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絶対に比較できない美しさ──丸山応挙

2016-07-22 18:09:07 | 知恵の情報
 

四条派の画祖丸山応挙のところへ、ある富豪の隠居が訪ねて来て絵を依頼した。
それは子孫へつたえる家宝の名画にしたいので、世の中で一番美しいと見られる
構図や色彩にしてくれ、というのである。

応挙は熟考の上引き受けることにし、老人の急ぐまま絵の完成を、三ヶ月と期限を
決めた。その約束の三ヶ月が来たので老人は絵ができているものと思って応挙を
訪ねると、絵はまだ主題も構図も決まっていなかった。なお三ヶ月の猶予が求め
られた。しかし次の三ヶ月が来ても絵は出来ず、さらに三ヶ月延期されたが絵はでき
ない。老人はついに怒りだした。

「私は本年七十八歳になります。もはや余命いくばくもないのに、生きている内に
絵が見られないようでは困る」と強硬な申し入れをした。応挙はなだめて、あと
三ヶ月待ってくれ、必ず仕上げる、と固い約束で、老人はようやく帰った。

依頼してからちょうど一年ぶりでその名画ができた。老人は応挙からそれを見せ
られたとき、自らの目をうたぐった。その絵は色彩も平凡だし決して美しい、という
絵ではなかったからである。柿の木の下の石に腰かけた百姓の女房が、子どもに
胸をはだけて乳をのませている、という構図なのである。

応挙は、老人の不満な顔色をすばやく読みとると、絵の意図を説明した。美しさ
というものは、比較するものがあるから美しいので、今美しくてもそれ以上に
比較される美しさが出れば美しくなくなる。そこで絶対に比較できない美しさ
として、仕事着姿で乳を飲ませている母親、母性愛を描いたのであるといった。
老人は、この説明に満足した。近代彫刻の巨匠ロダンに「労働している女性
ぐらい美しいものはない」という意味のことばがあるが、全く美を見る眼は
東西相通ずるものがある。

─『一日一言 人生日記』古谷綱武編 光文書院より

絵のテーマというのも名画が出来上がるのに重要だろう。不変な人間の喜怒哀楽の
生き様は永遠のテーマにちがいない。
現代絵画は、抽象の中にテーマを求めるが昔は、人の生き様がテーマであった。
私は、ムンクの絵は、ほとんど好きではない。異常ではないかと思う。そうずっと
思っていたがあるとき一枚の絵に衝撃を受けた。
その絵が心に残り離れなかった。人間の生き様が素直に捉えられていたからだと
思う。
その絵は、結核で命がもうないベッドにいる娘(姉)のそばで母が首を垂れている。
娘のことを悲しんでいる姿を写しとったような絵だ。絵の技術もうまくない、でも
静かに眺めてその状況を思うときその悲しみが伝わってくる・・・
自分の気持ちを悲しみをただ無心に表現しているようだ。
彼の生い立ちをみれば生き方、作品の奇妙さはある程度同情できる。
不安と狂気のなかに生きたが後半は元気にもなっている。でも、そのころの絵も
私は好きではないが、この「病める子」の一枚は、今も私の心に残る作品だ。

 




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