1日1話・話題の燃料

これを読めば今日の話題は準備OK。
著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

1月4日・夢野久作の蠅

2020-01-04 | 文学
1月4日は、官公庁御用始めの日(土日に重なると月曜日に順延されるけれど)。この日は、点字を開発したフランス人、ルイ・ブライユが生まれた日(1809年)だが、異端の幻想作家、夢野久作の誕生日でもある。

夢野久作は、1889年(明治22年)に、福岡で生まれた。出生時の名は、杉山直樹。父親は右翼系政治団体「玄洋社」の創成期を担い、中央の政界や軍部にも顔のきいた大物、杉山茂丸だった。
子供のころ、祖父から四書五経など中国古典をたたきこまれたという直樹は、上京して慶応大学に入学。大学在学中に陸軍の将校教育を受け、陸軍少尉の位を得た。
24歳のとき、大学を中退し、故郷福岡で農園をはじめたが、うまくいかず、上京して寺の修行僧になったり、九州にもどって新聞社の記者をしたりした後、30歳前後にルポタージュや童話を書きはじめた。
37歳のとき、雑誌の懸賞小説に『あやかしの鼓』が入選し、小説家としてデビュー。「夢野久作」というペンネームは、父親が彼の作品を読み、
「夢の久作の書いたごたる」
と感想を漏らしたところからという。
『押絵の奇蹟』『ドグラ・マグラ』などを書いた後、1936年3月、脳溢血のため没した。47歳だった。

長編『ドグラ・マグラ』は、狂人が書いた推理小説という奇抜な設定で、日本三大奇書のひとつに数えられて名高い。
その昔、聞いた話によると、『ドグラ・マグラ』は発表当時、推理小説界の大御所、江戸川乱歩に酷評されたそうだ。でも、後に乱歩は、
「あのとき、自分は頭がどうかしていた」
と、評価を180度変えたらしい。

中学生のころ、数学教師があるとき、授業中にこんなことを言った。
「宇宙空間はねじれているという学説があって、それによると、たとえば、どこまでも見える望遠鏡で、なにもない宇宙空間をのぞくと、自分の後頭部が見える」
おもしろい話だなぁ、と感心して聞いたが、後にこれは夢野久作の『猟奇歌』からの借用だと知れた。
「無限に利く望遠鏡を
 覗いてみた
 自分の背中に蠅が止まつてゐた」(夢野久作『猟奇歌』青空文庫)
中学時代の数学の先生が猟奇歌を読んでいたかどうか、たしかめたいけれど、すでに鬼籍に入られていて、たしかめようがないのは、そういう望遠鏡を持っていないのと並んでとても残念である。
(2020年1月4日)



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