超芸術と摩損

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「裏切りの事業仕分け」最終章 宝くじはノーなのに小沢幹事長「社団法人」をなぜ見逃すのか!?

2010-06-12 07:03:50 | 週刊誌から
ジャーナリスト 若林亜紀

事業仕分けの総仕上げが行われた。目玉は宝くじのからくり。年間売上一兆円のうち当選金に回るのは半分以下、残りは総務省主管の天下り法人に配られている。その実態を暴いた仕分けに世間は喝采したが、実は民主党は小沢幹事長の法人には手をつけていないのだ。

 首相官事の隣に山王パークタワーという地上約二百メートルの超高層ビルがそびえ立つ。消費者庁が入居して問題となったこのビルの二十一階に、財団法人自治総合センターがある。財団を支えるのは宝くじの収益である。なぜ宝くじの売上が財団に流れているのか。
 総務省によれば、宝くじの発行は本来、違法とされている。しかし、戦後、自治体財政が苦しいときに、収益で公益事業をするということで、総務省が自治体に暫定的な許可を与えて始まった。それゆえ、売り上げのうち当選金に回すのは五割以下と定められ、銀行に手数料として一割弱が払われるほかは、総務省所管の法人を通じて自治体に配られる仕組みとなっている。中でも自治総合センターと日本宝くじ協会が広報事業の二大元締め団体であり、いずれも総務省の元事務次官が理事長を務める。
 自治総合センターは、年に九十七億円を収益金からもらい、宝くじの広報のための文化公演や環境保全イベントを年に二千回以上行っている(外部委託含む)。
 中身を見てみよう。
「宝くじまちの音楽会」の開催要綱を見ると「自治体が主体となり、南こうせつ、岩崎宏美、岡村孝子のいずれかを使い、八百人以上の入場が見込める公立文化施設で行うこと。入場料は二千円とし、全額センターに納めること。その代わりにセンターが経費を助成する」とある。
 うーん。なぜあらかじめ出演者が決められているのか、そもそも公益性があるのか不明で、自治体にとってありがたいのか微妙だ。〇八年度は十七の自治体で実施された。
 環境保全イベントは、東京都葛飾区の「自然観察会」、福井県高浜町の「砂浜のクリーン活動」など。自治体が立案して申し込むと、二百万円以内は補助する。こういうイベントなら、工夫すればさして金はかからない。助成するまでもないだろう。
 官僚の天下りのために宝くじの収益をピンはねしているだけではないのか。
 自治総合センターの二橋正弘理事長(68)は東大法学部を卒業後、自治省に入省、事務次官に昇りつめた。その後、別の宝くじ関連法人の理事長をはさんで、小泉、福田内閣で官僚トップである官房副長官を務めた人物だ。
「事業仕分けしに先立ち、尾立源幸参院議員、菊田真紀子衆院議員ら「仕分け人」がこの法人を視察すると聞き同行取材した。
 自治総合センターの事務所に一歩足を踏み入れて驚いた。広い、五百坪はあろう。それなのに、職員は派遣を含めて十五名。二橋理事長とやはり天下りの常務理事が出迎えたが、その後ろに控える若い女性職員たちは皆、スカートとベストの制服を着ている。いまどき珍しい、昭和時代の丸の内OL風だ。
 窓の下には首相官邸の屋根が見える。その向こうに国会、霞が関の官庁街、皇居が広がる。二橋理事長はかつての職場を見下ろす最高のロケーションを手に入れていた。
 フロア内を回ると「会長室」、「顧問室」と書かれた部屋があるので開けてみた。いずれも空室で、重役用の机と椅子のほか、革張りのソファが置いてある。だが、棚は空。使われている形跡がまったくない。会長、顧問は非常勤で、非常勤理事が八名いる。ほとんど出勤がないらしい。
 二橋理事長は公表を拒否したが、公認会計士の尾立議員が財務諸表から割り出したところ、このオフィスの家賃は月一千五百万円近いという。もったいないことこの上ない。
 オフィスの隅に新聞コーナーがあった。朝日、毎日、読売、日経新聞が各三部ずつおかれ、スポーツ紙もある。眺めのいい事務所で新聞を読んで毎日を暮らす、天下り官僚の生活ぶりが目に浮かぶ。
 なお、取材をした一時間ほどの間に、事務所の電話は一本も鳴らなかった。

