ぴかりんの頭の中味

主に食べ歩きの記録。北海道室蘭市在住。

【本】クラインの壺

2008年08月06日 22時02分13秒 | 読書記録2008
クラインの壺, 岡嶋二人, 新潮文庫 お-30-2(4992), 1993年
・「クラインの壺」ただただこの単語に反応して、内容も著者も何も知らずに手に取った本。「クラインの壺」とはトポロジー(位相幾何学)の象徴のような、裏表を持たない四次元の不思議な図形のことです。その図形になぞらえて、小説の内容も不思議。「この世の出来事は全て夢なのではないか??」 誰の頭にも一度は浮かぶのではないかという、こんなアイディアをテーマにストーリーが展開するSFミステリーです。非常にテンポよく読め、読み出すと止まらないタイプの文章で、何の期待も無く読み始めたのですが意外に楽しめました。初出は20年前(平成元年)ながら、全く古さを感じさせません。ただし、高校生や大学生が好みそうな若者向けの内容です。
・これだけ質の高い作品を書けるならもっとメジャーになってもおかしくない作家なのに、と調べてみると、"岡嶋二人" とは二名の作家によるコンビのペンネームで、この作品を最後にコンビを解消してしまったようです。
・「梶谷が言って、僕は部屋の隅のソファに腰を下ろした。最初は何色だったものか、見当もつかないほどくたびれ果てたソファだ。  梶谷は僕の前に腰を下ろすと、さて、と眼を細くして笑いかけた。なんだか赤ん坊の泣き顔みたいな笑顔だった。年齢の見当がまるでつかない。笑うと子供のようだが、薄くなった頭や顔の皺からすると五十代にも見える。」p.22
・「ゲームってのはね、義兄さん、すごく古い歴史を持ってるんだよ。人類は、まだほとんど猿のころから、自分の周りにあるものをゲームにしてきたんだ。闘いのあらゆるものがゲームに置き換えられたじゃないか。チェスや将棋なんて、戦争をボードの上でシミュレートしてるわけだろ? ありとあらゆるスポーツは、闘争の形態をゲーム化したものだし、トランプだって未来の予測をゲームの形で行うことからはじまったんだ」p.29
・「ああ、ゲームっていうのはさ、人間が知的動物であるって証拠なんだよ。現実にあるものをゲームって形に置き換えて疑似体験する。人間以外の動物は、そんな高度な思考をしないんだもの」p.30
・「単純に表せば、それは一の後にゼロを十二個置いた数だ。一兆が「テラ」である。  一般に使われているパソコンには、その本体に約一メガ・バイトという大きさの記憶素子(メモリー)が入っている。ということは、イプシロン・プロジェクトが開発しているゲームは、パソコンを百万台つなげたようなものになる……。  これは想像を越えていた。」p.40
・「「てへ」と、梨紗は可愛い舌をチロリと出した。」p.109 この描写にはちょっとゾゾっときてしまいました。
・「「どういう具合に説明すればいいかわからない」  「はじめのところから始めて、終わりにきたらやめればいいのよ」  「…………」  僕は七美を見返した。七美は、ニヤッと笑った。  「『不思議の国のアリス』のセリフよ。トランプの王様がそう言う場面があるの。アリスが裁判に掛けられるとこかな?」」p.256

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 【食】さっぽろ桃園 千歳駅前... | トップ | 『遊』閉店 8/20 »

コメントを投稿

読書記録2008」カテゴリの最新記事