続・エヌ氏の私設法学部社会学科

無理、矛盾、不条理、不公平、牽強付会、我田引水、頽廃、犯罪、戦争。
世間とは斯くも住み難き処なりや?

巻6の2 狗(いぬ)の化けたるを怪しまぬ事

2017-04-08 | 理屈物語:苗村丈伯
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 唐土、桂陽の太守に、李叔賢という人がいた。
 この人の家では犬を飼っていたが、年をとったためか、常に化けて、いろいろの不思議が起っていた。
 ある時、この犬が後ろ脚を立てて、人が歩むように歩いていたので、家人はみな怪しみ恐れて、この犬を殺そうと言うのを、叔賢は、
「昔から犬や馬は君子に喩えられる生き物だ。この犬も、人が二本足で歩くのを見て、真似して歩いているだけだ。それを、どうして怪しみ恐れ、殺そうとするのだ」
と言った。
 その後、叔賢が県の奉行のところから帰って、冠を榻(しじ)の上に掛け置いていたのを、かの犬が冠を取って頭に頂いて歩いていたので、家人はことごとく驚き怪しんだが、叔賢はこれを見ても、少しも怪しまずに言うには、
「この犬は、冠を掛けた側を通ったから、誤って冠の緒が首にかかって、わざと頭に頂いたように見えるだけだ。ただそれだけなのに、どうして怪しむのだ」
と言った。
 その後、またこの犬が、かまどの前に居て火を焚いていたので、家人はみな怪しみ恐れたが、叔賢はまた、
「下女や童僕どもが、みな田へ行ってしまって、かまどの種火を焚く者が誰もいなくなっていたではないか。だから犬が、手伝いをしようとして火を焚いていたのだ。幸いに火の用心も良い。だったら、何を怪しみ恐れることがあるのだ」
と言って、全く怪しむ気色はなかった。
 里中の者は皆、これほど怪しい犬なのに、どうして殺さず、生かしたままにしておくのかと罵ったが、叔賢は、決して殺そうとはしなかった。
 それから数カ月して、かの犬も、とうとう死んでしまったが、だからといって、別段、奇怪なことは起らず、ここに至って、叔賢が賢明であったということが、自ずから明らかとなったわけである。
 古から、怪しいものを見ても怪しく思わなければ、その怪しみは自ずから破れるという。この叔賢の犬もまた、同じことである。
 世の中の人は、奇怪なものを見ては、必要以上に取り乱してしまって、そのために正常な判断力を奪われて、ついには家も命も失ってしまうものである。あるいは、奇怪な説を説く者があれば、人はみな信じてしまって、怪しげな道に陥ってしまうのも痛ましいことである。


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2 コメント

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面白いです (Unknown)
2017-04-14 18:14:54
記事を面白く拝読させてもらっているのですがブログのタイトルが謎です
社会学科は基本的に文学部か社会学部に配置されます
法学部の中に社会学科が配置されることはおそらくほぼないと思います

なぜ法学部社会学科なのか理由はあるのですか?
ないのなら社会科学部とか人文科学部とか教養学部とかリベラルアーツとか学際系の学部とかの方が内容的には適切だと思いますよ
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タイトルは・・・ (エヌ氏)
2017-04-15 22:07:31
 いらっしゃいませ。コメントをありがとうございます。

 ブログのタイトルですが、いくつかの元ネタから拝借して、でっち上げています。
①エヌ氏
 SF作家の星新一氏が、著作の中へたびたび登場させている「誰でもない」人物の名前で、最も多いのが「エヌ氏」で、星新一ファンクラブの名称も「エヌ氏の会」となっています。(私はファンクラブ員ではありませんが)
 もちろん私も星新一の大ファンで、友人に言わせると、私の文体は星新一によく似ているそうです。
 大変光栄に思うとともに、敬意を表して、エヌ氏といたしました。
②私設
 これまたSF作家の筒井康隆氏の著作に「私設博物誌」というのがあり、博物をテーマにしたエッセイ集なのですが、それに敬意を表して拝借しています。
③法学部
 私が法学部出身で、上の「私設博物誌」のように、法令をテーマにしたブログを書こうと思い立ったため、このようにしました。
 最近は、元々の目論見から随分ずれていますが・・・
④社会学科
 これはちょっとこじつけなのですが、法令をテーマにした文章にしつつ、社会批判を盛り込もうと欲張ったため、また、法令以外にも私の好きな、歴史や言語、人文科学のようなものもブログのテーマにしようと思ったので、社会学科としました。

 つまりは、形式にこだわることなく、いろんなものを節操なく書けるよう、タイトルも節操のないものにしています。

 これからも、お気軽にお読みいただければ幸いです。
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