(tafots)
○ 真夜中にミルクレープを作るくらい困ってくれたから許そうか
インターネット辞書『ウィキペディア』の説明に拠ると、「ミルクレープは、ケーキの一種。クレープを何枚もつくり、間にカスタードクリームや果物を入れながら重ねたもの。日本発祥のケーキで『千枚のクレープ』という意味のフランス語 Mille crêpes が名前となっている。『ミルク』と『クレープ』の合成語ではない。」とか。
つい先日、私の連れ合いの翔子も、午前中の二時間を使ってそれらしいお菓子作りに余念が無かったのであるが、お昼過ぎになって出されたものを食べてみたら、バウムクーヘンの出来損ないにバナナを挟んだような妙な形と味わいであり、少しも美味しいと思わなかったのである。
本作の作者“tafots”さんに一言ご注意申し上げますが、「真夜中に」こんな面倒臭いお菓子を作って、貴女のお許しを乞おうとしている男性を、今までどうして許して上げなかったのですか?
彼が何を仕出かしたのかは存じ上げませんが、彼の今の気持ちは、貴女一辺倒と思われます。
したがって、これ以上焦らすのは止めて、昨晩からでも早速同衾するべきであったかと思われますよ。
それに、女性としての貴女の生理だって彼を必要としていると思われますから、困ってくれたから許そうか?」などと“疑問符”を付けている場合ではありません。
〔返〕 謎掛けのミルクレープか? クレープを重ねる如く重なりたいか? 鳥羽省三
(西巻真)
○ それは生きる困難さなのです右手からしづかにボールが落ちてゆきます
「右手からしづかにボールが落ちてゆきます」とありますが、それは何の呪いでありましょうか?
それとも、それは一種の平衡感覚テストとして行っているのでありましょうか?
だとすれば、作中の被験者は、既に平衡感覚の大部分を失っていて、自律神経失調症状態に置かれているかと思われます。
「それは」まさしく「生きる困難さ」を示しているのですから、長期的な入院加療を必要としてると思われます。
〔返〕 「頑張れ」と言ってはならぬ励まして言ったとしても彼には負担 鳥羽省三
(鮎美)
○ 二つずつを四つに合はせてしまへずに困惑のこのひざこぞうたち
教師をしていた頃に実際に目にした光景ですが、学級担任をしているクラスの生徒たちが体育実技の授業を受けているということで、授業の空き時間に、体育館に見学に行出掛けてみたところ、バレーボールのレシーブを出来ないとかで、要領の悪い女生徒二人が体育館の片隅に、向かい合わせに“体操お座り”をさせられておりました。
ところが、彼女ら二人は、怒りと屈辱感に震え、それぞれ自分の「ひざこぞう」と「ひざこぞう」とを合せようにも合わせることが出来ないし、また、お互いの二つの「ひざこぞう」が向い合わせの相手の二つの「ひざこぞう」と合わせることが出来ないで、がたがたと震えているんですね。
あんな恐ろしい光景には、初めて接しました。
普段は大人しく優しい二人の女生徒の形相のなんと険悪そうであったことよ。
体育の担当教師は、その年、筑波大学を卒業したばかりの至って真面目な新米教師でしたが、その後、彼は女生徒に体罰を加えたとかで戒告処分を受け、三年経たないうちに退職を余儀なくされたとか。
その後の彼が、某スポーツクラブの水泳インストラクターをしているという噂が何処かからか聞こえて来ました。
〔返〕 思い出す筆下しの夜 動悸がしあそこが縮み焦るばかりで 鳥羽省三
(オリーブ)
○ ソーダーの氷くるくるかきまぜて 困った顔をする嘘つき屋
「ソーダーの氷くるくるかきまぜて」「困った顔をする」とは、いかにも蛸にも「嘘つき屋」さんらしい仕草ですね。
彼は“生まれつきの人誑し”なんでしょうか?
例えば、NHKの連続大型時代劇『江』に出て来る“猿”のような?
