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私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「殯の森」

2007-08-05 20:15:41 | 映画(ま行)


2007年度作品。日本=フランス映画。
自分の不注意から息子を失くして失意の中にいた真千子は、新任介護福祉士として奈良の山あいにある老人ホームで働き始める。そこには33年前に妻を亡くした認知症の老人しげきがいた。いくつかの事件の後、やがて二人の心は通い始める。
第60回カンヌ国際映画祭グランプリ受賞作。
監督は「萌の朱雀」の河瀬直美。
出演はうだしげき、尾野真千子 ら。


この映画に出てくる主人公二人は、死んでしまった者に心が捕らわれてしまっている。
たとえばやや痴呆の気がある老人は妻をむかしに亡くしており、その喪失感をいまだに埋められないでいる。そしてもう一方の介護をする女性の方は自分の不注意から息子を失っており、そのことを引きずったままだ。
その二人の仲は茶畑でかくれんぼをしたりすることからして、そんなに悪いものではないのだろう(ところでこの茶畑の映像がすばらしく美しい)。
だが、たとえば老人は自分の孤独の象徴でもあるリュックを、女にさわらせないなど、あくまで自分の世界に閉じこもっているという感じが見られる。そのため老人は「死者>生者」という世界に生きているという印象を僕は受けた。

しかしその二人の関係性も森をさ迷い歩くことによって変化していく。その過程の描き方が個人的には好きだ。
特に鉄砲水のシーン(多分、女の心象イメージ)は感動的ですらある。恐らく女性は水の事故で息子を失くしたのだろう。その悔恨による泣き叫びを見て、老人が立ち止まり抱きしめる姿が心に強く響く。
また、二人が裸で抱き合うシーンもすばらしい。冒頭近くに出てきた僧侶の言葉にあった、生の実感を、死者に捕らわれてしまった者たちが必死になって取り戻そうとしている。少しエロい想像もしてしまったが、二人の気持ちは純粋で真摯なだけに、美しかったと僕は思う。
それに、その後で女性がリュックを背負うシーンも僕は好きである。ここに至って、ようやく老人の頑なさがほぐれているのが伝わってくるすばらしいシーンだ。地味な部分ではあるが、丁寧に積み重ねられていただけに好印象だった。

だがラスト付近が少しわかりにくかったのが少し残念である。
単純に、老人のセリフがほとんど聞き取れなかったというのもあるが、あそこで何を老人はつかみとったのか、ついでに言うと、なぜ女が泣くのかが僕には理解できなかった。そのため、突然宙ぶらりんになった気分がして、すさまじく気分が悪い。
もう少し描き方なり、セリフの発し方なりに工夫を見せてほしかったと思う。

そういうわけで、ラストのために、少し評価は下がってしまったが、そのいかにも文学なテーマ性や、美しい映像は好きな部類に入る。
一般受けしそうにない分、人に勧める事はできないが、個人的にひっそりと愛でたくなるような佳品である。

評価:★★★★(満点は★★★★★)

「街のあかり」

2007-07-30 21:19:13 | 映画(ま行)


2006年度作品。フィンランド映画。
友人も恋人も家族もいない、一人ぼっちの男がヘルシンキの街の片隅に住んでいた。孤独な彼にある日、一人の女性が声をかけてくる。女の存在に男は舞い上がり、デートに誘うが、女には別の目的があった。
監督は「過去のない男」のアキ・カウリスマキ。
出演はヤンネ・フーティアイネン。マリア・ヤルヴェンヘルミ ら。


この作品の主人公は孤独な、いわゆる負け組に属する男だ。実際、彼には家族も友達も恋人もなく、警備会社という地味な職場に甘んじている。
だが、彼は自分が負け組だと認めたくないように、僕には見えた。
たとえば彼は一発逆転を狙い、慎ましやかだが起業の夢を語っている。だがその夢の話には嘘も混じっていて、現実に行動したら、壁にぶつかるのは目に見えており、あくまで幻想を追い求めているという域を出ない。
それに彼を好いてくれる(恐らく負け犬の)女性もいるのだが、多分同属相憐れむという境遇が嫌だからか決してなびこうとはしない。

