紫微の乱読部屋 at blog

活字中毒患者の乱読っぷりを披露。主にミステリーを中心に紹介します。

「ゆきの山荘の惨劇 猫探偵正太郎登場」柴田よしき

2005年06月02日 | さ行の作家
アンソロジーで初めて読んだ柴田さんの作品が、この正太郎シリーズの
1作。ちょっと抜けてる(笑)飼い主で作家の桜川ひとみと、正太郎の
かけあい(というか、ひとみは正太郎のことを分かっているつもりでも、
まったく気持ちが通じていないというところ)が面白くて、見つけ出した
のがこれ。このシリーズ、何作も出てるんですね(知らなかったのよ^^;)。

「柚木野山荘」で行われる結婚式に招待された飼い主の桜川ひとみに
一服盛られ(笑)、無理矢理連れてこられた正太郎は、山荘で幼なじみの
サスケと美猫トマシーナと出会う。和やかに見えたその集まりも、新郎の
もとに脅迫状が届いたりと、次第に怪しげな雰囲気に飲み込まれていく。

文字通り“惨劇”が次々と「柚木野(ゆきの)山荘」を襲うわけですが、
(雪に閉ざされた山荘で起こる事件ではないのですね、残念ながら(笑))
なんだかとってもいたたまれないのです、その“想い”が。新郎が新婦を
想う気持ち、新婦が新郎を想う気持ち、そして、正太郎がトマシーナを
想う気もち。どれもとても大切な想いのはずなのに、ちょっとした
行き違いで、それこそが悲劇になってしまうのですね。辛いなあ。

最終的にはいろいろと救われた部分もあるのですが、やはり“真相”を
知ると鳥肌が立ちますよ。痛いし、辛いし、いたたまれない。
そういうところも含めて(笑)、とても好きな作品です(^-^)。


ゆきの山荘の惨劇 猫探偵正太郎登場」柴田よしき(角川文庫)

「ルパンの大失敗 怪盗ルパン2」ルブラン原作・南洋一郎文

2005年06月02日 | ら行の作家
天才と呼ばれる大怪盗アルセーヌ・ルパンも、若いころには大失敗が
あったのです!(笑)。そんな青年時代の話を、親友のルブランに
語る「ルパンの大失敗」など、4つの話が収録されています。

初めてルパンが企てた“仕事”は、大富豪アンベールの屋敷から
1億フランの証券を盗み出すこと。綿密な計画を立て、じっくり時間を
かけて“仕事”に取りかかるのですが、思いも寄らない展開を見せ…。

注釈があるのですが、当時の1フランは約1,000円。だとしたら、
1億フランっていったいいくらなんだ! その辺にも夢があって、
私はとても好きなのですが(笑)。そして、この失敗から天才的な
大怪盗ルパンが生まれた、という誕生秘話にもなっているのです。

収録作品の中に「大探偵ホームズとルパン」という話があり、これは、
後に続く長編「ルパン対ホームズ」の前哨戦、といったところ。
しかしながら、ここに出てくるホームズの扱いの悪いこと悪いこと(笑)。
いくら愛国心の強いフランスの作品だからといって、ホームズファンが
読んだら気を悪くするかもしれない…とちょっと心配(^^;)。


「ルパンの大失敗 怪盗ルパン 2」ルブラン原作・南洋一郎文(ポプラ社)

「製造迷夢」若竹七海

2005年06月02日 | わ行の作家
警視庁の刑事・一条風太と、サイコメトラー・井伏美瀬の連作短編。
若竹さんの作品で超能力とか出てくるのが、なんとなく意外
でも、よく考えると「サンタクロースのせいにしよう」という前例も
あるし(超能力ではないけれども)、違和感はまったくなかったです。
中身は(ストーリーの進み具合は)とても若竹さんらしく、悪意に
満ちて痛い作品でした。私はそこがとても好きなのです(^-^)。

覚醒剤所持で現行犯逮捕されたミュージシャンとその友人が
自殺を図る。捜査にあたる一条は井伏美瀬と出会うが、彼女は、
物質の残留思念を読み取るサイコメトラーだった…。

1話目「天国の花の香り」で、一条と美瀬は出会うわけですが、
そこから事件にからんで、また、からまなかったりしながら、
2人はお互いを理解し合っていきます。それぞれの話の中で
起こる“事件”はどれも、若竹風味ですが、なんとなく、こういう
終わり方は麻耶雄嵩にも通じるところがあるのかも、という気が
してます。というのも、「あいにくの雨で」(文庫版)の解説に
興味深いことが書いてあったのですね。謎は解かれるけれども、
必ずしもハッピーエンドで終わらないのには理由がある、という
件なのですが。この辺は宮部みゆきなんかにも通じるところがあって、
被害者やその家族、そして加害者の家族たちにとっては、事件が
解決してからの生活の方が大変なんだ、と。そんな風に私は感じた
わけですが。まあ、そんなことは考えなくてもいいんだけど(笑)。

この作品のもう一つの魅力は、事件と平行して一条と美瀬の関係が
描かれていくこと。その描き方もとても面白いのです。


製造迷夢」若竹七海(徳間文庫)