〔返〕 「嘘吐きの私を許せ」と猿は言う お江もコロリ騙されちゃった 鳥羽省三
(南野耕平)
○ 困惑の表情浮かべる猫なんか見たことがない 猫になるのだ
「猫」は苦境に陥ることが無いと分かったから、「猫になるのだ」と言うのであろう。
〔返〕 困惑の表情いつも浮かべ居て哲学者みたいクロはいつでも 鳥羽省三
(猫丘ひこ乃)
○ 「困りごと110番」という襷かけてるような君の正義感
“猫丘ひこ乃”さんとは、カマトトみたいなお名前、竹久夢二の愛人みたいなお名前ですね。
作品はともかくとして、お名前だけで“可愛い”かも。
ところで、「『困りごと110番』という襷かけてるような君」ってな感じの男性は、確かにいらっしゃいますね。
実例を挙げて示せば、横浜市旭区○葉○団地にご在住の高松三四郎氏。
私の友人の一人である、彼こそはまさしく「『困りごと110番』という襷かけてるような君」と申せましょう。
つい先日、彼の奥方が私の家に遊びにいらっしゃいましたが、この奥方も亦、彼以上に「『困りごと110番』という襷かけてるような」女性なのです。
〔返〕 [困りごと110番]という看板を背負って暮す団地生活 鳥羽省三
今から十年前のこと、教員生活から足を洗って田舎暮らしを始めようとしていた私は、ある朝、彼から誘われて○葉○団地内の遊歩道を散歩したことがありました。
ところが、彼・三四郎氏は、すれ違う人毎に「おはようございます。ご主人様はお元気ですか?」「おはようございます。昨日、水信で買った筍は美味しく食べられましたか?」「おはようございます。この頃は、奥様のお通じのお具合はいかがでございましょうか?」などと、いちいち声を掛けて話し込むので、当日の私たちの散歩の足はなかなか捗りませんでした。
彼・三四郎氏からお声掛かりがあった人の中には、彼の懸命のご努力の甲斐も無く、返事もせずに、顔を背けてスタスタと逃げるようにして駆けて行く人も居りました。
どちらかと言うと、そうした無愛想な人は、女性よりも男性の方が多かったみたいでした。
彼の憎めないお人柄が、そうさせるのでありましょうか?
(紫苑)
(詞書) オールドノリタケのマルキ(コマル)印を詠む
○ 外つ国に伍する多難に勇みてし「困」印(こまるじるし)は海を渡りき
作中の「オールドノリタケ」とは、現在の“ノリタケカンパニーリミテド”の前身の“日本陶器”が明治期から戦前までに欧米に輸出した陶磁器のことであり、花瓶や置物などの装飾品と洋食器などのテーブルウェアが主体で、特に芸術的な絵付けや繊細な細工などで愛され、今ではヨーロッパ各国から逆輸入されたものが、国内の骨董商などを通じて販売され、日本人の収集家も大変多く、偽物商いなども横行している。
本作は、明治大正期の我が国の人々が、欧米の経済や軍事や文化などに負けまいとして、「多難」を苦ともせずに蛮勇を奮って活躍したものであるが、その象徴とも言える「オールドノリタケ」の陶磁器は、その商標としての「『困』印」を背中に背負い、外貨獲得のエースとして、盛んに海外に輸出されたものである、という内容の一首でありましょう。
紫苑さんの御作は、読解に短歌以外の文化的知識が必要であるから、限られた読者にしか愛読されない恐れがありましょうが、「題詠blog2011」を飾るスターの中の一つであることは間違いない事実である。
安直に詠み、安直に解釈される作品が多いのも「題詠blog2011」の特色の一つであるが、二百首に余る投稿作の中に、こうした読み応えのある作品が混じっているのも、「題詠blog2011」の優れた特色の一つと申せましょう。
紫苑さんのご努力とご奮闘を切望する。
〔返〕 日清と日露の戦ひその陰で外貨稼ぎしオールドノリタケ 鳥羽省三
(なゆら)
○ 困っとんやったらこの蛸焼きを食いにきい、おっちゃんいつでもここにおるでえ
庶民の街・大阪には、あんなこんなで人々から愛され、人々を愛した方々がぎょうさん居られたのでありましょう。
〔返〕 困っとんやったらこのおばちゃんとこにきい、おばちゃんいつでも抱かせてやるでえ 鳥羽省三
(津野)
○ 「困らせるつもりはないの」と言うくちが残り時間の砂を数える
「くち」とは、本来「砂」を噛むものであっても「砂を数える」もので無い。
したがって、「くちが残り時間の砂を数える」という表現は、なかなか面白い。
ところで、津野さんの彼女は、津野さんにどんな無理なことを言って、その挙句に「困らせるつもりはないの」と開き直ったのでありましょうか?