そして致命的なのは男が自分を裏切った女をあくまでかばっているという点だ。それは男が女を愛しているから、とも見えなくもない。だが僕はそれを見たとき、ああ、この人は裏切られたという事実すらも受け入れたくないのだ、と感じられてならなかった。
非常に個人的なことだが、そんな主人公の境遇は自分自身を見ているようで、正直きつかった。

そういう性格ゆえか、結果的に男はどんどんと敗者の側に向けて転がり落ちていく。
ラストの刃物沙汰などは見ていてむちゃくちゃ切なくなった。ああ、彼には復讐することすら許されないのか、と見ているこちら側まで、主人公と同じように呆然とならざるをえない。
しかしそんな一見救いのないように見えるラストでありながら、決して暗い印象を与えないのは、やはりソーセージ屋の女の存在があるだろう。そして何よりも男が、自分に好意を寄せるその女の手を握ったことに大事な意味があると思う。
僕はこのときようやく男が自分が負け組であることを認めたのではないか、という風に感じた。それは必ずしも、明確な救いとは言いがたいが、どこか優しいものが感じられる。
地味で淡々としているが、そのラストのおかげで、映画に美しい余韻が流れていた。

評価:★★★★(満点は★★★★★)

「魔笛」

2007-07-22 20:19:07 | 映画(ま行)


2006年度作品。イギリス映画。
モーツァルトの代表作を、第一次大戦前夜に舞台を移し映画化。
戦場で傷付いた兵士タミーノは夜の女王に仕える三人の侍女に命を救われる。夜の女王から、ザラストロにさらわれた娘のパミーナを助け出してほしい、と頼まれたタミーノはザラストロの神殿に忍び込む。そこで待ち受けるのは数々の試練だった。
監督は「ヘンリー五世」のケネス・ブラナー。
出演は若手テノール歌手のジョセフ・カイザー。エイミー・カーソン ら。


有名オペラの映画化である。
僕はオペラを見たことはなく、「魔笛」についても、まともに聴いたことがあるのは、「夜の女王のアリア」と序曲くらいでしかない。そのためストーリーはまったく知らなかったのだが、僕が思っていた以上に、古典的な構造の話であった。しかもプロットにはつっこみどころも多い。いちいちは上げないが、矛盾する面は多々ある。
映画の良し悪しを決定するのはプロットだ、と僕は思っている。そういうわけで、本作を映画として評価するなら、落第点レベルの作品だ。

だがそういったストーリー上の細かい部分をつっこむのも野暮なのかもしれない。
この作品はモーツァルトの音楽を2時間強楽しむ。それがメインであり、それだけのためにあるような作品だからだ。

実際、本編の2時間強の間、その美しい音楽世界に浸ることができた。
二つ目の「夜の女王のアリア」もあのような場面で歌われるものだったのか、と知ることもできたし、パパゲーノとパパゲーナの二重唱がこの「魔笛」の曲だということも初めて知った。それに村上春樹の小説にも登場する鳥刺し男の歌を聴けたことも個人的には楽しい体験であった。
この作品を通して、より「魔笛」の中の音楽が身近になったような気がする。

確かに本作のストーリーは気に入らない。しかしストーリーではなく、クラシックを2時間楽しむ。そういう観点から見るなら、充分すぎるくらいに及第点の作品である。

評価:★★★(満点は★★★★★)

「マリー・アントワネット」

2007-01-22 21:12:22 | 映画(ま行)


2006年度作品。アメリカ映画。
14歳でオーストリアから単身フランス王家に嫁いだマリー・アントワネット。彼女の孤独を埋めるには夫のルイは頼りなく、信頼できる相手もいない。後に断頭台に消えた王妃の姿を描く。
監督は「ロスト・イン・トランスレーション」のソフィア・コッポラ。
出演は「チアーズ!」「スパイダーマン」のキルスティン・ダンスト。「ハッカビーズ」のジェイソン・シュワルツマン ら。


構図的には監督の前作、「ロスト・イン・トランスレーション」に通じる映画だろう。
主人公のマリー・アントワネットはオーストリアからフランスに嫁ぎ、異国での生活、貴族社会の陰口、夫とのギクシャクした関係に悩んでいる。異国で孤独を感じる姿。まさにその姿は前作のスカーレット・ヨハンソンが演じた姿と同じだ。
その孤独の描写は丁寧で、ギャンブルやパーティ漬けの生活や、田舎風の暮らしに癒しを見出す姿なども含めて、彼女の孤独感が伝わってきたのが印象深い。

