1日1話・話題の燃料

これを読めば今日の話題は準備OK。
著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

1月30日・長谷川町子の精神

2020-01-30 | マンガ
1月30日は、『アメリカの鱒釣り』の作者、リチャード・ブローティガンが生まれた日(1935年)だが、マンガ家、長谷川町子の誕生日でもある。「サザエさん」の作者である。

長谷川町子は、1920年、佐賀の多久で生まれた。三人姉妹のまんなかだった町子は、教師の似顔絵やマンガを描いて友だちに見せるマンガ少女だったが、一面、いじわるをする男の子をやっつけるやんちゃな娘でもあった。
14歳のとき、父親が没し、彼女たち一家は上京した。
彼女は高校生のころから、「のらくろ」の作者、田河水泡に師事。15歳で2ページのマンガ「狸の面」を雑誌に発表し、マンガ家デビュー。戦前からマンガの連載をもった。
終戦直後の26歳のとき、福岡県の地方紙に「サザエさん」を発表。以後、この4コママンガは「新夕刊」「朝日新聞」と掲載紙を替えながら、54歳まで連載が続いた。並行して、週刊誌に「エプロンおばさん」や「いじわるばあさん」を連載。
「サザエさん」や「いじわるばあさん」はテレビでドラマ化、アニメ化された。とくに「サザエさん」は、延々と放送が続き、2018年現在も続いている怪物番組となった。
姉とともに、姉妹社を創設して、著作権管理をおこなっていた長谷川町子は、生涯独身を通し、1992年5月、心不全のため、没した。72歳だった。

テレビアニメの「サザエさん」は、長谷川町子が作ったキャラクターをもとに、作品ごとに、別々の人が脚本を担当しているので、作者が没した後も延々と続けられている。この「基本的なキャラクターだけは変えずに、あとは自由に動かして」という方法は、モンキー・パンチの「ルパン三世」の先駆だったといえる。

テレビアニメ「サザエさん」の安定感には、感心させられる。
会社勤めをする夫と、家庭を守る専業主婦という、高度成長時代のごく平凡な、しかし、実際にはありそうもない家庭をほのぼのと描いて、状況がまったく変化しない。
自殺者の増加や、ニートの問題、ホームレスの増加、ブラック企業、介護問題など、時々に噴出してくるあらゆる社会問題を無視して、テレビアニメ「サザエさん」は淡々と続いていく。登場する子どもたちは成長しないし、みんな老けていかない。男たちは、早朝出勤もないし、徹夜残業してくることもない。数字に追いかけられてノイローゼにおちいることも、リストラ対象になることもなく、いつまでたっても定年退職にならない。
一方、作者の長谷川町子が描いていた4コマの「サザエさん」は、つねに時代に敏感に反応し、痛烈な社会風刺がきらめいていた作品だった。その意味で、テレビアニメ版のほうは、本来の「サザエさん」がもっていた批判精神を完全に骨抜きにした、みごとな換骨奪胎の成果と言える。
テレビアニメの「サザエさん」は、古き良き時代の西部の街を見せるディズニーランドのようなテーマパークと同じで、破壊されていまではなくなってしまった「かつてあったもの」を見せて、郷愁を誘うノスタルジー・エンターテイメントの一種である。
テレビを観終わった後、テーマパークを出た後、周囲を見まわしてみる。すると、いま見てきたようなものはどこにも見当たらない。
(2020年1月30日)



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