〔返〕 「百カラットのダイヤ買って来い。かと言って、困らせるつもりはないの」 鳥羽省三
(夏実麦太朗)
○ いそがしいふりをしようと思うなら困った顔で小走りをせよ
現在は、埼玉県桶川市にお住いの夏実麦太朗さんも、元を質せば関西人であるから、世俗的教訓は大の得意なのである。
この一首を、私・鳥羽省三は、人生の達人・夏実麦太朗さんがお示しになった、世渡りの教訓として拝受させていただきました。
〔返〕 暇なふりしたい時には新百合のブックオフに行き立ち読みしてる 鳥羽省三
(西中眞二郎)
○ 発端はボタンの掛け違いやも知れず政治も社会も貧困となる
元・通産官僚の呟きだけに、昨今は「政治も社会も貧困」となってしまったが、その「発端はボタンの掛け違いやも知れず」という、半ば投げ遣り的とも思われるご分析にも、一定の信頼が置かれましょうか?
だが、その「ボタンの掛け違い」をなさった方は何方でありましょうか?
本作の作者・西中眞二郎さんも「ボタンの掛け違い」をなさった方のお一人でありましょうか?
〔返〕 なかなかに厳しい追及かと思う 冗談冗談冗談ですよ 鳥羽省三
(成瀬悠太)
○ こんなにも綺麗な虹を見てるのに困ったように笑ってしまう
本作の作者・成瀬悠太さんは、「困った」時に「笑ってしまう」のでありましょうか?
もしかしたら、本作の意は、「『こんなにも綺麗な虹を見てるのに』、私は、ついうっかり『笑ってしまう』から困ってしまう。」というのではないでしょうか?
〔返〕 こんなにも綺麗な虹の歌を読みケチをつけたくなるから困る 鳥羽省三
(牛 隆佑)
○ 窓際の君の机に花びらを降らせて少し困らせてやろう
作中の「窓際」が、いわゆる「窓際」であったとしたならば、本作の作者・牛隆佑さんのなさった悪戯、即ち「少し困らせてやろう」として「窓際の君の机に花びらを降らせ」たのは、「窓際」族への早期退職督促策としては、極めて有効な悪戯であり、「少し困らせて」やった程度では治まらなかったはずである。
〔返〕 そのうちに隆佑さんも窓際で角を矯めて殺されるかも 鳥羽省三
(たえなかすず)
○ ひらひらのワンピの裾に発射してきみの困つた顔を見てゐる
彼女の「ひらひらのワンピの裾に発射」してしまう早漏男性が何処に居りましょうか?
そんなことをしたら、せっかくの「ひらひらのワンピの裾」がカチカチに糊付けされてしまうではありませんか。
Yシャツと間違えてはいけませんよ。
しかも、その挙句に「きみの困つた顔を見てゐる」とは、何という横着な早漏野郎でありましょうか。
そんな男とは、早々に別れなさい。
〔返〕 ひらひらのワンピの裾に発射され“たえなかすず”が“たえないすず”に 鳥羽省三
(きたぱらあさみ)
○ 君が泣いているというのにポケットに愛が入ってなくて困った
こうした場合の「ポケット」の中に「入って」いる「愛」とは、チョコレートでしょうか?
それとも衛生用品でしょうか?