加えてベルサイユ宮殿で撮影しただけあり、映像がとにかく華やかである。女性監督らしい美しい映像が多く、印象に残るものがあった。
この映画には光るものは確実にある。

しかし監督がそのような情景や風景を描きたいのならば、なにも「マリー・アントワネット」という素材にこだわる必要はなかったのではって気がする。
言い切ってしまうのもなんだが、監督は異国で疎外感を感じながら生きた王女に興味があるだけでしかない。つまり、マリー・アントワネットのすべてに興味があるわけでなく、マリー・アントワネットの人生の一側面のみに興味があるだけなのだ。実際、革命後のマリー・アントワネットに割く時間は少ない。
それならば、マリー・アントワネットでなくても、架空の王女でもいいはずではないだろうか。「マリー・アントワネット」というタイトルでは、革命時の彼女も含めて、見てみたくなる。
やや辛らつな言い方をするなら、客を呼ぶための素材としてマリー・アントワネットを利用しただけにすぎない、と思った。

フランスを舞台にして、英語を使わせる作品に言うのもなんだけど、もう少し、ソフィア・コッポラは素材に真正面から向き合うべきではなかったのではないか。
堅苦しい感想だが、そんなことを思った。

評価:★★★(満点は★★★★★)

「麦の穂をゆらす風」

2007-01-09 19:17:21 | 映画(ま行)


2006年度作品。アイルランド=イギリス=ドイツ=イタリア=スペイン映画。
1920年アイルランド、そこでは隣国イギリスによる支配が行なわれていた。医師になる将来を捨てデミアンは兄と共に独立を求める戦いに身を投じるが…
2006年カンヌ映画祭パルムドール受賞。
監督は「SWEET SIXTEEN」のケン・ローチ。
出演は「プルートで朝食を」のキリアン・マーフィ。ボードリック・ディレーニー ら。


人間というものは愚かしいものだ。いやあるいは不器用と言うべきなのか。この映画を見ているとそんなことを思う。

この映画で描かれるのはイギリスからの独立を狙うアイルランドの姿だ。
イギリスのアイルランドに対する支配は一言で言えば、苛酷である。それだけにその支配に耐えかねて、戦いをくりひろげる人々の気持ちは痛いほどに伝わってくるし、共感も覚える。

しかしそんなアイルランドの人間も、独立を目指して共闘しながら、決して一枚岩ではない。人間が集まっているのだから、当然といえば当然だが、互いの理想や理念や思惑により衝突することもある。
そして悲しいのは、それに対して、統制を求めるあまりに、内部で処刑や弾圧を行なわれるという点だ。その姿はあまりに見ていて苦しい。

アイルランドの人間は、支配されるという悲惨さ、苦しさを味わい、だれよりもそのことを知っているはずだ。なのに、なぜ同じ国の人間を以前自分たちが苦しめられた方法をつかって押さえつけようとするのだろうか?

もちろん、押さえつける方も、押さえつけられる方も、互いがそんなことをしたくないことを知っている。しかし純粋で、手応えのある結果を求めるあまりに、考えは硬直し、性急に行動を起こし、愛する人間を傷つけることになってしまう。
その矛盾に満ちた悲劇と、現実の悲惨さと、人間というものの悲しさが胸に深く突き刺さった。
すばらしい、の一語に尽きる作品である。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)

「マッチポイント」

2006-09-24 22:44:13 | 映画(ま行)
2005年度作品。イギリス映画。
富豪の娘と結婚し、イギリス上流社会の仲間入りを果たした元テニスプレイヤー、クリス。しかしアメリカ出身の女優の卵と出会い彼女との関係にのめりこんでいく。
監督は「アニーホール」などのウディ・アレン。
出演は「ベルベット・ゴールドマイン」、「M:i:III」のジョナサン・リース・メイヤーズ。「ロスト・イン・トランスレーション」などのスカーレット・ヨハンソン。


内容自体はオーソドックスである。
結婚によって地位と名誉をつかみかけている男が、浮気相手にのめりこんでいくことで人生の危機に直面していく。浮気を扱った恋愛映画によく見られるパターンだ。そのため物語自体は途中まで概ね予想の範囲内で進んでいく。

