1日1話・話題の燃料

これを読めば今日の話題は準備OK。
著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

2月21日・アナイス・ニンの先駆

2021-02-21 | 文学
2月21日は、南インドにあるコミュニティー「オーロヴィル」の創設者「マザー」ミラ・アルファサが生まれた日(1878年)だが、女流作家アナイス・ニンの誕生日でもある。

アナイス・ニンは1903年、フランスのパリ郊外の街ヌイイで生まれた。フランス革命のときにフランスから逃げてキューバ人になった家系で、アナイスの父親はハバナ生まれのピアニスト、母親はフランスやデンマーク系の血をひくキューバ人の歌手だった。
アナイスが子どものころに両親が離婚し、彼女は米国ニューヨークへ引っ越し、そこで思春期を過ごし、11歳のときから日記をつけはじめた。
アナイスは16歳のときに学校をやめ、写真のモデルなどをして暮らしていた。
20歳のとき、ハバナで銀行家のヒュー・パーカー・ギラーと結婚。翌年、新婚の彼らはフランスのパリへ引っ越した。夫ギラーは銀行員を続け、アナイスはパリでフラメンコダンサーをしながら、文章を書くことに熱中した。
28歳のころ彼女は、パリにやってきて貧乏な米国人ヘンリー・ミラーと知り合った。ミラーには米国人の美人妻ジューンがいたが、アナイスはミラーと恋仲となり、また妻のジューンとも友人になり、彼ら3人は奇妙な三角関係に入った。

「私は黙っている。彼は私に服を脱ぐひまも与えてくれない。
 ここからはそう書けばいいのかわからない。生まれて初めての経験だから。あの時間のあまりの濃密さ、激しさに目が眩んでいるから。私が覚えているのは、ヘンリーの貪欲さ、エネルギー。『君のお尻はステキにきれいだ』って言われたこと。湧き出す蜜。凄まじい快楽の波。平等な快楽。待ちに待っていた性の深さ。暗さ、究極、赦祷式。躰の芯に触れる男の肉は私を征服し、濡らしながら、力強くその焔をよじった。」(アナイス・ニン著、杉崎和子訳『ヘンリー&ジューン』角川文庫)

アナイス・ニンは、作家の卵ミラーを刺激し、ミラーはアナイスの知性を吸収した。
29歳のとき、アナイスはD・H・ロレンスについての評論を出版し、31歳のとき、彼女が印刷費用を出してやって、ミラーの長編小説『北回帰線』が出版された。

アナイス・ニンはその後、36歳のときに夫ギラーとともに米国ニューヨークへ移った。
米国で、アナイスはお金目当てで匿名のポルノ小説『ヴィーナスのデルタ』『小鳥たち』を書いた。これらは女性作家によるポルノ小説のもっとも初期のもののひとつとされる。
また、1966年、アナイスが63歳のとき、11歳から書きつづけていた彼女の日記『アナイス・ニンの日記』の第一巻が出版された。この書はすぐれた日記文学として評判を呼び、彼女は世界的女流作家となった。彼女はウーマン・リブ(女性解放運動)の先駆者として賞賛を浴び、大学の名誉教授の称号を贈られ「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」に選ばれるなどした後、1977年1月、ガンのためロサンゼルスで没した。73歳だった。

美貌と妖艶な肉体と冷徹な知性をもつアナイス・ニンは、男の望む通りの女らしい女としての自分を男に与えながら、いつの間にか相手を自分の影響下に取り込んで、男を教育、養育し、成長させ、それによってみずからも女神として輝いていく、そういう現代的な新しいフェミニズムを体現した先駆だった。
(2021年2月21日)



●おすすめの電子書籍!

『女性解放史人物事典 ──フェミニズムからヒューマニズムへ』(金原義明)
平易で楽しい「読むフェミニズム事典」。女性の選挙権の由来をさぐり、自由の未来を示す知的冒険。アン・ハッチンソン、メアリ・ウルストンクラフトからマドンナ、アンジェリーナ・ジョリーまで全五〇章。人物事項索引付き。フェミニズム研究の基礎図書。また女性史研究の可能性を見通す航海図。


●電子書籍は明鏡舎。
http://www.meikyosha.jp

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 2月20日・志賀直哉の肉体 | トップ | 2月22日・ブニュエルの針 »

コメントを投稿

文学」カテゴリの最新記事