〔返〕 大切にポケットの中に入れて置く愛とはなんだ君は何故泣く 鳥羽省三
(藤田美香)
○ 天秤はいくら待っても水平にならないんだね困ってる日に
「困ってる日」であろうと無かろうと、「天秤」が「水平」になる場合は、それなりの条件が満たされた時である。
即ち、片方の皿に載せられた錘と同じ重量の物質を載せた時に初めて、「天秤」は「水平」な状態を保つのである。
彼を「水平」たらしめる為には、いかなる政治権力の介入も要しませんし、また、彼を「水平」たらざらしめる為に屈強な男性暴力や妖艶なる女性の手管を用いても、その一切が無効でありましょう。
〔返〕 条件が満たされなければ天秤は水平にならぬ生き物である 鳥羽省三
○ 真夜中にミルクレープを作るくらい困ってくれたから許そうか
インターネット辞書『ウィキペディア』の説明に拠ると、「ミルクレープは、ケーキの一種。クレープを何枚もつくり、間にカスタードクリームや果物を入れながら重ねたもの。日本発祥のケーキで『千枚のクレープ』という意味のフランス語 Mille crêpes が名前となっている。『ミルク』と『クレープ』の合成語ではない。」とか。
つい先日、私の連れ合いの翔子も、午前中の二時間を使ってそれらしいお菓子作りに余念が無かったのであるが、お昼過ぎになって出されたものを食べてみたら、バウムクーヘンの出来損ないにバナナを挟んだような妙な形と味わいであり、少しも美味しいと思わなかったのである。
本作の作者“tafots”さんに一言ご注意申し上げますが、「真夜中に」こんな面倒臭いお菓子を作って、貴女のお許しを乞おうとしている男性を、今までどうして許して上げなかったのですか?
彼が何を仕出かしたのかは存じ上げませんが、彼の今の気持ちは、貴女一辺倒と思われます。
したがって、これ以上焦らすのは止めて、昨晩からでも早速同衾するべきであったかと思われますよ。
それに、女性としての貴女の生理だって彼を必要としていると思われますから、困ってくれたから許そうか?」などと“疑問符”を付けている場合ではありません。
〔返〕 謎掛けのミルクレープか? クレープを重ねる如く重なりたいか? 鳥羽省三
(西巻真)
○ それは生きる困難さなのです右手からしづかにボールが落ちてゆきます
「右手からしづかにボールが落ちてゆきます」とありますが、それは何の呪いでありましょうか?
それとも、それは一種の平衡感覚テストとして行っているのでありましょうか?
だとすれば、作中の被験者は、既に平衡感覚の大部分を失っていて、自律神経失調症状態に置かれているかと思われます。
「それは」まさしく「生きる困難さ」を示しているのですから、長期的な入院加療を必要としてると思われます。
〔返〕 「頑張れ」と言ってはならぬ励まして言ったとしても彼には負担 鳥羽省三
(鮎美)
○ 二つずつを四つに合はせてしまへずに困惑のこのひざこぞうたち
教師をしていた頃に実際に目にした光景ですが、学級担任をしているクラスの生徒たちが体育実技の授業を受けているということで、授業の空き時間に、体育館に見学に行出掛けてみたところ、バレーボールのレシーブを出来ないとかで、要領の悪い女生徒二人が体育館の片隅に、向かい合わせに“体操お座り”をさせられておりました。
ところが、彼女ら二人は、怒りと屈辱感に震え、それぞれ自分の「ひざこぞう」と「ひざこぞう」とを合せようにも合わせることが出来ないし、また、お互いの二つの「ひざこぞう」が向い合わせの相手の二つの「ひざこぞう」と合わせることが出来ないで、がたがたと震えているんですね。
あんな恐ろしい光景には、初めて接しました。
普段は大人しく優しい二人の女生徒の形相のなんと険悪そうであったことよ。
体育の担当教師は、その年、筑波大学を卒業したばかりの至って真面目な新米教師でしたが、その後、彼は女生徒に体罰を加えたとかで戒告処分を受け、三年経たないうちに退職を余儀なくされたとか。
その後の彼が、某スポーツクラブの水泳インストラクターをしているという噂が何処かからか聞こえて来ました。
〔返〕 思い出す筆下しの夜 動悸がしあそこが縮み焦るばかりで 鳥羽省三
(オリーブ)
○ ソーダーの氷くるくるかきまぜて 困った顔をする嘘つき屋
「ソーダーの氷くるくるかきまぜて」「困った顔をする」とは、いかにも蛸にも「嘘つき屋」さんらしい仕草ですね。
彼は“生まれつきの人誑し”なんでしょうか?
例えば、NHKの連続大型時代劇『江』に出て来る“猿”のような?
