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昔、濱田という所に、きわめて愚かな夫婦がいた。
隣から餅を三つ贈られたので、夫婦は各々一つずつ食べて、残るひとつを「おれが食う」「わたしが食べる」と争っていたが、夫が言うには、
「それならば、今から無言を始めて、無言を破った者を負けにして、無言を続けて勝った者が食べることにしよう」
と言えば、妻も、
「そうしましょう」
と言って、無言競べを始めたが、お互いに、この餅を食べようと思う一心で、夫婦共に、三日経っても、物ひとつ言う事がなかった。
その折しも、ある夜、盗人が入って来て、家の物を残らず盗んで行ったけれども、これを見ながらも、夫婦は、餅を食べたいという心ばかりで、声を上げて呼ばわる事もせず、互いに悶々としていたが、妻は、「この、わずかの餅を食べるために、多くの家財を盗まれては大損だわ」と思って、声を上げて、
「盗人が来た」
と呼ばわれば、夫は喜んで、
「そうれ見ろ、無言を破ったな」
と言って、餅を取って食べ、盗人のことは気にかける様子すらなかった。
世の中には、少しの利益を得るために、ついには命を滅ぼすほどの大損をする者もいる。それらはみな、この夫婦に同じである。
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昔、濱田という所に、きわめて愚かな夫婦がいた。
隣から餅を三つ贈られたので、夫婦は各々一つずつ食べて、残るひとつを「おれが食う」「わたしが食べる」と争っていたが、夫が言うには、
「それならば、今から無言を始めて、無言を破った者を負けにして、無言を続けて勝った者が食べることにしよう」
と言えば、妻も、
「そうしましょう」
と言って、無言競べを始めたが、お互いに、この餅を食べようと思う一心で、夫婦共に、三日経っても、物ひとつ言う事がなかった。
その折しも、ある夜、盗人が入って来て、家の物を残らず盗んで行ったけれども、これを見ながらも、夫婦は、餅を食べたいという心ばかりで、声を上げて呼ばわる事もせず、互いに悶々としていたが、妻は、「この、わずかの餅を食べるために、多くの家財を盗まれては大損だわ」と思って、声を上げて、
「盗人が来た」
と呼ばわれば、夫は喜んで、
「そうれ見ろ、無言を破ったな」
と言って、餅を取って食べ、盗人のことは気にかける様子すらなかった。
世の中には、少しの利益を得るために、ついには命を滅ぼすほどの大損をする者もいる。それらはみな、この夫婦に同じである。