢市)前川久宜
今更後悔したところで取り返しがつきませんからね!
○ 雪降る季節になりました季節は巡る君がいてもいなくても (秋田市)金澤 忍
これが朝日歌壇の入選作でありましょうか?
○ 美ら海に亀甲墓に米軍の基地に降る降る雨は滂沱と
沖縄の米軍基地問題を扱った作品としては、沖縄の葬送様式として知られる「亀甲墓」を詠み込むなど、やや目先が変わってはいるが、所詮、同工異曲のレベルでしかありません。
○ すっかり葉を散らせし欅のうれに見ゆ蛹となりて冬越す蓑虫 (新潟県)山田昭義
「散らせし」は、「四段活用の動詞〈散る〉の未然形〈散ら〉に使役の助動詞〈す〉の連用形の〈せ〉が接続し、更にその下に自己の経験の回想を表す助動詞〈き〉の連体形〈し〉が接続」したものであり、その意は「(過去に於いて欅自身が)散らした」となる。
それにしても、「欅のうれ」にぶら下がっている「蓑虫」の「蛹」が見えるとは、本作の作者の視力が、彼のサンコさん並みであることには吃驚仰天してしまいました。
○ 過労死の記事を見てより役所から子の帰宅せる時間を控ふ (三原市)岡田独甫
昨今の檀家衆はお寺さんの期待通りに葬式や法事などを行わなくなり、お寺さん側としてはお布施などの身入りが少なくなってしまったから、住職の跡取り息子が教員になったり市役所の吏員になったりする場合が多い、とか?
ところで、2009年3月30日付けの朝日新聞の朝刊に、当週の朝日歌壇の入選作の一つとして、「父さんは和尚のくせにと言いし子がわれと差もなき和尚となれる」という作品が掲載されていて、その作者は、掲出作品の作者と同一人物、即ち、三原市にお住まいの岡田独甫さんである。
本作の作者・岡田独甫さんは、三原市内のさる寺院の前住職とのことでありますが、彼のご子息は、御父上・岡田独甫大和尚の跡を襲って、件の寺院の住職を勤めながら、市役所の吏員としてのお勤めもなさって居られるのでありましょうか?
それにしても、世知辛い世の中になってものではありませんか!
[反歌] 酔つ払ひが階段から落ちて死んだと言ふ独甫和尚よご注意されたし
○ 草食のオオハクチョウが首伸ばし潜りて獲りし鮒を呑みこむ (埼玉県)島村久夫
「潜りて獲りし鮒を呑みこむ」と、「草食」動物のくせして、食欲旺盛かつ貪欲獰猛な「オオハクチョウ」の一挙手一動が具体的に表現されている作品である。
[反歌] 正確に言へば雑食と言ふべしオオハクチョウの大食ひ野郎