〔返〕 「嘘吐きの私を許せ」と猿は言う お江もコロリ騙されちゃった 鳥羽省三
(南野耕平)
○ 困惑の表情浮かべる猫なんか見たことがない 猫になるのだ
「猫」は苦境に陥ることが無いと分かったから、「猫になるのだ」と言うのであろう。
〔返〕 困惑の表情いつも浮かべ居て哲学者みたいクロはいつでも 鳥羽省三
(猫丘ひこ乃)
○ 「困りごと110番」という襷かけてるような君の正義感
“猫丘ひこ乃”さんとは、カマトトみたいなお名前、竹久夢二の愛人みたいなお名前ですね。
作品はともかくとして、お名前だけで“可愛い”かも。
ところで、「『困りごと110番』という襷かけてるような君」ってな感じの男性は、確かにいらっしゃいますね。
実例を挙げて示せば、横浜市旭区○葉○団地にご在住の高松三四郎氏。
私の友人の一人である、彼こそはまさしく「『困りごと110番』という襷かけてるような君」と申せましょう。
つい先日、彼の奥方が私の家に遊びにいらっしゃいましたが、この奥方も亦、彼以上に「『困りごと110番』という襷かけてるような」女性なのです。
〔返〕 [困りごと110番]という看板を背負って暮す団地生活 鳥羽省三
今から十年前のこと、教員生活から足を洗って田舎暮らしを始めようとしていた私は、ある朝、彼から誘われて○葉○団地内の遊歩道を散歩したことがありました。
ところが、彼・三四郎氏は、すれ違う人毎に「おはようございます。ご主人様はお元気ですか?」「おはようございます。昨日、水信で買った筍は美味しく食べられましたか?」「おはようございます。この頃は、奥様のお通じのお具合はいかがでございましょうか?」などと、いちいち声を掛けて話し込むので、当日の私たちの散歩の足はなかなか捗りませんでした。
彼・三四郎氏からお声掛かりがあった人の中には、彼の懸命のご努力の甲斐も無く、返事もせずに、顔を背けてスタスタと逃げるようにして駆けて行く人も居りました。
どちらかと言うと、そうした無愛想な人は、女性よりも男性の方が多かったみたいでした。
彼の憎めないお人柄が、そうさせるのでありましょうか?
(紫苑)
(詞書) オールドノリタケのマルキ(コマル)印を詠む
○ 外つ国に伍する多難に勇みてし「困」印(こまるじるし)は海を渡りき
作中の「オールドノリタケ」とは、現在の“ノリタケカンパニーリミテド”の前身の“日本陶器”が明治期から戦前までに欧米に輸出した陶磁器のことであり、花瓶や置物などの装飾品と洋食器などのテーブルウェアが主体で、特に芸術的な絵付けや繊細な細工などで愛され、今ではヨーロッパ各国から逆輸入されたものが、国内の骨董商などを通じて販売され、日本人の収集家も大変多く、偽物商いなども横行している。
本作は、明治大正期の我が国の人々が、欧米の経済や軍事や文化などに負けまいとして、「多難」を苦ともせずに蛮勇を奮って活躍したものであるが、その象徴とも言える「オールドノリタケ」の陶磁器は、その商標としての「『困』印」を背中に背負い、外貨獲得のエースとして、盛んに海外に輸出されたものである、という内容の一首でありましょう。
紫苑さんの御作は、読解に短歌以外の文化的知識が必要であるから、限られた読者にしか愛読されない恐れがありましょうが、「題詠blog2011」を飾るスターの中の一つであることは間違いない事実である。
安直に詠み、安直に解釈される作品が多いのも「題詠blog2011」の特色の一つであるが、二百首に余る投稿作の中に、こうした読み応えのある作品が混じっているのも、「題詠blog2011」の優れた特色の一つと申せましょう。
紫苑さんのご努力とご奮闘を切望する。
〔返〕 日清と日露の戦ひその陰で外貨稼ぎしオールドノリタケ 鳥羽省三
(なゆら)
○ 困っとんやったらこの蛸焼きを食いにきい、おっちゃんいつでもここにおるでえ
庶民の街・大阪には、あんなこんなで人々から愛され、人々を愛した方々がぎょうさん居られたのでありましょう。
〔返〕 困っとんやったらこのおばちゃんとこにきい、おばちゃんいつでも抱かせてやるでえ 鳥羽省三
(津野)
○ 「困らせるつもりはないの」と言うくちが残り時間の砂を数える
「くち」とは、本来「砂」を噛むものであっても「砂を数える」もので無い。
したがって、「くちが残り時間の砂を数える」という表現は、なかなか面白い。
ところで、津野さんの彼女は、津野さんにどんな無理なことを言って、その挙句に「困らせるつもりはないの」と開き直ったのでありましょうか?
