僕思うんだけど,魔女おばさんはタイム・リープのことなんか信じていなかった(覚えていなかった)というのをはっきり描いておけばよかったんじゃないか,その上で,もしかしたら,と,ラベンダーよろしく匂わせるほうがスマートだったんじゃないか,そんな規範批評欲にとりつかれてますが,君はどう?
ま,そんなことはどうでもいいんだ,久しぶりに売れてる本を読んだし(Amazonでランクが一桁!),その売れてる本たら悔しいことにとても面白かった,さらに,先日のぽちこさんのエントリにも,ある種呼応することができるんじゃないか,そう思ってるのが,この本なんです。
いいですね。かなりいいです。新書の99%はクズ(スタージョンの法則・改)といわれて久しいですが,これは大興奮で大勃起の大祝賀の大良書と思いました(大げさか)。
良い本の定義なんて,人それぞれでしょうけど,個人的には,ジャンルを問わず,ひとつにはイメージの喚起力,なのかなと漠然と思っているのですが,その点において,軍閥のデニーロ,もとい,グンバツの出色であるといわざるを得ないです。自分が習った生物学史(たぶんそういうことだと思う)と自分の研究者史をパラレルに描き出しながら語るのですが,書措くに能ず,まあこれが実に読ませます。
ヒストリーを記述することは,ともすれば無味乾燥,ともすれば我田引水になりがちですが,ここにおいて,ヒストリーを説得力のあるストーリーに変換しつつ,一方で,手堅くまとめるという,それって無味乾燥・我田引水をポジティブに言い換えただけじゃないかといわれればそれまでですけど,わりと熱っぽく語るもんだから,ついつい引き込まれちゃうのね。主に文系の人たちの支持を集めるのはそういうことだろうと思います(理系の人はわりと冷静なようです)。
内容については,もうWEB上でたくさん言及されていますが,個人的には,ERJAシュレディンガー(負のエントロピー)やRシェーンハイマー(動的平衡)の功績がうまく説明されていると思い,改めて勉強になりました。
特に動的平衡Dynamic Equilibriumというのがひとつの大きなテーマになってるのですが,それが単に形而上学的な世間話でなく,ノックアウトマウスを用いた実験等を紹介しながら,分子生物学者としての実践の中で語られるため,空虚な感じがしません。一方で,オートポーエーシスって面白いんだけど,こういう実践を欠いているから,いまいち理解が進みにくいのかなとも頭を掠めたり。
JDワトソン,Fクリック,Mウィルキンス,Rフランクリンについても,言及してますが,僕は結構ワトソンのあの本,好きなんですよね。
関係者から,事実誤認を指摘されまくって,今となっては,かなりその価値を減じられていると思いますが(ある種当然ですが),ただ,この頃の生物学という学問全体のダイナミズムを感じられるという点では,やっぱりこれは魅力的な書籍だと思うんですよ。それはパラダイムの推進力といってもいいんだけど,そこにおいては,ワトソンすら狂言回しに過ぎないのでは,と思えるのですね。
福岡先生は,この本を訳されていることもあるだけあってか,ワトソン,クリック,ウィルキンスには辛らつですね。
でも,厳然たる事実ですからね,フランクリンが第一発見者であることは! 『二重らせん』読んでワトソンかっこいい,と思っちゃった人は,ぜひ。
また,『生物と無生物のあいだ』に戻りますが,動的平衡,今日の文系におけるシステム論のトレンド(といってもごく一部かな)の最中にあっては,基本的な概念として抑えておくのはいいことだと思う。一方で,この動的平衡の話,文学者の先見性でしょうか,見事に小説の形に昇華・結実していた人をわれわれは知っているじゃありませんか!
ほとんど全部描いちゃってるのがすごいよね。
冒頭の「砂」についての,主人公の省察は動的平衡の概念そのものですが,それと相似形をなすように(クラシックな言い回しでしょう?),ストーリー全体も「システム」を扱っており,その上で,人生を描く,みたいな。かといって,眉間にしわ寄せ深い苦悩が……的な重厚さじゃなく,エンターテイメントしまくってて,とにかく最高ですね。
結局,砂漠の穴ぼこのなかを描く,という世界観を思いついた時点で,永遠の勝ち組ですよ,アベコンベもといカタコンベもとい安部公房先生は!
ということで,今日はこの辺で,チャオ!
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ヒストリーを記述することは,ともすれば無味乾燥,ともすれば我田引水になりがちですが,ここにおいて,ヒストリーを説得力のあるストーリーに変換しつつ,一方で,手堅くまとめるという,それって無味乾燥・我田引水をポジティブに言い換えただけじゃないかといわれればそれまでですけど,わりと熱っぽく語るもんだから,ついつい引き込まれちゃうのね。主に文系の人たちの支持を集めるのはそういうことだろうと思います(理系の人はわりと冷静なようです)。
内容については,もうWEB上でたくさん言及されていますが,個人的には,ERJAシュレディンガー(負のエントロピー)やRシェーンハイマー(動的平衡)の功績がうまく説明されていると思い,改めて勉強になりました。
特に動的平衡Dynamic Equilibriumというのがひとつの大きなテーマになってるのですが,それが単に形而上学的な世間話でなく,ノックアウトマウスを用いた実験等を紹介しながら,分子生物学者としての実践の中で語られるため,空虚な感じがしません。一方で,オートポーエーシスって面白いんだけど,こういう実践を欠いているから,いまいち理解が進みにくいのかなとも頭を掠めたり。
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関係者から,事実誤認を指摘されまくって,今となっては,かなりその価値を減じられていると思いますが(ある種当然ですが),ただ,この頃の生物学という学問全体のダイナミズムを感じられるという点では,やっぱりこれは魅力的な書籍だと思うんですよ。それはパラダイムの推進力といってもいいんだけど,そこにおいては,ワトソンすら狂言回しに過ぎないのでは,と思えるのですね。
福岡先生は,この本を訳されていることもあるだけあってか,ワトソン,クリック,ウィルキンスには辛らつですね。
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でも,厳然たる事実ですからね,フランクリンが第一発見者であることは! 『二重らせん』読んでワトソンかっこいい,と思っちゃった人は,ぜひ。
また,『生物と無生物のあいだ』に戻りますが,動的平衡,今日の文系におけるシステム論のトレンド(といってもごく一部かな)の最中にあっては,基本的な概念として抑えておくのはいいことだと思う。一方で,この動的平衡の話,文学者の先見性でしょうか,見事に小説の形に昇華・結実していた人をわれわれは知っているじゃありませんか!
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ほとんど全部描いちゃってるのがすごいよね。
冒頭の「砂」についての,主人公の省察は動的平衡の概念そのものですが,それと相似形をなすように(クラシックな言い回しでしょう?),ストーリー全体も「システム」を扱っており,その上で,人生を描く,みたいな。かといって,眉間にしわ寄せ深い苦悩が……的な重厚さじゃなく,エンターテイメントしまくってて,とにかく最高ですね。
結局,砂漠の穴ぼこのなかを描く,という世界観を思いついた時点で,永遠の勝ち組ですよ,アベコンベもといカタコンベもとい安部公房先生は!
ということで,今日はこの辺で,チャオ!
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