 二十一日、五反田のTOCで行われた事業仕分けで「宝くじのからくり」が議論された。仕分け人は、寺田学、菊田衆院議員、尾立、亀井亜紀子参院議員と民間人だ。
 二橋理事長は、両脇に佐竹敬久秋田県知事と伊藤祐一郎鹿児島県知事を従えて座らせた。その横に日本宝くじ協会の遠藤安彦理事長(69)が座る。知事らは宝くじ収益の受益者代表として公益法人側の応援に呼ばれたそうだ。地方交付税の配分をたてに知事をも従える元総務官僚の力を見せ付けている。
 伊藤知事が議論の口火を切った。
「なぜ私どもが仕分けされるのか不可解。地域主権国家としておかしい」
 自治体が発行する宝くじの金で賄う事業を、国が仕分けることに異を唱えた。
 民間仕分け人の福嶋浩彦前我孫子市長が切り返す。
「自治体事業を行う団体のトップを、国の官僚OBが占めていることこそ地方自治に反する」
 尾立議員が二橋理事長に質した。
「なぜ、こんな豪華な事務所を借りるのか」
「いろいろな人が来る。応接に必要だ」
「ふざけんな」、「まじめにやらんかい」と傍聴人からやじがとぷ。
 二橋理事長らの年俸は二千万円。
「元次官なのでそういう処遇になる」(伊藤知事)
 二橋氏といえば、福田内閣の官房副長官時代に行革を潰したことで知られる。〇七年、渡辺喜美行革相が雇用・能力開発機構、労働政策研究・研修機構の廃止や、官僚が天下りを繰り返す「わたり」の禁止を求める報告書をまとめたときのことだ。事務局が報告書を記者に配り終え、渡辺大臣が総理に報告している間にどんでん返しがおきた。
 二橋氏が町村信孝官房長官のもとに駆け込み、報告書を差し替えたのだ。新たに配られた報告書を見ると、廃止する法人名や「わたり」禁止条項が消えていた。
 だが、今回はさすがの二橋氏も打つ手がなかった。仕分け人が佐竹知事に感想を求めると、秋田訛りでとつとつと本音を漏らした。
「(報酬は)知事より高いです。知事の仕事のほうがたいへんだと思うんですけどね。都道府県にも天下り団体はありますが、報酬は相当低く抑えていますよ」
 日本宝くじ協会の非常勤理事の報酬が明かされた。事務局長が八百三十万円、事務局次長が一千七万円、審議役が六百七十万円、顧問が二百六十万円……。驚いた。宝くじとは、庶民の夢でなく、天下りの夢をかなえるためにあるらしい。
「本来、自治体に直接入るべき金を総務省の公益法人が取り上げて配っている。自治体が自由に使える金を増やしてください」(福嶋
前我孫子市長)
 そもそも、宝くじの存在を知らない人などいないので、広報事業は不要との意見も出た。
 PR施設の宝くじドリーム館も問題になった。銀座のドリーム館の運営費は年一億七千万円、大阪のシティエアターミナルのドリーム館は六千八百万円するという。寺田議員が、宝くじ協会が三年連続で助成した百以上の法人を調べたところ、五十九の法人に百八名の天下りがいた。
 熱い議論がかわされ、あっという間に二時間が過ぎて評決が下った。
「宝くじにかかる広報、公益事業については廃止が七名、見直しが五名。天下りの高額給与、豪華なオフィス、複雑な交付形態、無駄な宣伝広報事業、これらの問題が解決されるまでは、総務大臣は宝くじの販売を認めるべきではない」
 会場から拍手が沸いた。メディアもこぞって報道し、同じ日の小沢氏不起訴処分のニュースがかすんだ。枝野幸男行政刷新大臣の狙い通り「ショー」は大成功だ。
 ただし、私はこの評決に違和感を覚えた。天下りが問題なら天下りを禁じればよい。あるいは天下り団体に金を流すのを止めればよいだけだ。また、事業仕分けに法的拘束力はない。そもそも民主党には天下りを禁止する気もない。

 二月の国会で、みんなの党の江田憲司衆院議員は、首相にこう迫った。
「天下りというのは、せいぜい七十歳だと思っていましたよ。でも調べたところ、七十八歳、九十歳の人がいるんですよ。六十五歳以上の人たちは、いま辞めても共済年金がもらえ生活が保障されています。辞めたら路頭に迷う人は別にして、こういう人は一掃していただけませんか。天下り根絶と公約したんですから」
 仙谷由人行政刷新大臣(当時)が割り込んだ。
「この方たちの就任は自民党政権時代のこと。政権がかわったら一挙にクビを切れ、こういう強引な話なんでしょうか」
 鳩山政権は天下りの味方に成り下がったのか。
 しかし、民主党は自民党には厳しい。赤松広隆農水大臣は一月、国会議員や地方議員が土地改良区等の役員を兼任するのを止めるよう通達を出した。兼任は自民党議員に多く、利権はがしが目的である。
 その一方で小沢一郎幹事長の“兼任”は見逃しているのだ。みんなの党の山内康一衆院議員は、小沢氏が社団法人競走馬育成協会という農水省系の天下り団体の会長を兼任していることを指摘した。質問主意書を出し、小沢氏の辞任を求めたところ、政府はこう答弁した。
「競走用馬の育成技術の向上に関する普及、啓蒙及び指導等の事業を行っている団体であることにかんがみれば、議員が役員を兼職しているからといって、当該団体の業務活動に支障を生ずるおそれはない」
 しかし、農水省はそう考えていなかった。〇七年、遠藤武彦農水相が農業共済組合の補助金不正受給で辞任したことをうけて、農水省は国会議員が役員を兼任する農水関係団体をリストアップした。兼任議員が大臣に就任した際、役員を辞めるよう進言するためだ。そこには土地改良区と並んで、小沢氏が会長を務める競走馬育成協会も挙げられていたのである。
 仕分けられるべきは、天下り役人にひけをとらない厚顔の民主党ではないか。

週刊文春2010年6月3日号
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