〔返〕 「百カラットのダイヤ買って来い。かと言って、困らせるつもりはないの」 鳥羽省三
(夏実麦太朗)
○ いそがしいふりをしようと思うなら困った顔で小走りをせよ
現在は、埼玉県桶川市にお住いの夏実麦太朗さんも、元を質せば関西人であるから、世俗的教訓は大の得意なのである。
この一首を、私・鳥羽省三は、人生の達人・夏実麦太朗さんがお示しになった、世渡りの教訓として拝受させていただきました。
〔返〕 暇なふりしたい時には新百合のブックオフに行き立ち読みしてる 鳥羽省三
(西中眞二郎)
○ 発端はボタンの掛け違いやも知れず政治も社会も貧困となる
元・通産官僚の呟きだけに、昨今は「政治も社会も貧困」となってしまったが、その「発端はボタンの掛け違いやも知れず」という、半ば投げ遣り的とも思われるご分析にも、一定の信頼が置かれましょうか?
だが、その「ボタンの掛け違い」をなさった方は何方でありましょうか?
本作の作者・西中眞二郎さんも「ボタンの掛け違い」をなさった方のお一人でありましょうか?
〔返〕 なかなかに厳しい追及かと思う 冗談冗談冗談ですよ 鳥羽省三
(成瀬悠太)
○ こんなにも綺麗な虹を見てるのに困ったように笑ってしまう
本作の作者・成瀬悠太さんは、「困った」時に「笑ってしまう」のでありましょうか?
もしかしたら、本作の意は、「『こんなにも綺麗な虹を見てるのに』、私は、ついうっかり『笑ってしまう』から困ってしまう。」というのではないでしょうか?
〔返〕 こんなにも綺麗な虹の歌を読みケチをつけたくなるから困る 鳥羽省三
(牛 隆佑)
○ 窓際の君の机に花びらを降らせて少し困らせてやろう
作中の「窓際」が、いわゆる「窓際」であったとしたならば、本作の作者・牛隆佑さんのなさった悪戯、即ち「少し困らせてやろう」として「窓際の君の机に花びらを降らせ」たのは、「窓際」族への早期退職督促策としては、極めて有効な悪戯であり、「少し困らせて」やった程度では治まらなかったはずである。
〔返〕 そのうちに隆佑さんも窓際で角を矯めて殺されるかも 鳥羽省三
(たえなかすず)
○ ひらひらのワンピの裾に発射してきみの困つた顔を見てゐる
彼女の「ひらひらのワンピの裾に発射」してしまう早漏男性が何処に居りましょうか?
そんなことをしたら、せっかくの「ひらひらのワンピの裾」がカチカチに糊付けされてしまうではありませんか。
Yシャツと間違えてはいけませんよ。
しかも、その挙句に「きみの困つた顔を見てゐる」とは、何という横着な早漏野郎でありましょうか。
そんな男とは、早々に別れなさい。
〔返〕 ひらひらのワンピの裾に発射され“たえなかすず”が“たえないすず”に 鳥羽省三
(きたぱらあさみ)
○ 君が泣いているというのにポケットに愛が入ってなくて困った
こうした場合の「ポケット」の中に「入って」いる「愛」とは、チョコレートでしょうか?
それとも衛生用品でしょうか?
〔返〕 大切にポケットの中に入れて置く愛とはなんだ君は何故泣く 鳥羽省三
(藤田美香)
○ 天秤はいくら待っても水平にならないんだね困ってる日に
「困ってる日」であろうと無かろうと、「天秤」が「水平」になる場合は、それなりの条件が満たされた時である。
即ち、片方の皿に載せられた錘と同じ重量の物質を載せた時に初めて、「天秤」は「水平」な状態を保つのである。
彼を「水平」たらしめる為には、いかなる政治権力の介入も要しませんし、また、彼を「水平」たらざらしめる為に屈強な男性暴力や妖艶なる女性の手管を用いても、その一切が無効でありましょう。
〔返〕 条件が満たされなければ天秤は水平にならぬ生き物である 鳥羽省三