そうなると普通、映画そのものが退屈になっていくものなのだが、本作ではまったく物語から興味がそがれることがなかった。それは単純に見せ方が上手いからだと思う。
物語の構造はオーソドックスなものの、プロットの中にきちんと緊張感を張り巡らせている点が秀逸だ。しかもそれをピーンと張りつめたかと思うと、所々で緩めたりと、とにかく緩急の付け方はすさまじく上手い。退屈と感じる余裕など微塵もなかった。
しかもその緩急織り交ぜた緊張感を、最後まで持続しているからすばらしい。その手腕は鮮やかと言うほかない。

さて本作のメインはなんと言ってもラストである。
この物語はオーソドックスにもっていきながら、ラストで見事安直な展開に落ち着くことを拒否している。そしてそのラストは冒頭のテニスシーンにおける独白、作中で何度となく言及される運という点、「罪と罰」という観点に収束していく。
そのテーマ性のとらえ方とフォーカスの仕方はただただ上手い。さすがベテラン監督である。

しかしこれを見て、人生に落ちている運というものについて複雑な感慨を抱いた。運というか偶然というものは本当に人生を左右する。そう考えると若干というかかなり恐ろしいものを感じた。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)

「マイアミ・バイス」

2006-09-11 21:02:36 | 映画(ま行)
2006年度作品。アメリカ映画。
80年代に放映された同名の人気テレビシリーズを映画化。マイアミ警察の刑事二人が巨大な麻薬密輸組織に潜入捜査を行なう。
監督は「ヒート」「コラテラル」などのマイケル・マン。
出演は「アレキサンダー」「ニュー・ワールド」のコリン・ファレル。「Ray」「ジャーヘッド」のジェイミー・フォックス ら。


個人的な印象を端的に語るなら、退屈な映画と言ったところである。

麻薬の潜入捜査という道具立て自体は悪くないし、エピソードのイベントも考えられている。そういう点を見る限り、おもしろくなる要素は充分にあるはずだ。
しかしなぜだろう。そのプロットに僕はまったく心が動かされなかった。自分でもなぜなのか理由がわからない。

つまらない理由について、僕なりにいろいろ考えてみた。プロットの進め方を含めた映画全体のテンポだろうか、とか、映画自体にただようメロウなテンションのせいだろうか、とか、それとも不必要に多い絡みのシーンのためだろうか、とか、それとも安っぽい恋愛シーンにうんざりしたせいだろうか、とか。
だがどれも理由としては不十分な気がする。自分でも理由がわからないのがもどかしい。ただとにかくつまらない。そうとしか言えない映画である。あるいはそれで充分過ぎると言えば、充分なのかもしれないけれど。

しかしラストの銃撃シーンだけは迫力に富んでいて見応え充分であった。他はともかくもこの銃撃シーンは見るに値するであろう。

評価:★★(満点は★★★★★)

「間宮兄弟」

2006-07-03 23:07:05 | 映画(ま行)
2006年度作品。日本映画。
江國香織の原作を映画化。30代の今も同居を続ける仲のいい間宮兄弟のささやかな日常を描く。
監督は「家族ゲーム」「阿修羅のごとく」の森田芳光。
出演は映画、ドラマと活躍中の佐々木蔵之介。お笑いコンビ、ドランクドラゴンの塚地武雅 ら。


現実にいるとは思えないほど、絆の強い兄弟である。その仲の良さはほほえましいくらいだ。
この兄弟が実にいい味を出している。二人は基本的にいい人で、どこかのんびりしている。そして二人が人生を楽しそうに生きているのが伝わってきて、見ているこっちまで心が和んでくるようだった。

ストーリーとしては一本筋の通ったものがあるわけでなく、毎日起こるこまごまとしたエピソードが積み重ねられていくという感じである。そのため、強く心に訴えるものはない。しかし二人のキャラクターや、ところどころに盛り込まれる笑いのエピソードが実に心地よくて、安心して見ることができる。
こういったのんびりした作品もたまには良いものだ。

評価:★★★★(満点は★★★★★)

「メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬」

2006-06-15 19:27:12 | 映画(ま行)
2005年度作品。アメリカ=フランス映画。
突然銃弾に斃れた友人を故郷に連れて行くために、彼を殺した国境警備員を拉致し、老カウボーイはメキシコを目指す。2005年カンヌ国際映画祭で最優秀男優賞と最優秀脚本賞を受賞。
監督はこれが初監督作となる名優トミー・リー・ジョーンズ。主演もつとめる。


今一つ、心に響かない映画だ。はっきり言ってどう捉えていいかわからない。
結論を言ってしまうと、僕はこういうロードムービー風の映画は好みでないようだ。わかっていたことではあったけれど。

とりあえずトミー・リー・ジョーンズ演じる主人公がカッコいいのは確かだ。渋くて、アウトローの雰囲気を漂わせている雰囲気がたまらない。そして一つの約束を果たすために猪突する様はすさまじいものがある。
だけど、同時に主人公はどうしようもない孤独の中にいるように思う。好きな女にはふられるし、周りから理解されているとも思えない。

だが孤独なのは国境警備員も同じだろう。彼だって妻から愛されているとは言えず、見事なくらいにすれ違っている。
そして当然、死者であるメルキアデスも、二人と同じく孤独な存在である。

でもメルキアデスはまだ幸福な方かもしれない。少なくとも彼には、死体となった自分を故郷まで運んでくれる友人がいる。
そう考えると、これは愛には裏切られるが、友情にだけは裏切られない男の話と言えるかもしれない、と思った。だから何だという気もするけれど。
なにはともあれ、僕としては興味を引き寄せられない作品であった。

評価:★★(満点は★★★★★)

「マンダレイ」

2006-05-27 00:03:16 | 映画(ま行)
2005年度作品。デンマーク=スウェーデン=オランダ=フランス=ドイツ=アメリカ映画。
「ドッグヴィル」の続編で、アメリカをテーマにした三部作の第二弾。ドッグヴィルを焼き払ったグレースが、今度は奴隷制度が残る大農園で、自由をもたらそうと試みる。
監督は「ダンサー・イン・ザ・ダーク」のラース・フォン・トリアー。
出演は「ヴィレッジ」のブライス・ダラス・ハワード。ダニー・グローヴァー ら。


「ドッグヴィル」は個人的に好きな作品だったので期待していたのだけど、残念ながら、前作には到底及ばない作品であった。

理由はいくつかあるだろうけれど、一つは長すぎる点だろう、と思う。もっとも前作よりは全然短くはあるけれど、それでも充分長い。基本的に2時間で収まる内容で、特に前半は単調で退屈にすら感じられた。

テーマ性は、若干前面に出すぎていて、鼻につくけれど、悪くはない。もう少しスマートに描くこともできただろうけれど、これはこれでありだろう。
特に人間の矛盾や若者の未熟も突いている点が面白いと思った。
理想主義に突っ走ったために、自分自身に返って来る傲慢の姿や、自分の都合を押し付ける勘違いや、肉欲、という姿の中には、若さが抱え持っている、いたらなさというやつを感じとることができる。
ラストの鞭のシーンは個人的には好きである。その中には、子供じみたわがままと、未熟と、そういう手段しか取れない青さがよく出ていた、と思う。
 
主演のブライス・ダラス・ハワードは熱演をしていた。前作のニコールと比べると存在感は地味だけど、それでも熱演であったことは疑いはない。
「ヴィレッジ」の時も光る物があっただけに、個人的にこの女優には注目したい。

評価:★★★★(満点は★★★★★)

「ミュンヘン」

2006-02-06 22:06:36 | 映画(ま行)


1972年ミュンヘンオリンピック開催中に起きたイスラエル選手団襲撃事件。これに対し、イスラエル機密情報機関モサドは暗殺チームを編成し、報復を企てる。実在の事件を元に映画化。
監督は巨匠スティーヴン・スピルバーグ。
出演は「トロイ」のエリック・バナら。


長い映画である。しかし長いにも関わらず、退屈さを感じることなく、集中力も切れることは無かった。そこら辺はスピルバーグの構成の上手さだろう。
もちろん構成だけの問題ではなく、映画そのものの魅力もそう感じた最たる要因だ。とりあえずかなり見応えのある映画だ。

