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ハイエク 人間の知力など頼むに足らない    渡部昇一

2016-10-28 17:04:00 | 知恵の情報
オーストリア生まれの経済学者であるフリードリヒ・A・ハイエク教授(1899~1922年)
がノーベル賞を受賞した時の記念講演があります。そのときのタイトルがThe Pretence
of Knowledg.
Pretenceとは「ふりをすること」で、Knowledgeとは「知っていること」。
要するに分かっているという自負、しったかぶりという題でした。

講演の内容は、人間の知力には限りがあるのに、分からないことまで知ったかぶりを
するのが社会主義だというものでしたが、この講演を社会主義に対する批判とだけとらえ
る必要はないと思います。むしろ、私たちにとって大切なのは、ハイエク先生の思想の
基本にある、「常に"知の驕り”を慎む」という謙虚な態度です。先生の思想を言い換えると、
「人間の知力など、頼むに足らない」ということを知った上で、人々は努力しようというもの
なのです。

このハイエク先生の思想の根源には、私は18世紀のイギリスの哲学者・ディビッド・ヒューム
(1711~1776年)の思想があると思います。イギリス最大の哲学者と言ってもいいと
思われるヒュームは、人間の知力にはどこか欠陥があるというところに行き着いた哲学者
です。

ヒュームの話をする前に、ここでギリシャ哲学の時代から思考の命題として出され続け
手いる有名な「ツェノン(ゼェノン)の逆理」を紹介しましょう。ツェノンは紀元前5世紀の
哲学者で、弁証法の祖とも言われる人ですが、これは彼が提示したアキレスと亀の
逆説の話です。中学の数学の時間に習われた人も多いはずです。その命題はこういう
ものです。

「足の速さで有名なアキレスの前を亀がノロノロ歩いている。亀を追い越そうとして、
アキレスが亀のいた地点まで行くと、すでに亀はその前を歩いている。そこでアキレス
がさらに先にいる亀の地点まで行くと、またまた亀はその前を歩いている、以下、アキレス
と亀の距離は分けることができないほど小さな単位になりますが、アキレスが追いついた
と思えば数ミクロンでも亀は先を行っていることになる。つまり、理論的に考えれば アキレス
は永遠に亀に追いつくことができない」という命題です。

このほかにも哲学的な命題はいくつもありますが、ヒュームはこの種の命題を考えに考え
抜いた結果、「人間の知力にはどこか欠けたところがある。頼むに足らず」という結論
に行き着いたわけです。(続きは、次回・・・)

─『渡部昇一の 人生観・歴史観を高める事典』(PHP研究所)
  「不確定性原理の意味」より・・・

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