1日1話・話題の燃料

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著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

4月4日・ロートレアモン伯爵の先駆

2023-04-04 | 思想
4月4日は、ロシアの映画監督・アンドレイ・タルコフスキーが生まれた日(1932年)だが、仏詩人・ロートレアモン伯爵の誕生日でもある。

ロートレアモン伯爵こと、イジドール・リュシアン・デュカスは、1846年、南米ウルグアイのモンテビデオで生まれた。父親は当時、現地のフランス領事館の書記官だった。母親はイジドールを出産後、ほどなくして没した。
イジドールはウルグアイで少年時代を過ごし、13歳でフランスへ渡り、リセ(中等教育機関)で学生生活を過ごした。
彼は22歳のとき詩『マルドロールの歌・第一歌』を書き、出版。翌年、続きを書き加えた決定稿を自費出版しようとしたが、その過激さに印刷屋に断られた。
24歳のとき、本名で『ポエジー』を出版し、その直後に没した。死因は自殺説、暗殺説、栄養失調説、疫病説など諸説ある。

六歌から成る散文詩集『マルドロールの歌』は結局、作者の没後だいぶたって刊行された。
「マルドロール」は、この散文詩集の主人公の名で、悪の化身という意味が込められている(mal(悪)、douleur(苦痛)を組み合わせた造語)。

『マルドロールの歌』『ポエジー』を残し、無名のまま夭逝した詩人「ロートレアモン」は、死んだ後になって発掘、評価されだし、アルチュール・ランボーと並び、シュルレアリスムの先駆として尊敬の念を集めるようになった。ロックスターのデヴィッド・ボウイも愛読し、発想のヒントを得ていたらしい。

「ロートレアモン」の名は仏ゴシック作家ウジェーヌ・シュー作の『ラトレオーモン』からとったもので、「ラトレオーモン伯爵」と名乗ろうとしたのが、印刷会社の誤植により「ロートレアモン伯爵」となったと言われているが、諸説がある。
また、イジドール・リュシアン・デュカスは伯爵の家系ではなく、ペンネームとして勝手に伯爵を名乗ったものである。

「こいねがわくは、人間の尊厳が、おまえの尊厳の反映を具現化するものに他ならないことを。だいそれた願いだが、この真摯な望みこそ、おまえにとっての栄光となるのだ。無限なるものの写像たるおまえの精神的な偉大さ、それは哲学者の省察のように、女の恋のように、鳥の天上的な美にように、詩人の瞑想のように、広大無辺だ。おまえは夜よりさらに美しい。答えてくれ、大わだつみよ、わがわが兄弟となってくれないか。身を揺すれ、激烈に…… もっと…… もっとだ。」(コント・ド・ロートレアモン作、入沢康夫訳「マルドロールの歌(抄)」『フランス名詩選』岩波文庫)

フランスには、若くして命を燃やしつくす夭逝の天才が時々現れる。数学者のエヴァリスト・ガロア、小説家のレーモン・ラディゲ、そして詩人のロートレアモンなどである。
(2021年4月4日)


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