本作は実際に起きた事件を元にしている。
暗殺を担当したのは、子供の出産を控えた普通の男だ。よく映画で見られるようなヒロイックな感じは無い。とはいえ、最初の方は暗殺をいかに成功させるか、民間人を巻き込まないかということを主眼に置いたある種、サスペンスチックな感じもする。そういう点はヒロイックな話といえるかもしれない。

しかし後半。狙っていた側は狙われる側になり、殲滅戦の様相を呈すにつれ、物事は一変してしまう。血で血を洗う闘争に対しての疑問が明確に浮上し、そこで悩む主人公はやはり普通の一般的な男でしかない。
アヴナーはラストで家族との暮らしに戻っていく。だが、彼はもう以前のような暮らしに戻ることは出来ないのだろう。殺し殺されという連鎖の中に落ち込んだ彼は、決定的に何かが損なわれてしまった。
これはイデオロギー云々も含め、一人の人間の物語として見ても、極めて悲劇的な映画だと思う。

パレスチナの問題に関して、僕はそんなに詳しいわけではないのだけど、ある程度のことは知っている。言い分としてはかなり前から主張されていることで、基本的に両者の言い分は分からなくも無い面はある。
だがもちろん両方が歩み寄らなければ物事の解決はならないのだろう。この映画でも似たような感じのことを伝えていたように思う。
だが当たり前だが、そんなことができているのなら、とっくの昔にこの問題は解決されている。だからこそ、ことは厄介なのだ。
しかし当たり前のことを当たり前のことだ、と主張し続けなければ、いけないのだろう。そういう観点からこの映画の存在価値はきわめて高いと感じる。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)

「真夜中のピアニスト」

2006-01-10 22:02:24 | 映画(ま行)
78年のフィルム・ノワール「マッド・フィンガーズ」のリメイク。本作で2005年度ベルリン国際映画祭最優秀音楽賞も受賞。監督は「リード・マイ・リップス」のジャック・オディアール。出演はロマン・デュリスら。


個人的には好きな映画だ。極めて感想に困るような映画ではあるけれど。

主人公は裏の世界に生きているわけだが、彼の心が揺れる様が丁寧に描かれている。特にピアノというものに対して夢を抱いている姿が個人的には共感を覚える。裏の暴力的な世界に生きていかざるをえないのに、その仕事に影響が出るほど、ピアノのことから心が離れられない。彼の苦悩の姿が見ていて胸に迫るものがあった。

ラストは彼の現在の心情を端的に示しているのではないだろうか。どのような世界に住もうと、彼は結局ピアノだけは切り捨てられないのだ。彼の心情に僕は心から応援したくなった。
タイトルは極めて安っぽく、センスとしては二流だ。しかし、裏の世界に生きても、ピアノだけは捨てられない、というテーマ性からすると、確かに確信を突いたタイトルといえるのかもしれない。

また、本編中に流れる音楽も心地良かった。音楽の美しい映画を見ると、心穏やかになれるから好きだ。

評価:★★★★(満点は★★★★★)

「Mr.&Mrs.スミス」

2005-12-05 21:25:18 | 映画(ま行)


娯楽作品である。細かいことは抜き、単純に楽しんだ者の勝ちだ、っていうタイプの映画だ。

本作にはいくつかおもしろい部分がある。
ひとつは前半の方で互いのパートナーが殺し屋だとわかるあたり。そのときの駆け引きが見ていて素直に面白いと思える。そこには独特の緊張感があって、その空気が微妙に笑える。他の場面にもこれと似たようなややブラックな感じの笑いがあってにやっとさせられるのが個人的にはツボだ。

もちろん、メインのアクションもメリハリがあって楽しめる。ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーというハリウッドの中でも極めて派手な二人が演じているから余計場面が映えるというものだ。
だが印象に残るようなアクションシーンがあるかと聞かれれば、そうではなく、アクション単品で見るなら、どちらと言うとオーソドックスな仕上がりだ。それでも楽しむ分だったら、これで充分及第点なのは言うまでもない。

ストーリー自体はわかりきったもので物足りなさはあるけれど、単純な娯楽作品と観ればこんなものかな、という気もする。
結論としては、時間潰しには充分持ってこいの作品といったところだろう。

評価:★★★★(満点は★★★★★)