PARK'S PARK

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『雪とパイナップル』を読んで

2008年07月09日 | 本のレビュー
●『ひとりの子どもの涙は、人類すべての悲しみより重い』
ドストエフスキーの小説『カラマーゾフの兄弟』のなかにこのフレーズが出てくる。この小説はこんな文章から始まります。
1990年夏ベラルーシ共和国で起きた原子力発電所爆発事故で被害を受け、重症の白血病の子どもを救うために諏訪中央病院の”鎌田實”先生がチェルノブイリに向かったのです。

■そこでの体験がつづられた『雪とパイナップル』を読みました。

         

鎌田先生は白血病患者の治療を積極的に行い、9人の子どもに骨髄移植手術を行ない8人の命を救えたのですが、ただ一人の命を救うことができなかったのです。子どもの名前はアンドレイ・マルシコフ君。

◆日本から2000万円する無菌室一式を空輸して徹底的な治療が行なわれたのです。
何度も奇跡が起きました。しかし彼の体のなかにできた白血病細胞はしたたかで、しぶとく、治療の甲斐なく2000年7月、少年は亡くなりました。希望は絶望に変わったのです。

★その後、鎌田先生は改めて両親を訪問し、驚くべき話しを聞くことになる。
日本から移植療法の看護を指導する為にやって来た、ヤヨイさんという若い看護師さんの話しです。
アンドレイ君は移植を受けてから熱と口内炎のために、まったく食事が取れなくなった。ヤヨイさんは何とか食べられるように食事に工夫をしてくれましたが、どうしても食べられません。

『何なら食べられる?』何度も聞かれたアンドレイ君は小さな声で答えたのです。
『パイナップル・・・』
ベラルーシは経済が崩壊し、とても貧しい国でした。お店に行っても何も無い。
ましてや寒い国の2月にパイナップルなどあるはずもない。

でもヤヨイさんは毎晩マイナス20度の雪の町へパイナップルを探しに出かけるのです。
「パイナップルはありませんか?」「パイナップルはありませんか?」
やがて、その話しは町中の人に知れ渡り、パイナップルの缶詰が見つかったのです。
そしてパイナップルを食べたアンドレイ君に奇跡が起きたのです。
彼の容態は日増しに良くなり、快方へと向かうのですが、奇跡は続きませんでした。

★アンドレイ君のお母さんが「ドクターたちのことはもちろんですが、マイナス20度の雪の町でパイナップルを探し歩いてくれた日本の女性のことを、わたしたち家族は、一生忘れないでしょう」

※心温まる話しを読みました。
鎌田先生は「大人が読む絵本」というカタチにしたかったと書いています。

淡々とした文章の中に、献身的なヤヨイさんの強い信念が伝わってくるのです。
そして愚かな人間の行動の虚しさ、ひとりの少年の命を救えなかった悔しさが伝わってきます。

どうしてもこの類の本は偽善的な面が鼻についてしまうのですが、この本は素直に素晴らしい。
是非、お勧めしたい一冊です。