紫微の乱読部屋 at blog

活字中毒患者の乱読っぷりを披露。主にミステリーを中心に紹介します。

『ALONE TOGETHER』本多孝好

2005年06月27日 | は行の作家
MISSING』に続いて、久々の本多さん。前回とは違って、長編なのです。
カバー裏にあるあらすじを見ているとそうでもないのですが、最初の
2・3ページを読んだだけで、ぐぐぐっと物語に引き込まれます。

かなりの努力とお金をかけて入学した医大を、いとも簡単に辞めてしまった
「僕」。フリースクールで講師のバイトをしなら過ごした3年後、脳神経学の
教授に突然呼びだされ、「ある女性を守ってほしい」と頼まれます。
「僕」と教授との接点は、学生時代「僕」が教授の授業を数回受けただけの
こと。当時「僕」は、1度だけ教授に質問をしました。「脳に呪いの入る
隙はあるのか」と。権威といわれた教授の答えは、「その可能性を否定する
ことはできない」。それを聞いたがために、「僕」は大学を辞したのです。

とまあ、こんな前フリを喰らって読まずにおけるか、ということで、
一気読みです(笑)。ただ、どこに触れてもネタバレになりそうなので、
感想を書くのが難しいのですが…。ひと言でいえば、「僕」は依頼された
ことを成し遂げることで、自分の存在を認めるようになるのではないかと。
でも、そんなに簡単なことでもないしな(笑)。…何を書いているのか
分からないかもしれませんね(^^;)。もしかしたら、この物語は、
あるがままをそのまま受け止めればいい作品なのかもしれませんね。
読むだけで、深く考えない方がいい。というのも、普段はできるだけ
見ないようにしている自分のホンネを意識してしまって、ちょっとブルーに
なってしまいました(笑)。でも私は楽観的に生きてきたから、ここまで
生きてこられたけれども、「痛い」ことを、嘆かず悲しまず、しかも誰の
せいにもせず、ただ「痛い」状態のままにしておく「僕」と学園の子供たち。
彼らのことを考えれば考えるほど、どつぼにはまって抜けられなくなります(笑)。

ただ、最後に救いとまではいかないけれども、ほんの少しだけでも“希望”を
残してくれてあるので、読んでいる方はそれで救われます。そして、
水柿くんを思わせる「僕」の思考も、もしかしたら、ホントは健全なのかも(笑)。


ALONE TOGETHER』本多孝好(双葉文庫)

『銅の魚』仁木悦子

2005年06月27日 | な行の作家
以前から、仁木さんの描く子供がいい、というお話は何度も伺って
おりましたが、実はまだ実感したことがなかったのです。というのも、
これまで、仁木兄妹の長編を2作と、三影潤の連作短編を1作読んだだけで、
子供が主人公のお話を知らなかったのですね。そんなんでは、話にならん(笑)。

いや、基本的に仁木悦子の作品は良いので、子供が主人公になっても
いいものなんだろう、くらいの気持ちでしかいなかったのですが、
これが間違い。もう、最っ高にいいんです!(笑)。
『銅の魚』はノンシリーズの短編集で、「二人の昌江」だけ、結婚後の
悦子が出てきます。お兄ちゃんは出てこないのですが、ここでは夫が
少し活躍します(でも、しゃしゃりでるのは、やっぱり悦子(笑))。

収録された6作のうち、「誘拐犯はサクラ印」と「倉の中の実験」
「銅の魚」が子供が主人公なのですが、とくに男の子がいいのです。
がんばっちゃうから(^-^)。ちょっと気のある女の子に、いいところを
見せようとがんばるんだもんなあ。そういう微笑ましい話なのにも
かかわらず、謎解きはきっちり本格なのです(「倉の中の実験」は
ちょっと違うけどね)。子供が主人公で事件に遭遇すると、なんだか
心を痛める展開になりそうな気がしますが、そこがまた仁木さんの
うまいところで、事件のために負った心の傷は小さくはないけれども、
でも、子供たちはどんどん成長していくんだ、そうやって大きくなって
いくんだ、そうして、その傷を乗り越えていくんだということを
強く感じさせてくれました。うーん、いい作品だあ(^-^)。

しかしながら、それだけではないのが仁木作品。「山峡の少女」は、
外出するときも鍵をかけないような田舎で起こる事件の話ですが、
密室よりも面白いトリックかもしれません(ちょっと煽ってみたり)。
仁木兄妹のシリーズも好きですが、キリリと引き締まった短編集、
しかも、子供が主人公の作品が、次回以降の狙い目です(笑)。


銅の魚』仁木悦子(角川文庫)