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著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

12月30日・キプリングのジャングル・ブック

2014-12-30 | 文学
12月30日は「小説の神様」横光利一の忌日(1947年)だが、英国初のノーベル文学賞受賞者、キプリングの誕生日でもある。『ジャングル・ブック』の作者である。

ジョゼフ・ラドヤード・キプリングは、1865年、インドのムンバイ(ボンベイ)で生まれた。当時のインドは、英国の植民地だった。両親は英国人だったが、父親が美術学校の教師として赴任するため、新婚ほやほやの夫婦そろって、英国からはるばるムンバイへやってきた、そこでジョゼフが生まれたのだった。
ジョゼフは、5歳のころまでインドですごし、それから英国へ送られ、べつの夫婦に預けられて育った。
16歳のとき、インドへ呼び戻され、インドの新聞社で記者見習いになった。処女詩集を出版し、新聞に短編小説を掲載し、キプリングの文名はしだいに高まっていった。
24歳のとき、彼は英国へもどり、短編小説を量産して、英国でも文名は高まった。
26歳のとき、結婚。結婚式では、花嫁の父親役代理を『ねじの回転』の作者ヘンリー・ジェイムズが務めたという。新婚のキプリング夫妻は、アメリカへ渡り、バーモント州に家を借りて、そこで『ジャングル・ブック』を書いた。
30歳のころ、夫妻はまた英国にもどり、キプリングは詩や小説などを書きつづけた。
35歳のとき、代表作『キム』を発表。英国でもっもと人気のある作家のひとりとなったキプリングは41歳のときに、英語作家として初、また史上最年少でノーベル文学賞を受賞。
その後も執筆活動を続け1936年、70歳で没した。

キプリングは、大英帝国華やかなりし時代の作家という印象がある。インド、英国、米国を行ったり来たりし、一時期は毎年冬になると、南アフリカへいっていた。どこへいっても英語ですませられたのだから、大英帝国の威光たるや、おそるべし、である。


キプリングの代表作『ジャングル・ブック』は、拙著『名作英語の名文句2』でも取り上げた。この作品は、動物が人間のようにふつうに会話する物語である。もうひとつの代表作『キム』は、アイルランド人の子どもが現在のパキスタンの街で成長する話である。異国情緒あふれる物語が、20世紀初頭の英国では好評を博したのである。

現代も国際化時代だけれど、キプリングの時代とはまったく異なった意味の国際化時代になっていて、現代は、情報通信が進んで、英国もインドもブラジルも日本も、みんなごっちゃになってしまっている。たとえば、YouTubeにディズニー映画の『ジャングル・ブック』が流れて、世界各地でいっせいに視聴されたとしても、
「ああ、インドらしい異国風情があっていいなあ」
という受け止め方をする人はほとんどいない。そういうことである。
あるいは、世界で最先端のものを表現するということは、キプリングの時代には、まだ人々によく知られていない土地をのぞいてきて、そこを舞台にした何かを表現することだったが、現代では、自分のいるその国、その土地の個性を徹底的に追求することが世界最先端のものを表現することになる、と、そういうちがいがあると思う。だから、自分たちは、そういう時代認識をもって、目の前の現実に立ち向かうべきなのだろう。
(2014年12月30日)



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